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名前

 鑑定スキルが突然変異で妖精化してしまった。

 周りに説明が面倒なので鞄の中へ。

 物分かり良く隠れる辺り、そういった場の考え方は弁えている。

 私にも色々と弁えてくれませんかね。

 

 その後、ポテプの森へ向かい野営地にて騎士達に事の顛末を説明する。

 勿論、魔物使いを大罪人として突き出すことも忘れてはいない。


 騎士達に話によれば近々ダンジョンの再調査が行われるらしい。

 多分、半分くらいは水没してるし、最奥に辿り着くことは叶わないだろう。

 秘宝として噂されていた秘薬の件は伏せておいた。

 密かに入手してたとか、後々話が面倒だ。


 多分、再調査を通してダンジョンの正式名称が決まるんだろうな。

 私の中では既に決まっている。

 スキルを除外する秘薬。

 私の記憶から除外したい忌まわしき場所。

 勝手に"イクスクルードダンジョン"と名付けた。

 後にどんな名前が付いても私の中ではこう呼び続けるんだろうな。


 騎士と話していて意外に思ったことがある。

 スカウトの件について話が無かったのだ。

 恐らく裏では話し合いが行われていると、鑑定スキルが言っていた。

 ドラフト会議かっての、全く。


 全ての報告を終えると戦場を共にした冒険者達と別れの時が訪れた。

 皆、決まってリムルムント村に遊びに来ると言っていたっけ。

 だから、すぐに再会できるかな。

 私のスキルについて聞きたいことが山ほどあるんだろう。

 今まで物語に巻き込まれた人達はやたら再会したがる傾向にある。

 そして、いつの間にかリムルムント村に住み着く人もいるんだけどね。

 今回も一人、二人くらい村の仲間が増えるのかな……。

 新居を用意するのは私の役目。

 原因は私にあるからなんだけど、お陰で家造りは大分得意になったよね。


 そんなこんなで、ポテプの森から帰還して10日が経過しようとしていた。

 今日も今日とて、リムルムント村はいつも通りである。


 陽が昇る前に行う地獄の早朝基礎トレを終えて、中央広場へと向かう。

 カフェ"サンタマルガ"。

 毎日欠かさず、私が朝食を取る為に訪れる場所だ。

 ドアを開けると、赤毛の錬金術師が先に食事を取っていた。

 ソフィアは私に気付くと、


「相変わらず、死にそうな顔して……。ていうか、凄い汗ね? 何をしたの?」

「……はあ、今日は火山地帯で死ぬ一歩手前まで追い込んでみた」

「何故にそんな場所で基礎トレを……」

「レベル100台突破してさ、HEROに経験値入る場所が過酷な所しかないの」

「えー、引くわ……。HERO強すぎだし、鍛錬しなくてもよくない?」

「それは駄目! いつ如何なる時に悪が出現するか分からないでしょ!」

「そういうところ真面目だよね……。基本、ワンパンでしょうに」

「悪を挫くためには努力が必要なの。日常は普通の女の子でありたいけどさ」

「なら、早くご飯を食べて、風呂に入ってきなさい」

「お母さんみたいね、ソフィア」

「普通の女の子は、早朝から汗臭くありません。目指すんでしょ、普通の女の子」


 はいはい、と2つ返事で席に着く。

 おばちゃんにいつものサンドイッチを注文して、テーブルの上に突っ伏す。

 最近、本当に基礎トレが辛い。

 レベルが上がりすぎて、鍛錬の質を上げたり、環境を変えたりで大変なのだ。

 それもこれも、アイツのせいだ。

 

『おばさま。これを入れてはどうでしょうか?』

「何だい、この草は?」

『疲労抜きの薬草です。リルア様は大層、疲れているように見えるので』


 おい、何で食堂にお前がいる。

 そして、さらりと謎の草を混ぜようとしてるんじゃない。

 

 妖精の姿を得た鑑定スキルが最初にしたこと。

 それは、村人との積極的なコミュニケーションである。

 まずは外堀を埋めてから動くという、狡猾な作戦に打って出るつもりなのだ。


 暫くするとおばちゃんが朝食を運んでくる。

 いつものサンドイッチから謎の草が飛び出ていますね、はい。

 何かこの草、今ちょっと動いたような……。

 草かどうかも怪しいじゃない、コレ。

 何を食べさせるつもりだ。

 恐怖のサンドイッチを目の前に私は幼馴染に気になっていたことを質問する。


「そういえばさ、ダンジョン攻略前に話があった学園の件だけど……」

「んっ? 私もクリスも行くつもりないかな」

「そうなんだ……。もしかしたら、珍しい能力を持った子とか沢山いるかもよ?」

「なーに? 何か学園に行けみたいな言い方じゃない?」

「そうじゃないよ。ダンジョンでソフィアを見た時に思ったの」

「何を?」

「同じくらいの力を持った子と行動するソフィアって凄く楽しそうだったからさ」

「まあ、楽しかったことは否定しない」

「なら、学園に行かない理由って何なのか聞いてみたいかも」


 ソフィアは残りのパンを口に放り込み、ミルクと一緒に一気に飲み干す。

 そして、


「ヒーローには仲間が必要でしょ。私達も子供達と一緒にまだ夢を見ていたいの」

「夢?」

「そう、小さかった私達を救ってくれたヒーローの後ろ姿が忘れられなくてさ」


 昔、ソフィアが右腕を失い、クリスが視力を失った事件があった。

 初めて多元スキル《HERO》を発動させたあの日。

 私は幼馴染、そして村の人達を救うために初めてヒーローになったのだ。


「いつか、私も誰かの為に頑張れる人になりたいかなって」

「ソフィア……。馬鹿だね、私が目標だなんてさ」

「リルアが学園に行くって言うなら私も一緒に行く。けど、行く気ないでしょ?」

「うっ、バレていたか……」


 村には小さな子供達がいる。

 私は今、リムルムントにおいて彼等の教師役を担っている。

 異世界アルファはお世辞にも教養レベルが高い世界とは言えない。

 辺境の村では教師が存在していること事態が珍しい。

 

 だからこそ、生前の経験を活かし、子供達のために働こうと思っていたのだ。

 私と物語を共有し、住み着く人達も増えている。

 実は、移住民と先住民が結ばれ新しい命が生まれたりなんてことも。

 ずっと、村のために教師として生きていくのも悪くない。

 目標を見つけていた私は王都の学園に行くつもりは無かった。

 まあ、転生前に小中高で12年間も学校に通ってたし、今更という感じもある。


 ソフィアとクリスの意見次第では離れ離れになることも覚悟していた。

 転生前に児童養護施設で働いてた時も別れの場面は沢山あったのだ。

 人はいずれ自身の道を見つけ、巣立って行く。

 永遠に続く関係なんて存外少ない。


 だからこそ、凄く嬉しいよね。

 面と向かって一緒に居たいって言われるのは。


「もう少しだけ、一緒に物語を見させてよ。駄目?」

「そんな可愛くおねだりされると断れないかな。ていうか、断るつもりもないし」


 私を見つめ、ウルウルした瞳で小首を傾げるソフィア。

 演技なのは分かっている。

 きっと、本人も恥ずかしいから普段なら絶対しない行動を取っているのだろう。


『もう少しだけ、一緒に居させて下さい。駄目?』

「おめぇは駄目だ。鑑定スキルめ」


 ソフィアと私の間に割って入る鑑定スキル。

 それを見ながらソフィアは苦笑して、


「いい加減、名前付けてあげたら? 鑑定スキル呼びも変かなって思うし」

「うぅ、薄々私も思ってたけど、何か躊躇うよね」

『私も気にしておりました。名前が欲しいです、リルア様』


 名前か……。

 秘薬を呑んだ時のことを思い出す。

 半身が消失したという一抹の寂しさに囚われた時のことを。

 いつの間にか、もうひとりの私になっていたんだよね。

 憎らしいことがほとんどだけど、同じくらい助けられたこともある。

 もうひとりの私か。


「サクラ」

『何です?』

「鑑定スキル、貴方の名前は今日からサクラね」

『サクラですか……。悪くない響きですね。何よりリルア様に付けて貰った名前。大切に授かることにします』

「それじゃ、改めて宜しくね。サクラ」

『ええ、リルア様』


 転生前の私の名は"九重 桜"。

 鑑定スキルに今では懐かしさすら感じる名を付けてやる。

 これからも、普通の村人として暮らして生きたい私とは沢山衝突すると思う。

 それでも、もう一人の私としてこれからもよろしくね、サクラ。


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