鬼ごっこ
今日も元気にレベルが上がった私は村の最南端に来ていた。
心情は落ち込み気味だけどさ……。
「皆、揃ってるよね、ソル、ルナ。準備体操は済ませた?」
「「勿論!」」
固有スキル《勇者》を授かりし男の子、ソル。
固有スキル《魔王》を授かりし女の子、ルナ。
二人とも既に埃まみれなんだけど、喧嘩してたな。
まあ、ある意味二人なりの準備体操をしたと解釈していいのかも。
「クックックッ……。遂に我の力を解放する時が訪れたのだな」
右手で左目を覆い、痛い台詞を堂々と披露する少女。
サファイア色の髪にツインテール。
12歳にしては実に大人びた顔立ち。
だが、痛い。
地球の知識で例えるなら邪気眼持ちと言えばいいのかな
さらに、分かり易く表現すると中二病。
「イダッ!」
そんな、イキがる少女の後頭部を叩く男の子。
彼のチャームポイントはいつも、頭に巻かれているバンダナ。
種類を持ってるみたいで毎回、違う。
身体の弱いお年寄りの手伝いとか、村の為に何かしてる光景をよく見る。
だからこそ、勇者に目覚めたのではないかという程に優しい子だ。
だが、ルナには容赦ない。
普通に手を出すあたり、魔王とは犬猿の仲なんだと思う。
二人には覚醒した日以来、スキルを使用しないように言いつけていた。
特に魔王スキル持ちのルナ。
力に飲まれ、本当の意味で魔王化する可能性も捨てきれない。
けれど、いつまでも自分の能力に向き合わないというのは不可能だ。
だから、今日この日だけ全力でスキルを使うことを許可していた。
先生として、スキルの能力を把握しておく必要があるからだ。
模擬戦とか色々考えたけど、昔に幼馴染二人を鍛えた方法を用いることにする。
「さて、鬼ごっこを始めるよ」
鞄から幾つかの鈴を取り出す。
首に、腰に、左足首に。
各箇所にひとつずつ鈴を装着。
その様子を見ていたチビ勇者が、
「村を南北に進む間に、鈴をひとつでも取ればいいんだろ?」
「そうだよ。必ず二人で連携すること。じゃないと、取れないと思うからさ」
「フッ、舐められたモノだな。勿論、取れば報酬があるのだろう?」
「王都に連れて行ってあげる。好きなモノも多少は買ってもいいよ」
「「やったー!」」
王都に行くことを日本風に例えるならショッピングモールに行く感覚に近い。
普段、村では見れない芝居や珍しいモノが沢山売っている。
報酬を聞いて目がギラギラと輝く二人。
勇者と魔王。
恐らく、大賢者並みのチートスキルを想定した方が無難だろう。
そう思った時だった。
村の入口から幼馴染プラス見たことのある女子が此方に向かってくる。
そういえば昨日、ソフィア達が民族を迎えに行くって言ってたな。
まさか、ダンジョン攻略組で最初に村を訪れたのが民族とは思わなかった。
私達に気付いたソフィアが開口一番に、
「懐かしい! 鬼ごっこじゃん!」
「よく、リルアが企画してくれたヤツだよね」
クリスとソフィアが障害を持った直後くらいかな。
負けたくないって泣きながら頑張ってた二人。
リハビリかつ村の人に知って欲しくて、村中を舞台に鬼ごっこしてたっけ。
「結局、一度もリルアから鈴取れなかったなあ」
「確かに、最後の方なんてリルアをどう殺、倒せばいいかって考えてたよね」
おい、ソフィア。
今、物凄い物騒な言葉が聞こえたんだが気のせいだよね。
「普通に疑問なんだが、今の二人なら鈴を取れたりするのか?」
皆の言動から状況を察した民族が……、民族じゃない……だと。
普通にワンピースとか女の子の恰好やんけ。
私の悲し気な視線に気付いたのか民族が、
「な、何だ、その目は? 私に何か付いているのか?」
「もう、ナナリーって呼ぶことにするよ」
「はあ!? 逆に今まで何て呼んでたんだ、貴様!」
民族なんて言えるわけがない。
ナナリーもしつこく追及はせず、すぐに澄まし顔に戻る。
大人だな、いや、若干睨んできている。
そういえば、ダンジョンでも班分けの際に睨まれてたよね。
そもそも、嫌われてるのかな。
ナナリーを見ると何やら悪い事を思いついたのか不敵な笑みを浮かべている。
「ではこうしようじゃないか? 1対5で鬼ごっこだ」
はっ?
何を言ってるんだ?
君は料理スキルだが、賢者、勇者、魔王とかいうチートが三人おるんやぞ。
まあ、ソフィアがイレギュラーなんだけどさ。
逆に怖いというか……。
ソフィアは昔の事件でスキルが文字化けした状態になっているらしい。
つまり、よく分からないモノに変質している。
右腕が異世界を旅している時点で半分、多元スキル化してるんだよね。
その影響なんだと勝手に解釈している。
だけど、悪くない提案だと思う。
優秀な幼馴染とナナリーなら不測の事態が起きてもフォローしてくれるだろう。
主に村の被害防止についてだけど……。
「しょうがない……。1対5でやろうか。でも、多少は本気を出させて貰うよ」
不気味なのは幼馴染の二人。
強い敵が現れた直後、裏で物凄い修行する傾向にあるんだよね。
自分の足りない所を重点的に鍛えてくるというかさ。
負けず嫌いとも言うよね。
今回も大分、レベルアップしているに違いない。
「少し作戦考える時間をあげるね」
「いいの? 流石に舐めすぎじゃない?」
「大丈夫、大丈夫。半分は遊びだし、気楽に全力で行こうよ」
ルールは鬼が私から鈴を取ること。
タイムリミットはリムルムント村を南から北へ横断する間に限られる。
つまり、南の入口からスタートして、北の入口にゴールすれば私の勝ちだ。
強力な実力とスキルを兼ね備えた者達。
彼等を相手に私は逃げ切れるのだろうか。
正直、余裕だと思ってるけどね。
多分……。




