キメラ:フアナの視点
強大な雷撃が大気を振動させ、直撃を受けたことを知らせる。
だが、間に合った。
まさか、最後の切り札まで使わされるとはな。
私は目の前に広がる絶望に大きく高笑いを上げた。
切り札を防がれ、新たに出現した魔物に驚愕を抱く冒険者達。
私が今回、作り上げた傑作は物理防御を得意とする魔物の集合体である。
そして、もう一体。
魔法防御に特化させた魔物を隠し玉として持っていたのだ。
250レベル。
此方も同じく魔物の集合体だ。
喰う程に強くなる魔物を基礎としている。
両腕を失った私の下僕を守る様に立ち塞がる純白の巨体。
白の禿頭にあるのは巨大な大口が存在するのみ。
美しき赤の唇が大きな笑みを作る。
歯の隙間からピリピリと零れる黄の迸り。
大賢者の極大魔法を喰ったのだ。
200を超える魔物が2体並ぶ壮観な光景。
だが、両腕を切り落とされたお前に用はない。
「不細工な姿だな……。喰えよ」
私の命を受け、純白の魔物がバクリと大口を開けた。
勢いそのままに、両腕を欠損した魔物へと喰らいつく。
残ったのは両脚から膝下のみ。
残された身体の一部から鮮血が迸り、白の身体を赤く染め上げていく。
変化はすぐに訪れた。
私のスキル"怪魔従属"は、斬った魔物から5親等内の眷属を従属させる。
そして、従えた魔物のステータス確認が可能となるのだ。
250レベル、2体の下僕を融合した結果として到達したレベルは450。
間違いなく生涯最高傑作。
だが、それだけでは終わらない。
複合体の魔物は喰らった魔物の力を引き継ぐ。
そのひとつにこんな異能がある。
"人化合一"
喰らった人の意思を取り込み、合一化させる能力。
人の意思を宿す魔物の誕生。
人と魔のキメラ。
本来であるなら人道に反するとして、禁忌指定される行いだ。
もう少し先を想定していたのだがしょうがない。
パーフェクトな存在を前にして衝動が抑えきれなくなってしまった。
まさか今日、フアナという人の殻を捨て、全知全能の神へと至る時が来るとは。
まだ、進化の途上である魔物が私を喰らおうと大口を開ける。
それでいい。
私はお前とひとつになるのだか――。
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覚醒の時は一瞬だ。
目の前には先程と同じ冒険者達の間抜け面があるのみ。
不意に私を見下ろす、もう一人の私が存在することに気付く。
並列意思。
人知を超える能力を持つモノに与えられるとされる伝説の力。
驚いたことに私の姿は醜い化け物の姿ではなかった。
肌こそ左右で茶と白に異なるのだが、姿は人であった頃そのままだ。
純白のドレスを纏った美しい姿に感銘すら覚える。
よく見れば衣服ではなく、身体の一部であることに気付く。
両の掌を2度、3度と開く。
物理と魔法、2つの耐性を持つ身体。
実に素晴らしい。
まずは、一振り。
目の前のゴミ共を片付けるため、軽く前方に風を起こしてやる。
魔法ではない。
単なる膂力のみで引き起こされる事象。
冒険者達が悲鳴を上げながら、壁へと叩きつけられる。
中には当たり所が悪く、気絶する者もいたようだな。
苦悶と絶望の呻き声が聞こえる中、2つの気配が私に突き刺さった。
錬金術師と大賢者。
この状況で戦意を失わないとは恐れ入る。
今の一撃で感じた筈だ。
人では叶わない圧倒的な力があるということに。
「まさか……、人を捨てるとは、思わなかったわ」
「貴方は一体、何を、目指すつもりなんだ?」
「全てを従えたいのさ。私の望む意のままに、全てを」
体力も魔力も底を尽きかけている筈だ。
だが、2人の眼は何だ?
まるで、何かの希望を信じているような煩わしい視線。
ドオォォォォン!!
ドオォォォォン!!
ドオォォォォン!!
不意に巨大な轟音が大部屋に鳴り響く。
徐々に近付いてくる音に笑みを浮かべる錬金術師。
「全く遅いのよ。いつも、いつも」
突如として部屋が半壊する。
強大な石造の半顔が壁を突き破り、部屋の中央へと倒れ込んで来たのだ。
これまでの人生に於いて相対したことの無い巨大なゴーレム。
人の大きさを40倍にした巨体であると推測する。
推定でも150レベルは超えている筈だ。
このダンジョンのボスか。
しかし、命が尽きかけているのか、瞳から放たれる光が明滅している。
頬には尋常でない力を受けたであろう大穴と亀裂が未だに広がりを見せていた。
それとは別に、瓦礫と共に壁際へ軽快な足取りで舞い降りる影がひとつ。
盾持ちであるゴミの前に降り立つと、
「熊っさ、盾のおじさん! 丁度、良い所に! ラストアタック、プレゼント!」
了承を得ぬままに、ソイツは巨大ゴーレムの顔面に目掛けてタンクを投擲した。
悲鳴を上げながら宙を舞うタンク。
何とか手持ちの盾を構え、ゴーレムに対してシールドアタックの構えを取る。
そして、タンクがゴーレムの左目に激突。
今のが止めと一撃となり、ゴーレムの瞳が暗いモノへと変貌する。
次の瞬間、タンクの身体が光り輝いた。
急速なレベルアップにより、稀に見られるとされる事象。
巨大ゴーレムが尋常でないレベルであったことに確信を得る。
高レベルの魔物に致命を与えたであろう少女が言う。
「もう少しで騙されるところだったわ。壁抜けしろとか言われて思いっきり壁パンしてたら、ダンジョンボスのほっぺを殴っていたとかさ。でも、ギリギリで熊っさんが倒してくれたし、セーフだよね、セーフ!」
何を言っているか理解不能だが、成程。
コイツが私の実験台になってくれるらしい。
人であった頃の記憶を検索する。
確かリルアといったか。
人知を超えた神の力で、この女に絶望と恐怖を与えるとしよう。




