極大魔法:クリスの視点
負傷した者と疲弊した者。
彼等は通路側に待機し、今は身を潜めている。
僕の回復魔法があれば、全快することは可能だ。
しかし、彼等はそれを拒んだ。
前線に居る者と協力して、敵を倒して欲しいのだと。
アスカさんが音にして情報をくれるため、幾分か楽に状況判断できる。
満身創痍ながら声は出せるとサポートを申し出てくれた。
僕の目の前には異形が佇んでおり、両腕を失っているようだ。
恐らくそれと対峙していた2人は限界を超えている筈。
レベル差が3倍の敵と全力で戦い続けること5分余り。
遠くに感じる息遣いから、立つので精一杯と予測する。
疲労はピークに達している筈だよね。
だから、姿を現した。
本当なら、詠唱を終えるまで隠れていた方が良い。
けれど、注意を此方に向けられれば、他の皆への危険が減る。
リボンにより3重の螺旋が描かれる。
奏でるのは並列詠唱により発動される極大魔法"サインボルテクス"。
複数雷撃を集約した不可避の閃光が全てを焼き尽くす魔法だ。
これを選択したのには理由があった。
セーラさんのスキルにより、火の魔素が枯渇気味であること。
アスカさんの幻獣憑依により、雷の魔素が通常より多く満ち溢れているからだ。
敢えて強大な魔力を周囲へと放出する。
絶大なる威力を秘めた攻撃を放っておく道理は無い筈だ。
両腕を失った魔物が震脚で地面を砕く音が響く。
瓦礫の塊が持ち上げられる音がし、此方へ何かが向かってくる。
残る尻尾で岩の塊でも投げたか。
無数の散弾。
「無駄だよ」
大地の力を利用した障壁が礫を防ぐ。
戦闘で効果が期待できる並列詠唱数は5つ。
つまり、5本の指とリボンによる詠唱が可能となる。
攻撃に3つ、防御に2つ割り当てている状況だ。
単純な魔法かつ時間を掛けても良ければ、並列数を上げられるけど――。
修行が足りないよね。
「クリス!」
叫ぶソフィアの声が、発動はまだなのかと訴えてくる。
高位の術者でも1人で発動するには1時間を要する魔法だ。
それを、即興で完成させようという無茶をしている。
もう少しだけ、待って。
両腕を失ったせいか、礫攻撃のみを必要に繰り返す魔物。
けれど、不意にその音が止んだ。
まずい。
直観通りのモノが来た。
暗黒の魔力。
恐ろしい程の威圧を含む重力波が僕を殺そうと向かってくる。
ギリギリ回避可能な攻撃。
けれど、術式に必要なリボンを複数本持っていかれるのは不可避だ。
皆が繋いだ軌跡を、ここで終わらすわけにはいかない。
局所的に防御の壁を厚くして、攻撃を逸らす?
僕の左脚は持っていかれるけど、魔法は完成し、敵を倒せる筈だ。
そう覚悟を決めた時だった。
何かが僕の前に割って入る。
「うおおおおおおおぉぉぉぉ!」
雄叫びによって、それが大盾を持つタンクのおじさんであることに気付く。
無茶だ。
1人で250レベルもの攻撃を受けられる筈がない。
絶対なる死。
そう思っていた。
直撃音が響いた瞬間、
「耐えろおおおおおおおおおおお!!!!」
「ぐおああああああああああああ!!!!」
「根性みせろあああああああああ!!!!」
盾、弓、魔法使い。
重なる3人の雄叫び。
声の重なりから、盾の後ろで一塊りになっているのだろう。
盾で攻撃を防ぎ、魔力で接触面を覆い、弓弦をクッションとして衝撃に耐える。
三位一体。
魔力感知と音のみで、彼等の勇気ある行動を感じる。
そして、おじさん達に注がれる声援。
――おっさん達、頑張れ!
――行けー!
暖かな声に後押しされる様に、魔素の流れが急速に変化していく。
黒の重力波が徐々に減衰していくのだ。
「私が攻撃の魔素を散らすまで、耐えて下さい!」
セーラさんの魔素を操る能力。
強力な攻撃であるため、瞬時に魔素を操って霧散させるのは無理だ。
それをおじさん達と連携を取ることで不可能を可能としている。
有難う、皆。
もう、大丈夫だよ。
全て終わったからさ。
「3人とも避けて」
僕が声を上げた瞬間、おじさん達の気配が前方から消えた。
横に飛んだのか、防具のガチャガチャと地面を打つ音が左右に響く。
「穿て! サインボルテクス!」
重力波を呑み込み、閃光が敵へと向かう。
これで全てを終わらせよう。
正義の雷撃が強大な魔物へと直撃する。




