繋がる意思:多元視点
多元スキル《HERO》の発動により創造された意思の世界。
この世界に初めてリンクする小さな男の子がいた。
他人と触れ合うことを恐れていた彼はひとり片隅でリルアを応援する。
その子に対し、咲き誇る花のような笑顔で手を差し出す女の子がいた。
――私と一緒に応援しよう!
彼女だけではない。
徐々に人が集まり、輪が広がっていく。
現実世界でひとり孤独を抱えていた子供達。
初めてこの世界に訪れた子は他者との繋がり方を――。
幾度か訪れた経験のある子は優しき手の差し伸べ方を――。
遅くても良い。
夢の世界で少しずつ、ゆっくりと他者との歩み方を覚えていく。
その様子を見守る者達がいた。
物語の演者達だ。
その中の二人、赤毛の錬金術師と弓使いは言う。
――リルアのスキルって、寂し気な子供達を繋ぐ力なんだよね。
――同じ年齢、悲しみを背負う者達だからこそ、理解し合い、成長できる世界か。
異世界を繋ぐ大規模なヒーローショー。
子供達は物語を共有し、手を取り合って応援することで心の安寧と成長を得る。
多元スキル《HERO》は子供達から力を得るための能力ではない。
逆に小さな意思が繋がり合うことで救済を促すための力だ。
他世界のスキルが一時的に使用可能となるが、それは副産物である。
祈りによって次元が繋がり、鑑定スキルが偶然にも受信した力である。
つまり、ヒーローとなったリルアは自らの力で敵を倒さなければならない。
言葉を失った筈の少女は疑問を声にする。
――でも、どうやってリルアさんは戦うのでしょうか? あれ、私?
――ヒーローが発動中は喋れると思うよ。僕も目が見えるしね。
大賢者は開いた目を弓の形にして微笑む。
お互いの不足を補い、逆に不足を共有することも可能とする不思議な世界。
それは、子供達が寂しさを共有し、受け入れる力を学ぶ場として作用する。
錬金術師がスケッチブックを手にした少女の疑問に答える。
――戦うって普通に修行した成果を出すのみだけど。
――でもさっき、リルアさんの攻撃はフアナさんに全く効果が無かったような。
――うーん。説明面倒だし、知識を共有するね。
錬金術師が瞳を閉じて念じると、この場にいる者に知識が伝播される。
意思の世界であるが故、望むのであれば自身の思考を共有することが可能だ。
錬金術師の思考が共有される。
普段の生活で得られる経験値は全て多元スキル《HERO》に注がれる。
つまり、ただの村人であるリルアは全く成長することはない。
その誓約のお陰で、ヒーロー時は通常の数百倍もの経験値を得た状態で戦える。
だが、リルアのレベルは一般人を遥かに凌駕しており、話が矛盾する。
リルアの高レベルは、意思を持つ鑑定スキルのたゆまぬ努力による結晶だ。
多元スキル《HERO》を欺き、リルアのレベル上げに執心する鑑定スキル。
ヒーローは普通の人であれ、をポリシーとするリルア。
意見の相違から、互いによく衝突を繰り返す。
鑑定スキルの存在も含め、冒険者達は等しく知識を共有していた。
それを受けて大盾を持つ男が、
――ならば、魔物を倒すだけで莫大な経験値が得られるのだな。
――それ無理。命を奪う行為はヒーローの経験値として、ほとんど入手できない。
――では、どうするのだ?
――毎日、筋トレ、走り込み、魔力の基礎トレをするだけ。
――はっ? それは、普通の鍛錬ではないのか?
――馬鹿ね。死ぬ寸前まで自分を追い込むのよ、リルアは。
冒険者達は訝しむような視線をリルアの幼馴染達に注ぐ。
錬金術師が語る方法で得られる経験値は微量なモノ。
まして、40レベルを超えると、1年続けたとしてもレベル1も上がらない。
だが、リルアは毎日欠かさず、血反吐を零し、死の一歩手前まで己を追い込む。
鑑定スキルによってレベルを上げられた場合、より過酷な基礎トレを己に課す。
人が聞けば、たかが基礎トレ。
リルアの異常なまでの努力を知らない冒険者達。
皆の気持ちを代弁して、幻獣使いの少女が言う。
――えー、ということは、毎日の基礎トレを経験値に戦うってこと?
――僕も最初は馬鹿にしてるのかな、と思ったんだけどね……。
――見てれば分かるわよ。恐るべき基礎トレの力が……。
冒険者達の意識が現実世界に引き戻される。
彼等の目の前には、スキルの発動により七色の光を纏うリルアがいた。
最終局面。
光が砕け、絶世の美女が姿を現す。
転生前の姿を色濃く残した容姿、靡く赤のスカーフ。
黒を基調とし、赤を下地に添えたスタイリッシュな和装。
丈は短めであり、帯の結び目には可憐な桜の大輪が映える。
多元の意思と共に"ヒーロー"となった黒髪の少女へ物語を託そう。
受け取ったよ、これまでに皆が紡いで来た物語を。
私は言う。
「始めましょう。悪を挫き、正義を成す為の戦いを――」




