旅立ち
リムルムント村には7日に4回、遠征用の荷車が訪れる。
それぞれが四つの王国を順々に巡っていく。
訪れる順番は荷車によって違うため、事前に調べておく必要があるけどね。
地球では荷を引くのは馬が一般的だ。
この世界には胴の長い猫みたいな動物が使われる。
総称は"ウィンガル"と呼ばれ、その動物が引く荷車はガル車と呼ばれる。
最初は馬車とよく言ってしまい、変な顔で見られたものだ。
今、アスガルド王国行きのガル車が目の前にある。
つまり、皆が王国に出掛ける日が訪れたということだ。
引率者代表としてナナリーに遠征費を手渡しておく。
そこには、私からチビ達へのお小遣いも含まれている。
「お金の使いどころはナナリーに任せるよ」
「了解した。無駄遣いしないように私が管理しよう」
「今回、村長が奮発して大分多めに入れてるみたい。多少の贅沢は許されるかも」
「では、最終日に余ったら盛大に使うか」
「うん、頼んだよ。ナナリー先生」
私の言葉に頬を掻きながら微笑むナナリー。
急に先生って呼ばれるのは慣れないよね。
「ナナリー先生! 荷車のおじさん、準備出来たってさ!」
「分かった、すぐ行こう」
「皆を困らせちゃ駄目だよ、ソル」
「わーってらい! リルア姉ちゃんも俺達が居ないからって調子乗るなよ!」
何だろう。
先生呼びされないことに一抹の寂しさを覚えてしまうのは。
考えてみれば、本当に小さい頃から世話していたからね。
お姉ちゃんとしか見られないんだろうな。
ナナリーに急かされ、ソルとルナが荷車に搭乗する。
ソフィアは先に乗り込んでたし、後はクリスだけ。
そう思った時、気にしていた人物が私の前に現れる。
いつも通り、柔和な笑顔と白杖を右手に持って、
「お留守番お願いね、ソフィア」
「クリスも皆のこと頼んだよ」
「心得てる。それじゃあ、僕も乗ろうかな」
「ちょっと、待って。クリスってナナリーの料理食べた?」
「まだ、食べてないかな。作ってくれるって話だったけど、間が合わなくて」
タイミングが噛み合わないというより、ナナリーが土壇場で逃げてるんだろう。
ガル車を使えば王国まで5日掛かる。
往復と王国の滞在時間も含めれば15日間程度の旅路となる予定だ。
「クリスから催促してみたら? 多分、喜んで作ると思うよ」
「うーん、何か気のせいかもしれないけど、避けられて気もするんだよね」
相変わらずクリスの前では純情乙女モードに突入するらしい。
先生として同僚となったわけだし、助け船を出してやろうかな。
「そもそも、クリスがご飯食べたいって言ったから村に来たんだよ」
「え、そうなの?」
「クリスがあまりにも期待しちゃうから、ちょっと重荷になってるっぽいね」
「成程!」
「気軽にお願いしてみなよ。一緒に作るってのもいいかもね」
「そうだね、僕も料理には興味あるから教えて貰おうかな?」
「いいと思うよ。そんな感じでナナリーとも親睦を深めてきなよ」
「有難う、リルア! それじゃ、行って来るよ!」
「うむ、行ってら!」
ナナリー。
私、頑張ったぞ。
後はアンタ次第だ。
クリスが荷車に乗り込むと、馭者がウィンガルに軽く鞭を入れる。
同時に鳴るのは出発の合図を示す笛だ。
ゆっくりと進み始めた荷車の小窓から、身体を半分出して手を振るチビ達。
見送りに来た者達も彼等に大きく手を振り返す。
何も起きないとは思うけど、やっぱり心配が先に立つよね。
本人の身がというより、暴走して他人に迷惑を掛けないかなという心配。
まあ、ナナリーとクリスが何とかするでしょ。
ソフィアは暴走する側に勘定しているので、期待はしない。
楽しくなるとテンション上がっちゃうタイプだからね、あの子は。
「見送りも済んだことだし、修行に入るとしますか!」
新たに繋がった異世界マーシナリー。
そのラインを確かなモノとするため、ベースである"マキナ"の取得を目指す。
「村外れの平原にでも行って、頑張りますかね」
それから三時間余り。
出来ん!
まあ、甘い修行ではないことは認識していた。
しかし、今回のマキナは少し勝手が違う。
「機械を強化したり、作成するための力だったとは……」
異世界アルファには機械がそもそも存在しないんだよね。
いきなり、大掛かりな機械道具を作成するのは不可能っぽい。
まずは、小物作りから始めるのが手っ取り早そう……。
そのための、ネジだったり、鉄板だったり、素材を作る技術が私には無い。
マキナも極めれば、一から全てを作成できる。
そこに至る為には基礎技術を身に付ける必要があるわけで……。
「ソフィアに部品作らせて、単純な組み上げから練習すべきだったよね」
だが、ソフィアは旅立ってしまった。
諦めるか。
いや、居たな。
村にはもう一人の錬金術師が居る。
属性が人ではなく魔物で、駆け出し錬金術師というのが気になるけど。
「ケットシーのミャンに頼んでみるかな……」
ソフィア曰く、私の一番弟子らしい……。
村長曰く、猫耳は正義らしい……。
リムルムント村北区。
人類では世にも珍しい魔物と人が共存する地域。
「いつもの面子も居ないことだし、他の皆と親睦を深める良い機会だよね」
彼等の力を借りるため、私は村に戻る為の準備をする。
今から二週間、色んな人とコミュニケーションを取りつつ、修行に励みますか。




