秘薬
いきなり、ドロップキックとか予想できんわ。
しかも、ソフィアの罵倒は終わらない。
「アンタいつも助けるの遅いのよ! それに、この音聞こえないの?」
音って何の?
子供達と喋ってたから、周りを意識してなかったんだけど。
ドドドドドドッ!!!!
物凄い轟音が近付いてくる。
それは、魔物使いを倒した際に開けた横穴から聞こえてくるみたい。
「何の音?」
「水の音だね。横穴が海か湖に繋がっちゃったみたい」
「流石、クリス! 音だけで水って分かるなんて、やるじゃん!」
親指をグッと上げ、クリスを褒めることでお茶を濁す私。
それにしても、かなりの質量を含んだ水が流れてきてるっぽい。
ま、私の幼馴染に掛かればイチコロよね。
「ソフィア。錬金術で穴直してよ……、あがっ! 何で殴ったし!」
「もう、魔力が無いのよ! 早く、魔物使いを連れて来て!」
「はい! 隊長!」
取り敢えず、この場は素直に従う他ない。
ヒーロー状態なら何とかなりそうだけど、今はただの村人リルアだ。
まあ、レベルは100を超えてるけどね……。
魔物使いを背中に担ぎ、振り返るとソフィアを中心に皆でスクラム組んでる。
え、何それ。
いつの間に皆で怪しい宗教団体に加入したの?
私、その輪に入りたくないんだけど。
「ボケっとしないで!」
ソフィアに促され、いそいそと輪の中に入る。
ひとり皆とは違う行動を取る者がいた。
民族だ。
何か、超久方振りに会った気がする。
ちょっと、トゲトゲしたイメージがあったけど何か変わってない?
気のせいかな。
少しだけ、乙女感? の増した民族が宙に白のナイフを投げる。
似たモノを皆の記憶と共有した時に見た様な……。
確か転移用の錬成ナイフだ。
更に言うと、熊っさんと元気が持ってたナイフかな。
元気を逃がすのに一回しか使ってないから、エネルギーはかなりあるっぽい。
「皆、掴まって! 転移するよ!」
黒のナイフをソフィアが握ったと同時に、目の前の景色が切り替わる。
効果範囲を指定できるのか全員一気にダンジョンを脱出できたようだ。
見えるのは何処までも広がる青い空。
大地が100メートルくらい下に見えるけど、ナイフ上に投げすぎじゃない?
やり過ぎたという表情を浮かべる民族。
ツッコミたい気持ちをグッと抑える。
私がやったら加減が分からなくて、地上500メートルの位置とか投げてそう。
なので、文句は言わないでおく。
問題の着地だけど、パーティー全員レベルの高い熟練者ばかりだ。
70レベル台の皆は何とかなるけど、他は厳しそうかな。
問題は50レベル台の弓と魔法使いのおっさんか。
「リルア、剣!」
私の意図を察したのか、空中に1本の浮遊剣を呼び出す。
サイズが小さい。
さっき言った通り、本当に魔力が尽き掛けているのだろう。
結構、ギリギリの戦いをしていたんだなと改めて思う。
ソフィアが作った足場を有難く使って、二人のおっさんズを回収。
「私はああああぁぁぁぁぁ!!!!」
叫びながら落下する熊っさん。
まあ、レベル70に上がったんだから大丈夫だよ、きっと。
それに重装備のおっさん担ぐと着地した時、他の3人に影響ありそうだしね。
他にフォローが必要な者を確認する。
怪我を負った元気の無い"元気"は、民族が背負っていた。
他は何とかなりそうかな。
晴天の空を背に、落下していく私達。
丸一日ダンジョンに居たせいか風が気持ちいい。
空気も美味しいし、やっぱり外が一番かな。
本当に最高な気分。
まあ、それには理由があるんだけどね。
今、私のポケットにはあるモノが眠っていたりする。
魔物使いとの戦闘中、誰にも見えない超スピードで回収していたお宝。
紫の液体が入った小瓶が2本。
フフフフッ、誰もが忘れているであろうダンジョンに眠る秘宝。
レベルダウンの秘薬(仮)。
このアイテムが私にとって、都合の良いモノであることは明白だ。
何故なら、鑑定スキルの奴。
このアイテムを鑑定してくれない。
効果を全く教えてくれないのだ。
馬鹿め、それは自分にとって不利なアイテムであると告げているのと同義。
熊っさん以外、綺麗な着地を決める面々。
人型の大穴がひとつあるけど、這い出て来たからきっと大丈夫。
ようやく一息つけたところで皆、それぞれ治療に入る。
やはり、大分疲弊していたのかその場で仮眠を取る者もちらほら。
取り敢えず、簡易的な治療も終了し、各々休憩に入る。
休んだ後は、ダンジョン入口の野営地に戻り、報告するとして皆納得した。
魔物使いは大樹に太縄で固定し、皆で監視しているので大丈夫だろう。
私は休憩時間を利用し、人気の無い森の奥へと入った。
遂に念願のレベルダウンの秘薬(仮)を入手したのだ。
今まで、散々騙されて来たけど、今日で全てがお終いとなる。
そう思うと一抹の寂しさが……、そんなモノ思う筈も無く、
「フフフッ、早く鑑定結果見せてよ! ま、大体想像はつくけどね」
『勝手に使えばいいではないですか』
不貞腐れ気味に答える鑑定スキル。
勝利の笑みを浮かべていると、
「やっぱり、お宝回収してたのね……。本当に抜け目ないんだから」
「あっ、ソフィア! 良い所に来たよ。薬の成分とか見て効果分かったりする?」
「まあ、レベル隠蔽薬を作れるから、ある程度は分かるかもだけど……」
渋々、秘薬を受け取ると検証を始めるソフィア。
待つこと5分余り。
結論が出たのかソフィアが口を開く。
「この薬、レベルダウンの秘薬じゃないっぽい」
「えっ、嘘でしょ? だって鑑定スキルの奴、渋って教えてくれないんだよ」
「どちらかというと、スキルに作用する薬かな?」
「スキル?」
「スキルの効果を薄める的な感じだと思うけど」
なん、だと!?
スキルの効果を薄めるって、ことは……。
教えてくれない筈だ。
レベルダウンなら、悪態をつきながらも鑑定結果を報告していたかもしれない。
「フフフフッ……」
「リルア……、ものすっごい悪い顔してるわよ」
「まさか、因縁の相手を弱体化させる秘薬が手に入るとはね……」
変な話、レベルダウンより嬉しい効果だ。
多少、戦闘のサポートは薄くなるかもしれない。
便利な異世界スキルもあるけど、殺しをしないように加減すれば済む話だ。
それに、よく使う魂の救済関係のスキルもクリスが習得してるしね。
後々、大賢者の固有スキルを利用して、更なる改良が加えられる筈だ。
ソフィアもスキルを模倣した道具を錬成できる。
ヒーロー時によく使うスキルは大方、代替の目途が立っている状況だ。
飲むか。
飲んで、小言の多い鑑定スキルを弱体化させてしまうおうかな。
『少しお待ちなさい』
「ようやく喋ったわね。何か言うべき事はあるかしら?」
『飲めば後悔することになりますよ?』
「どんな風に?」
『それは伝えられません。私が不利となってしまいます』
益々、怪しい。
もう確定よね。
最後に踏み出すための一歩が欲しい。
「ソフィア。成分を解析して、逆にスキル効果を戻せる秘薬って作れる?」
「うーん、出来るんじゃない? 1年に1本くらいしか作れなそうだけど」
「どうして?」
「異世界の素材が大量に要るっぽい。右腕の回収傾向を見る限り、揃うとは思う」
「今って、その材料あったりするの?」
「まあ、一ヶ月くらいあれば貯まるんじゃないかな」
決まった。
鑑定スキルを元に戻せるのなら試しに飲んでみるのもアリだ。
計画としては、飲んで暫くしたら弱体化をすぐに戻すつもりだ。
ずっと一緒に居てくれた仲間だしね。
ほんのちょっと、お灸を据えてあげれば、少しは大人しくなるでしょう。
私だってたまには牙を剥いていい筈だ。
小瓶の蓋を開ける。
『本当に後悔しますよ? 良いんですね?』
見苦しい。
私は意を決して、紫の液体をグイっと飲み干した。




