ある日の朝
見下ろせば沢山の男の子達が顔を上げている。
その光景に頷き、私は滑り台の上で高らかに名乗りを上げた。
「ななつのほしの、名のもとに! サイファード、けんざん!」
意気揚々と息巻く私に対して、男の子が文句を言う。
「さくら、女の子だろ! おかしいぞ!」
「そうだ! サイファードは男がやるもんだぞ」
これは、記憶だ。
リルアではなく、九重桜であった頃の記憶。
辺りを見れば、昔に通っていた保育園だということに気付く。
私って、こんなに小さい頃から"ヒーロー"に憧れていたんだな。
場面は変わり、小学、中学、高校へと九重桜は成長を遂げていく。
合間に挟まれる回想シーンはヒーローに関する記憶ばかりだ。
友達と喧嘩して孤独を得た時、自分はヒーローなんだと鼓舞した小1の秋
貯めたお年玉で戦隊モノのブルーレイBOXを買った小3の冬。
自己紹介でヒーローが好きと公表し、かなり引かれた中1の春。
自分の趣味に疑問を感じ、それでも好きなんだと開き直った高2の夏。
結論から言って、九重桜は死の直前までヒーローが大好きだった。
そして、私が死を迎えるきっかけとなった運命の場所へ記憶が導かれていく。
児童養護施設。
虐待や身寄りのない子供達を擁護するための場所。
特に私が勤務していた施設は少し傾向が違っていた。
所属する半数の子供が身体に何かしらの障害を抱えていたのだ。
何故、そのような子供達を多く預かっているのか。
それは、勤務する職員達が何らかの障害に関するエキスパートであったからだ。
国家主導により集められた職員とハンデを抱えた子供達。
社会人一年目。
緊張した面持ちで施設の門へと足を踏み入れる私がいた。
ここで、視界が徐々にフェードアウトしていく。
何故という疑問と同時に心の中で、戻るのかという思いが交錯する。
夢の世界。
私の心は異世界アルファの住人であるリルアへと舞い戻っていく。
そして、
『おはようございます。リルア様』
「ゔぅぅ、おはよ」
布団から半身を起こせば鏡に映る誰かが見えた。
黒髪、胸無し、年齢の割にロリっぽい可愛らしい少女。
一瞬、誰だと思ったがすぐに、私だな、と思いボリボリと頭を掻く。
眠気のため、暫くボーっとしていたが、
『早く準備をしたらどうですか? 今日は子供達と約束があるのでしょう』
ピンク髪の妖精が私の周囲をくるくると飛び回る。
確かに、と重たい身体を何とか奮い立たせベットから降りると、
テレテテッテッテッテー!
頭に鳴り響く謎のファンファーレ。
そして、何か知らんけどレベルが107になった。
一瞬にして、霞の掛かった頭が急に覚醒へと導かれる。
ちょっと待て、おかしいだろ!
「何をやった……」
『いきなり私を疑うなんて、全くもって酷い話ですね』
「サクラしかいないでしょ……、説明しなさい」
『自宅に楽しいダンジョン罠を配置してみました』
「楽しくねぇから……」
『長年一緒にいた私のみが作れる罠です』
「どういうこと?」
『魔力やオーラなどの詳細な情報が必須のため、リルア様しか効果がないです』
ジロリと妖精を睨むと、彼女の視線が足元へと注がれる。
"LvUp"と書かれた謎の四角マスが……。
周囲を見れば、部屋一面に張り巡らされた謎の四角マス達。
踏んでないモノは"?"マークが描かれている。
私の家はどこぞの不思議なダンジョンに改良されたようだ。
踏んだらおにぎりがデロデロになったり、毒矢とか飛んでこないよな。
『試しに、もう一歩進んでみて下さい』
「……何のマスがあるの?」
『レベルアップマスです』
ふざけんな。
早朝から謎のレベルアップ二連発とか止めて差し上げろ。
『恐らく踏んでも上がらないでしょうね』
「んっ?」
『リルア様は多元スキル"HERO"によって普段は経験値が入らない身です』
「知ってるよ。私の認知が大きく影響しているんでしょ」
『はい、その通りです』
つまり、レベルアップマスが家に配置されていると認識すれば上がらない。
そう言いたいのだ。
私も上がらない確信があったので、敢えて踏んでみる。
開示されるのはレベルアップマス。
やはり、思惑通りレベルに変化は見られなかった。
『前回の黒竜は私の機転により、レベ30の雑魚に見せたので上がりましたよね』
「それも認知の誤解を招いた結果か……。そして、機転とか誇らし気に言うなし」
子蜘蛛を払った時も急に顔前に出現したから手を出したんだっけ。
つまり、村人リルア状態でのレベルアップは私の認知依存ってことよね。
けれど、ひとつ矛盾が生じる出来事を思い出してしまう。
ダンジョン攻略時の解析陣に引っ掛かった件だ。
レベル50以上と思われずに酷い目にあった。。
あの時は死ぬほど慌ててたから、鑑定スキルの言いなりだったんだよね。
そして、自分の意思で悪霊を退治してレベルを上げることが出来た。
「前にさ、悪霊を大量に成仏させた時あったでしょ? あれは、何で上がったの?」
『どうやら、莫大な経験値を取得するとバッファオーバーフローするようですね』
コンピューターの世界かよ!
桁数多すぎて、経験値が溢れるってどんだけ大量取得してたんだって話。
意外に盲点だらけだよね、多元スキルって。
『莫大な経験値さえ入手できれば、村人リルア様に経験値が流れ込むようですね』
「経験値バフ掛かったら超警戒モードに入るわ」
『そしたら、他にも経験値を得る方法を発見するのみです』
そう言うと、サクラは先行して寝室のドアを開ける。
サクラなら多元スキルを騙す術をすぐに見つけそうで怖いな。
そう思って一歩を踏み出した時だ。
テレテテッテッテッテー!
レベルが108になった。
三歩も進まずに床の存在を忘れるとかニワトリ以下の知能なのかな?
悔しさの余り、前に居るであろう妖精を睨む。
フッと勝ち誇った笑みを浮かべるサクラ。
コイツ、何気なく先行してドアを開けることで私の認知を誘導させやがった。
陰湿な鑑定スキルのせいで、家の中が不思議なダンジョンになった件――。
現実干渉可能となった鑑定スキルは、さらなる苦悩を提供してくれそうです。
家の床を踏む時は常に意識を集中させないとね。
寝起きとか、たまに忘れてそうだけど……。
……うん、絶対に無理だわ。




