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除外(イクスクルード)

 秘薬を呑んだ直後、半身が消えたような錯覚に支配される。

 あくまで錯覚なので、完全に消えてしまったわけではない。

 微かに感じられる薄い繋がり。

 自然と胸に手を当ててしまう。

 私の内に眠ってしまったのだろうか?

 静かだ。

 転生してから15年。

 ひとつの身体に2つの意思を宿していた私。

 片方の心が静まることで、ここまでの変化が訪れるとは思っていなかった。


 か細い糸のような何かを辿っていく。

 私の内ではない。

 それは私の身体の外に伸びていて……。

 外?

 どういうこと?

 おかしくないか、それ。


『どうも、初めまして。私、リルア様の内なる存在、鑑定スキルと言います』

「あー、ご丁寧に。リルアって様付けで呼ばれてたんだ、初めて知った」

『これだけ慕っているというのに、雑な扱いなのです。しくしく、なのです』

「うわー……。リルアって酷い奴だね」


 ちょっと、待て!

 聞き慣れた声が頭ではなく、耳に直接入ってくる。

 ソフィア、君は一体何と話してるんだ!

 声の方へ振り向くと、見慣れた幼馴染と宙に浮かぶ小さな妖精がひとり。

 白いワンピースに半透明の四枚羽、ピンクの髪が可愛らしい悪魔。

 悪魔と名付けたのは、直観的にコイツが鑑定スキルであると分かったから。

 えっ?

 今の秘薬飲むと、スキルが外に具象化するとか聞いてないんだが。


「なっ、何で外に出て来てるの!」

『何度も言った筈ですが……。"後悔"はしませんよね、と』

「そうじゃなくて、何で外に!」

『この秘薬はスキルをレベルダウンさせ、除外可能とする効果があるのです』

「じゃあ、レベルダウンはしたってこと?」

『馬鹿ですね。私は女神が与えし"転生スキル"なのですよ』

「はい?」

『そんなチンケな秘薬如きでレベルダウンなどしません』

「だったら、除外されるの件は!?」

『静かに受け入れましたよ。リルア様の内から外に除外されるようにと』

「都合の良いところだけ受け入れるなし! 大人しく消えなさいよ、馬鹿!」


 やられた。

 噂のレベルダウンの秘薬って、スキルを弱体化させるの意味だったんだね。

 神妙な雰囲気を出して、外に出ることを狙ってたんだ。

 効果を口にしなかったのも、私を煽るための策略。

 それにしてもだよ!

 何か知らんが秘薬の効果を逆手に取って、外の世界に出るとかズルくない?

 マジで意味不明なことが起こっている。

 私達を見ていたソフィアが、


「除外効果ってのは、他者に渡す的な意味合いが強いんだと思う」

『この秘薬は、師から弟子へ技を一子相伝とするために使われていたモノです』

「へー、詳しいんだ」

『技術継承はどの世界でも課題となっております。古の人々はその問題を解決するためにこの秘薬を作成したのでしょう。特に神官などが使う高位の聖魔法を伝えていったようですね』

「病気とか治療する人は必要だもんね。今では作れない失われた技術ってことか」

『そういうことになります』


 ヤバい。

 この2人、何かと気が合いそうである。

 こうなっては仕方ない。

 ソフィアに鑑定スキルを擦り付けよう。

 だって、他人に譲渡可能なんでしょ?

 相性良さそうだし、喜んで飛んでいくに決まっている。


「鑑定スキル様、ソフィアとタッグを組んでは如何と?」

『何を言っているのですか? 私の居場所は常に貴方の中にあるのです』

「イイ感じの台詞を言って、居座ろうとするんじゃねぇよ!」

『まあ、暫くはこのままでいましょう。便利な肉体も得たことですし』

「ていうか、肉体を持ってる時点でおかしくない?」

『世の中、不思議な事ばかりなのですよ? 何を今更、フフフ』

「理由を説明しろーーーー!!」


 小さな妖精は地面の小枝を拾いひゅんひゅんと素振りを開始する。

 えーと、現実世界に干渉できるってヤバいと思うんですが。

 物理的に罠を仕掛けることが可能ってことだよね?

 私の食事に何かを混ぜることも簡単に出来るんだよね?

 寝てる時も勝手に動いて何か仕込むことが可能ってことなんだよね?


 詰んだ。

 絶対、詰んだ。

 だって、心の中にいる状態でレベル106まで上がってんだもん。

 物理的に干渉できるんだったら、やりたい放題じゃん。

 頭を抱える私の目の前にちょこんと小さな妖精が現れる。


『これからも末永く貴方と共に。新たな門出を共に行きましょう、リルア様』


 丁寧にお辞儀をした彼女は、美しい顔に無垢な笑顔を浮かべていた。

 可愛い悪魔の降臨。

 どうやら、私の思い描く普通の村人生活はまたまだ先の話になりそうである。

 

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