錬成ナイフ:ソフィアの視点
部屋に飛び込むと同時、事前に錬成済みであった赤のナイフを投擲する。
狙いは人の形をした謎の怪物。
皮膚に触れた瞬間、甲高い衝突音と共にナイフが落ちた。
回避の動きは全く無し。
硬いな。
かなり硬度を上げたアイテムを投げた筈なんだけど、傷一つなしか。
ナイフが地面に落ちる音と同時に耳障りな声が私を刺激する。
「遅かったな。丁度、おもちゃも安全に壊すところが無くなったところだ」
髑髏の怪物に踏みつけられたアスカ。
大分、酷くやられているみたい。
その代償か、怪物の右腕が完全に破壊されている。
どうやら、片腕を奪うところまではいったみたいね。
「人質を取るとか卑怯じゃない?」
「人質のつもりはないが、そう思われても仕方ない状況だな」
「じゃあ、返せっての」
「そうだな。次のおもちゃが現れたのなら古いモノはいらない。踏み潰せ!」
命令に頷き、踏み下ろしの体勢に入る怪物。
あの眼鏡、本当に屑。
普通に行ったら間に合わない距離。
まあ、布石は打ってるけどね。
怪物の足元に転がるナイフから突如、青のナイフを咥えた少女が出現する。
ナナリー、任せたわよ。
頭が踏み砕かれると思われた瞬間、アスカを攫い再び消えるナナリー。
最後の移動は暗殺技のひとつで短距離を高速かつ無音で渡る歩法らしい。
連続して使えないのが難点みたいだけど、とんでもない速度であることは分かる。
私でもほぼ捉えられない程の速さだからね。
「ご苦労さん。もう少しで来る盾のおっちゃんにアスカは任せよう」
私は背後に居るであろう少女に言葉を放つ。
アスカ救出までに掛かった時間は1秒にも満たない。
「大した奴だ。まさか、一晩でクリスの空間転移を模倣した錬成具を作るとは」
「私のポリシーは天才のみに許された技を凡人にも、だからね」
昨晩、不眠で試行していた空間転移を可能とするアイテム。
赤と青、対となるナイフ。
赤は青へ、青は赤へと転移する。
術式の起動は使用者に委ねられ、柄にあるボタンを押すだけ。
そうすれば、一方のナイフへと自動的に転移する。
弱点はナイフに蓄積した特殊エネルギーを使用するため回数制限があること。
クリスのように任意の場所へ飛べないこと。
エネルギー補給も私達の世界アルファと異世界の素材に頼る他ない。
辛うじて意識を繋ぎ止めていたのかアスカの口が微かに動く。
「わ、りぃ。右うを、……で、やっとだ、た。に、ひゃくごじゅ、ある、らしい」
「250……。レベルのことか?」
かなり、驚愕の事実だが、やることは変わらない。
ブチのめすのみ。
同じ様にナナリーも驚きこそあれど、恐怖した様子は見られない。
二人とも大概だな、と思う。
普通なら発狂してもおかしくない話だ。
痛み止めと治癒効果が秘められた札をアスカに張る。
"札"と呼ばれるリルアから教えて貰った知識で作成したアイテム。
錬金術の基本概念として、力を宿し易い構造というモノが存在する。
紙に術式を記して効果を生む札は比較的、錬成し易いアイテムのひとつだ。
私的に治癒系のアイテムを作る時は札の形で運用することが多い。
好みの余地が入る部分ではあるのだけどね。
アスカに張った札は本来、全力での戦闘を持続させる際に使用するモノだ。
筋繊維摩耗の緩和や、熱処理、軽微な損傷であれば自動で癒す。
クリスが来るまでの繋ぎではあるけど、それなりに効果はある筈。
魔物使いとして本性を現した、敵を見据えた。
一瞬の出来事に呆けていた表情が怒りを含んだモノへと変わる。
ムカついてるのはこっちも同じ。
ローブの内に収納していた、義手を装着する。
同時に聞こえるのは沢山の声だ。
大丈夫。
私達は負けないから。
「隻腕の錬金術師か。まさか、大賢者の技を再現するとはな」
「なんなら、アンタのゴミみたいな能力も再現してあげましょうか?」
「口の減らないガキが……。先は虚を突かれたが次はない、行け!」
不意に視界が大部屋を俯瞰した風景へと変わる。
隣にいるのはナナリーだ。
彼女が転移ナイフを使い天井まで運んでくれたのだ。
錬金術で瞬時に足場を作成し、身を預ける。
敵は私達が何処に消えたのか分からず右往左往しており、
「アスカも無事飛ばされたみたいね」
「アスカにナイフを使わせた。通路に潜伏しているタンクの元へ飛んだ筈だ」
「じゃ、気にせず本気で戦えるってことで」
それにしても参った。
レベル差がありすぎて姿を追いきれない。
三倍以上か。
中々にハードね。
「ナナリーは見えるの?」
「辛うじてだ。私の場合、メモリーピースをステータス上昇に全振りしているからな」
「メモピ二枚、ステアップに使う人なんてごく少数でしょ。大体、スキルに振るし」
「そのお陰で今があると思え」
「ならもう一枚、メモピをステアップに使ったらどうなるのかしら?」
「バレていたか」
ナナリーは100レベルの女王蜘蛛五匹を昨日、葬っている。
洞窟に入る前は70レベル程度。
メモピが手に入る80まで上がっていても不思議じゃない。
という情報は全部、リルアから聞いていた。
やっぱズルいわ、鑑定スキル。
相手のレベルが判れば、メモピの使用枚数が分かる。
これにより、事前にどの程度警戒すればいいか判断の基準になるじゃない。
まあ、リルアは基本ワンパンだから気にしないのかもしれないけどさ。
「しかし、どうやって戦う?」
「その前にメモピは使ってくれるでいいのかな?」
「ステアップに使うしかなかろう。奴を倒すためには」
「ありがと。私も錬金術でドーピングする。一時的に怪物の動きが追える筈」
「その後は?」
「私専用の転移ナイフとコレを使う。後は洞窟で見せた剣群かな」
「速さは対応出来るかもしれないが、防御を貫けるかが問題か」
「ま、やってからのお楽しみってことで」
方針は決まった。
義手の異空間に格納していた赤の丸薬を口に含む。
効果はステータスを一時的に三倍にする。
持続時間は5分。
アスカに使った札は既に身体中に仕込んでいる。
負担を押さえながら戦える筈だ。
怪物が天井で待機する私達を発見する。
250レベル。
前代未聞の怪物だか、やるしかないか。
私とナナリーはそれぞれの持つナイフを投擲し、同時に突撃した。
多忙のため次回6/10更新予定




