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 魔物使いが嘲笑う。

 委員長の面影が消えたので、魔物使いと呼ぶことにした。

 身体の左右で白と茶に分かれた変な肌色だし。


 それにしても、かなり自信があるんだろうな。

 確かに今まで戦って来た奴等よりは大分強そう。

 歴代トップの565レベルだっけ?

 強い魔物も取り込んでいるから、基本ステータスも大分高いとみた。


「貴様も姿を変化させるのか。どうやら特殊な能力を持っているらしいな」

「一応転生前の容姿なんだけど、変身って言うのかな?」

「転生前だと?」

「うーん、気にしなくていいよ。今から殴って、それでおしまい」

「ふん、ハッタリか。しかし、念には念を入れるとしよう」

「はい?」


 魔物使いの身体がビキビキと音を立てる。

 そして、オーロラのような光の粒子が周囲を覆う。

 まだ、パワーアップするみたい。 

 しょうがない、少し待つかな。

 やっぱり、無防備なところを襲うってのは基本見せたくないし。

 ヒーローとしての矜持というか、そんなところだ。


『物理、魔法吸収に耐性がランクアップ。ステータスも急激に上がっています』

(見た感じレベルは変わってないみたいだけど?)

『メモリピースを使用しての強化です』

(500レベルで25枚か……。スキルとステータスアップに使ってるわけね)


 メモピ一枚使うと約レベル50分のステータスアップが見込めるらしい。

 さらに、魔物が持つ耐性スキルを吸収スキルにまで高めるという徹底ぶり。


『敵の推定レベルが1000を超過しました』


 メモピ10枚で500レベル分の上昇値か……。

 耐性も考えるとただ殴るだけじゃだめかな。

 色々、考えている間に魔物使いのパワーアップが完了したっぽい。

 こういった輩は全能感に満たされると何かと気合を入れたがる。


「はあっ!!」


 やっぱりね。

 巻き起こる突風。

 背後では幼馴染や冒険者達が風に飛ばされまいと必死に耐えていた。

 私は見逃さない。

 スケッチの胸が煽られて、大分揺れていることを。

 そして、何人かの子供達の意思がスケッチの胸に集まっている。

 しょうがないよ。

 男の子だしね。

 でも、調子に乗ってると来ちゃうんじゃないかな。

 颯爽と現れた女の子達がエロ男子達を叱りつける。

 多元世界のいつもの日常だ。

 夢の中で他世界の子と触れ合えるのは良い機会だと思う。

 でも暴力はほどほどに、皆仲良くね。

 さて、そろそろ、私も良い所を見せるとしますか。


「パワーアップは終わった?」

「貴様は勝てんぞ。物理魔法吸収に加えて、ステータスの大幅強化……」

「ふーん、普通に殴っても突き破れそうだけど……。"オーラ"って力知ってる?」

「……何だその力は。訳の分からないことを言って煙に巻こうという魂胆か?」

「この世界に無い"オーラ"っていう概念を持った異世界があるんだよ」


 右手に意識を集中する。

 単純な物理でもなく、魔法力でもない。

 私達の暮らす世界アルファに存在しない未知なる力。

 "オーラ"は生命力のコントールを極限まで追求した妙技だ。

 多元スキルが干渉可能な3つの異世界。

 その内、"ユウナ"という異世界で育まれた力。

 特殊なモノではなく、異世界ユウナでは一般人も生活で普通に使用している。

 しかし、達人が"オーラ"を極めた時、新たな可能性が花開く。


 生命力溢れる柔らかな光。

 まずは一発、天井に向かって右拳を振り上げる。

 天井でチラチラ盗み見している邪悪な気配を取り敢えずぶん殴った。


「ぎゃああああああああ!!」

「えっ? どうしたの? 私、何かやったっけ?」


 天井を見ると大地まで続く大穴が100メートル続く以外に何も無い。

 かなり深かったんだな。

 まあ、ダンジョンボスって結構な身長だったし、この位は必要か。

 太陽の光が大穴を通して降り注ぎ、魔物使いを照らす。

 此奴、太陽光が弱点なのかな?

 なんか、私の並列意思があああ、とか呻いてるけどよく分かんない。

 

「よくも! 私の並列意思を! 絶対に殺す!!」

「ちょっと、質問が並列意思って?」


 魔物使いが眼を血走らせ、口から強大な魔力の塊を放出する。

 私の質問に答える気ないだろ。

 黒い塊に黄色の何かがバチバチと絡みついた、とにかく邪魔な何かだ。

 背後の仲間に当たっても困るのでデコピンで空へと軌道をズラす。

 大穴を開けた天井を通過するように口から出た攻撃を逸らしてやる。

 それを見て呆然と立ち尽くす魔物使い。


「馬鹿な、指先だけで……。私の全力の一撃だぞ……」

「絶望しているところ悪いけど、終わりにさせてもらう」


 引き伸ばしなんてしない。

 感じるのだ。

 弱き者を前にして嘲笑い、命を奪い続けて来たお前の姿が。

 自身の手は汚さない。

 従えた魔物を利用し、恐怖を煽った上で殺す。

 人も魔物も虐げて来たお前に情状酌量の余地はまったくない。

 それに、私達の村に逃げ延びた教師達の仇も討たなけいといけないしね。


「歯ぁ、食いしばれ……」

「ふ、ふはは、まだだ。私には絶対無敵の耐性が……」


 無駄だから。

 ヒーロー時の私のレベルは5000。

 さらに、耐性の無い"オーラ"を含む一撃を放つため拳を中段に構える。

 そして、別世界のスキルを展開するように鑑定スキルに(こいねが)った。


 《融合解除》

 《スキル破壊》

 《みねうち》

 《瀕死レベルダウン》


 全てが別の異世界に存在するスキルだ。

 殺しはしない。

 

「罪は償って貰うから。勿論、ちゃんと人の姿に戻ってね」


 "オーラ"により表現されるのは転生前、私の好きだった故郷の華。

 そして、かつて私の名前であった桃色の花弁が周囲を覆う。

 乱れ舞う桜吹雪。


「オーラ・バースト……」

――オーラ・バースト……


 一際大きく生命の光が拳を覆う。

 そして、子供達と共に止めの一撃を高らかに叫んだ。


「ディメンション・スマッシュ!!」

――ディメンション・スマッシュ!!


 花吹雪と共に拳から放たれる淡紅色の閃光。

 悪を呑み込み、壁を抉り、地中を削って、遥か彼方へと突き抜けていく。


 そして、拳から放たれた光の残滓が消える。

 残されたのは人の姿に戻った魔物使いがいるのみだ。

 意識を失った彼女はその場でガクリと崩れ落ちる。

 レベルも30台にまで下がり、固有スキルも破壊された状態だ。

 二度と悪事を働くことはできないだろう。


「最後の仕事ね」


 鑑定スキルがもうひとつ、別世界のスキルを解放する。

 両手一杯に出現した幻の花束を遠くへ届くようにと空へ放る。


 《リマインドソウル》


 この世に縛られた魂を解放するスキル。

 クリスが会得した魂浄化の魔法も、このスキルを見て覚えたいと思ったのかな。

 魔物使いに殺された人達。

 そして、操られ殺された魔物達。

 成仏できず彷徨う魂達に全て終わったのだと語り掛ける。

 中には長い年月の末、死霊化している者の気配もあった。

 大丈夫、思い出して。

 諸悪の根源である魔物使いを倒したことを告げ、迷える魂の解放を促す。


 安堵し、天へと昇っていく数多の意識達。

 子供達の意思と共に彼等を見送る。


――もう、大丈夫だよ。

――ゆっくりお休みなさい。


 そうして私は異世界アルファに住まう、村人リルアの姿へと戻る。

 最後に子供達に向かって手を振る。

 徐々に薄れていく沢山の声。

 彼等はそれぞれの世界へと帰り、夢から醒める。

 夢の世界で得た絆を胸に現実でも前へと進んで欲しい。

 それは、私の傲慢なエゴであり、独りよがりな考え方かもしれない。

 それでも、


「一人でも多くの子供達が笑って現実に立ち向かえるのなら、意味はあるよね」


 私に駆け寄る多くの足音。

 振り返れば幼馴染や冒険者達が私の元へ駆け寄って来る。

 よくドラマである大円団で抱き着いてくる的なヤツかな。

 目立つのは嬉しくないけど、少しくらいならいいよね。


 私は両手を広げて皆を迎え入れる準備をする。

 さあ、いつでも飛び込んでおいで。


「この大馬鹿!!!!」

「げふっ!?」


 私の予想に反し、飛び込んできたのはソフィアの強烈なドロップキックだった。


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