鬼ごっこ(中央区その2)
料理器具達が食材をキャッチしていく中、気になることがあった。
先程から見えないクリスとソフィアについてソルに尋ねる。
勿論、移動しながらだけどね。
「クリスとソフィアはどうしたの?」
「兄ちゃんなら、店の人達に氷を配ってから来るって。ソフィアは知らない」
律儀だよね。
村には製氷機なんてないから、店を営む人達は氷があると助かるのだ。
毎日、クリスかソフィアが魔法やら錬金術やらで配達をしている。
元々、鬼ごっこに参加予定では無かったから、サポート重視で考えてるっぽい。
木漏れ日の道を抜け、いよいよ噴水広場に到着。
朝方だけど、幾人か村仲間の姿が見える。
ベンチで日向ぼっこ中の老夫婦。
早朝ランニング中の若者。
絶賛、出勤中っぽい急ぎ足の人達。
今からお騒がせします、すみません。
広場に出た瞬間、ナナリーが指揮者の如く調理器具達に命じる。
「料理を作りなさい!」
「はい? 突撃してくるのかと思った」
「料理器具、本来の使用法を守らないのはご法度なのよ」
勝手に料理器具が調理を開始。
その間にもナナリーとソルが私へと肉薄する。
よく分からないけど、まずは当人達を撃退だ。
まずは、ソルが先陣かな。
料理スキルが未知なので、一人はスピリットで無力化しておくか。
ソルの脚にでも触れて、歩行機能を数十秒くらい奪えばいい。
そう思い脚に手を伸ばした時だ。
ソルが私の腕目掛けて左のショートフックを繰り出す。
まずは、迎撃。
セオリー通りの戦い方だ。
けれど、スピリットの攻撃は霊体にダメージを与える。
予定変更、左腕の機能を奪うか。
だが、それは叶わなかった。
逆にスピリットの能力が削られたのだ。
打ち消しではなく、効果減衰。
「一度見せた技は対処できるみたいだぜ! リルア姉ちゃん!」
追撃してくるソルの攻撃を回避しながら、何度かスピリットを試してみる。
効果がドンドン削られていくんですが、それは……。
はい?
そんなんアリかよ!
ソルの左手に宿っているのは魔力だが普通のそれとは違う。
よく分からないけど、スピリットに干渉できるよう組み替えてっるぽい。
ここまで来て、何となく勇者と魔王の特性が分かって来た。
勇者は受け性能特化。
同じ技を二度見せると何らかの対処法を発見して、迎撃に組み込んでくる。
魔王は攻め性能特化。
一度見た攻撃技を解釈して、自分の技としてしまう。
勇者と魔王って相性悪いよね。
お互いの手を潰し合う様な特性というかさ。
魔王にジリ貧感があるけど、技のレパートリーが増えれば複合技も可能でしょ。
攻撃方法は無限に広がっていくわけで……。
そうこうしている間も料理作成は継続中。
攻撃中も、ナナリーが火や水などの超低級魔法で料理器具達をサポートする。
戦闘しながら料理してるとか、凄い光景だな。
その料理を阻止しようと近寄るが邪魔をするのはチビ勇者ソル。
危機察知能力、防衛技術が半端じゃない。
危ういと分かれば引くが、完全には引かずに一定の防衛ラインを保つのだ。
少し本気を出せば突破できそうだけど、それはしない。
授業の一環だからね。
その時だった。
「輝け、《フードメイク》!!」
ナナリーの言葉と共に食材に光が注がれる。
そして、遂に完成した謎の料理。
ナナリーさんよ、そのオムレツみたいなのどうするんですか……。
不意に黄色の物体が宙に放り投げられる。
犬のフリスビーキャッチの如く、パクリとそれを食べる少女。
魔王である彼女は右の口角を最大級に釣り上げながら、
「我の最強技を喰らうがいい!」
村半分くらい消し飛ばしそうな、漆黒の雷撃がルナの両手に宿る。
詠唱早くね?
クリスでもここまでの高速詠唱なんて不可能なんだが……。
宙に浮かぶチビ魔王を見ながらナナリーが笑う。
「戦闘中に料理を完成させたら駄目でしょ、料理人に対してそれは悪手よ」
あの、オムレツ……詠唱高速化か破棄あたりの効果を持っていたってこと?
戦闘中に課金アイテム作ってやがった!
そんなん反則でしょ!
それにしてもだ。
普通に大技をぶっ放す気だな、ルナ。
周囲の状況を考えろって説教しなきゃ……、!?
突如として背後に現れた気配。
絶妙に私の攻撃が届かない場所に、クリスとルナがいる。
空間転移。
ルナは村に被害が出ないよう地面とほぼ平行にして、身体を空に傾けながら、
「クックックッ、クリスが本気で攻撃していいって言うから撃つね!」
若干、口調が乱れる魔王ルナ。
その背後には彼女を支えながら、私に対して笑顔で手を振るクリス。
ヤバいな、コレは喰らうわ。
「暗黒魔法デッドリークロス!!!!」
両手を前に腕を組み、放たれる雷撃はドリルの如く回転しながら疾駆する。
直撃。
空に描かれる黒の咆哮。
それは、雲を軽く二つに裂く程の威力を秘めていた。
聞こえるのは、チビ達二人の歓声だ。
「やった! リルア姉ちゃんを倒した!」
お前等、趣旨変わってるからな。
少しばかり、ピンチを演出してみたが止めにする。
与えるのは絶望だ。
身体に纏わりつく雷撃を気合一つで掻き消す。
その光景に目が点となる教え子達。
「化け物がいる!」
「ずるい、ずるい! リルア姉ちゃん、ずるい!」
「君達も大概だと思うんだけどね。ところで、ナナリーさんこそズルくない?」
ナナリーが課金アイテム作れるとか知らんかった。
課金って言うのは、言葉のアヤだけどさ。
「不便な能力だ。相手の体調に合わせた食事にしないといけないからな」
「事前に作る事は叶わないってこと?」
「そうだ。万全を期すには食材や料理器具とか、必要なモノが多すぎる」
確かにダンジョン攻略には不向きかもね。
事前に食材を運んでも、相手の体調次第で必要なモノが変化するとかさ。
大体、皆の力が分かった所で鬼ごっこを再会しよう。
スタートと同じ様に大跳躍で距離を取る。
いよいよ北エリア、終点に向かうわけだけど簡単に終わらないよね。
「そろそろゴールが近いよ! 気合入れなさい!」
皆を鼓舞しながら、北へと走る。
ソフィアが居ないのは事前にそこで準備しているからだろう。
そして、クリスも今のところ大人しすぎる。
最後は本気の二人を相手にしつつ、ゴールを目指すことになりそうだよね。
他三人もまだまだ侮れないし、気合を入れ直さないと。




