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鬼ごっこ(南地区)

「準備は良い? では、……始めっ!」


 風が吹く。

 背後に感じる気配は小さいモノが二つ。

 鬼からすれば、最初に主役である二人を突っ込ませた格好だ。

 授業の意味を解釈して、クリス辺りが提案したとすれば流石と言う他ない。

 

 ソルとルナ。

 小さな二人組が私の背後を取る。

 速度はラットスパイダーの女王と対峙した際のナナリー並み。

 12歳、20レベル程度が出せる速さじゃない。

 勇者と魔王のスキル。

 デフォルトのステータス補正が100レベル以上あるとか、かなりチートだ。


 それに、ちゃんと先を見て動けている。

 ソルが首元、ルナが左足首に手を伸ばす。

 上段、下段を同時に狙う動きだ。

 けれど、まだまだ遅い。


 二人の視界からは急に私が消えたように見えただろう。

 私の視界には二人の背中が見えているワケで、


「じゃ、そろそろ村の散歩に行ってくるね」


 トン、とそれぞれの肩を両手で軽く押す。

 前にツンのめるような形で躓く二人。

 同時に私は後方へと大跳躍を決めていた。


 村の北側を背に鬼である5人と南口を俯瞰する。

 今は村の皆が一日の仕事に向かう時間。

 南の入口から村外れにある大農園へ向かう、おじさんの集団が見えた。

 久しぶりの鬼ごっこだな、というように笑顔で鬼である5人に声援を送る。


 その声を受け、高速で突貫して来る少女がひとり。

 ナナリーが地面を這うように此方に距離を詰めてくる。

 対する私は木々を渡るように移動しており、

 

「それは悪手かもね」


 私の向かう先は村の南にある農作物格納棟が並ぶエリアだ。

 リムルムント村の収益は農作物が大半を占める。

 なので、それらを格納する石造りの倉庫は頑丈で背が高いモノが幾つかある。

 背が高いのは収益を守る為の見張り台を兼ねているからだ。


 というわけで、地面に着地する気なんかサラサラない。

 高い建物を渡り歩いて、村の最南端エリアを抜けるつもりでいた。

 

 ナナリーが倉庫地帯に到着する。

 朝の光が複数の影を作る中に入り込むと、何か知らんが突然に姿が消えた。

 そういえば、謎の歩法スキルとか使って戦闘してたっけ。

 今回も謎のスキルを使用したに違いない。


 直観的に影を描く場所は危険と棟の壁を蹴り、宙に身を投げ出す。

 その判断が功をそうした。

 影からスーッと手が伸びて来たのだ。


 あっぶねぇ!

 影の中に身を隠す歩法スキルか!

 かなり取得難易度高めのスキルでしょうよ、それ。


「チッ、あともう少しだったのに」


 ナナリーが悔し気に舌打ちをする。

 いや、流石80レベル台ともなると何をしてくるか分からない。

 というワケで上。


 降って来る気配は三つ。

 クリスとチビ達二人。

 空間転移で上空を確保ですか。


 今回、最も厄介なのは空間転移魔法の存在であろう。

 だって、距離を稼いで逃げても、すぐに後ろにコンニチワでしょ。

 過去の鬼ごっこよりも、作戦の幅はかなり広がっている筈だ。


 ナナリーの影移動の件もあるし、舐めプは禁止。

 全力を出そう。

 スキルに属さない、世界を構成する根源となる力がある。

 私と鑑定スキルであるサクラは、それらを総称して"ベース"と呼んでいた。


 魔物使いを倒した時に使った、異世界ユウナの"ベース"を使う。

 私達の世界では単なるスタミナとして使用されるモノ。

 それを【オーラ】に変換して、攻撃、防御、回復にと意味ある力に昇華させる。

 オーラは身体能力強化とか超近距離に影響を及ぼす技が多い。


 下からはナナリーが壁を蹴り上がって。

 上からは落下の速度に乗った三人が。


 上下から挟む様に鈴へ目掛けて手を伸ばす。

 お互いが完全に空中へと身を投げ出している状態だ。

 急激な方向転換など不可能。

 それでも、私は行く。

 オーラで作り上げた力場を踏み台として、真横に飛んだのだ。


 有り得ない挙動に驚きを見せる面々。

 ただ、ひとりを除いてはだけどね。


「オーラを使って逃げるのは読んでいたよ」


 盲目のクリスが気配のみで私の右腕を縛り上げる。

 鈴は奪われないようにと身を捩ったが、全てを躱すのは不可能だったか。


 彼の手から伸びる無数のリボン。

 美しき色合いを見せる線は、詠唱を補助する機能のみではないことを示す。

 意思を宿すかの如く、縦横無尽に駆け回り、時に相手を縛る。

 

「女の子を縛るなんて、大胆になったものね」

「僕の幼馴染に女の子はいない筈なんだけど」


 本当に言う様になった。

 若干、カチンと来たが感情に流されてはサクラの時と同じ様に罠に嵌る。


 まあ、既に対策は打ってるんだけどさ。

 リボンを握るクリスの腕が急にだらりと落ちる。

 物理的損傷では無く、霊的損傷を狙った不可視の攻撃。

 命ある者は肉体と霊体、二つの身体を持つとされている。

 そのクリスの霊体の方に攻撃を加えていたのだ。


 異世界ヴォイドのベースである【スピリット】。

 

 日本語的に置き換えるなら霊力とすれば分かりいいかな。

 ヒーロー状態では繋がる世界の分だけ恩恵を得ることが可能だ。

 逆に、繋がるには"ベース"を取得しないと干渉することが出来ない。


 つまり、村人リルアの時に一生懸命"ベース"を取得するのだ。

 その世界を思い、世界の根源を理解する作業となるためレベルは一切不要だ。

 取得出来れば、ヒーロー時にその世界の子供達と繋がることが可能となる。


 世界を知る毎に力を得る。

 ヒーローっぽくていいんじゃないかな。

 けれど、覚えても普段は使用しないけどね。

 私は異世界アルファの住人。

 村人として暮らすだけなら、そういった力は不要だと思うから。


 そんな感じで私語りしても面白みも何ともない。

 横っ飛びの時に、クリスの右腕を狙ってスピリットによる攻撃を加えていた。

 リボンを飛ばそうとする微かな気配を感じたからね。


 危機を脱した私を応援する声が聞こえる。

 やたらガタイの良い集団。

 村や作物倉庫を守る自警団の人達だ。

 私のヒーローに触れ、村に住む様になった冒険者達が多数を占める。

 戦闘経験の豊富な彼等は昼夜村を守る為に、日々奔走してくれている。

 凄く有難い存在なのだ。


「手加減しろよ! ヒーロー!」

「今は普通の村人だから!!」

「こんな縦横無尽に暴れ回る村人がいるかっての、ガハハハハ!!」


 確かに、ぐうの音も出ません。

 今はしょうがないじゃんね。

 だって、勇者と魔王の力を確かめないといけない立場だからさ、先生として。

 だから、今だけノーカンなのです。


 そうこうしている内に倉庫エリアを抜け、村の中央広場まで来たみたい。

 ソフィアの姿が見えないのが気になるけど……。

 さて、鬼ごっこも中盤戦。

 どうでてくるだろうね。


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