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救いの声:セーラの視点

 ぎゅっとスケッチブックを抱きしめる。

 リルアさんが転移陣に飛ばされる要因となった魔物。


 それが現れる前に動く人物がいた。

 彼女は鞘から解き放った剣を手に、私達へ背を向けている。

 刃を覆う漆黒のオーラは魔物へと微かに繋がっていた。

 

 不意に身体が誰かによって抱えられる。

 私と魔法使いのおじさん。

 後衛を逃がすため、アスカさんが私達を小脇に抱え距離を取ってくれたのだ。

 私達から手を放すと、綺麗に短く切り揃えた髪を靡かせ、敵に振り返る。

 そして、


「アンタが噂の魔物使いでいいのかな?」


 召還された魔物が大きく跳躍し、術者の背後に着地する。

 彼女は大猿似た魔物の肩にスッと飛び乗ると、


「そうだ。ようやく奥まで辿り着いたようだし、終わりにしようと思ってな」


 眼鏡を掛け直しながら、切れ長な目で私達を一瞥する。

 スケッチブックに言葉を描く。

 そして、私は犯人の名を記したそれを掲げた。


【フアナさん! どうして】

「どうして? 愚問だな。私達は宝を争う者同士。仲間ではないだろう」


 彼女の言葉を受け、手にしたキャンパスがくしゃりと音を立てる。

 言っていることは分かる。

 でも、根本的に私達と貴方は違う。

 本当に殺戮を楽しむ者。

 言葉を失った日を思い出す。

 私の大切な人達を奪ったあの人も貴方と同じような瞳をしていた。

 そう、賢者のスキルに覚醒した兄を容易く倒した殺戮の使徒のように。


「そのスキル、眷属を殺すものではなかったのか?」

「知る必要はないだろう。お前達はこれから死ぬのだから」


 魔法使いのおじさんの問い掛けに答える気はないみたい。

 けど、私は何となく答えに辿り着いていた。

 彼女の能力は5親等以内の者を"殺す"ではなく"従える"だ。

 フアナさんが数千匹の魔物を葬った方法はこうだ。

 ラットスパイダーは自爆が可能なモンスター。

 多分、自爆するよう命令したんだと思う。

 自身の脳か心臓を破壊しろという指令、ごく小規模な爆発を利用して。


 状況に合わせて能力を錯覚させる手法はよくある。

 相手に自らの能力を誤認させることは、大きなアドバンテージを生む。

  

 フアナさんの剣から第2、第3の魔物が召喚されていく。

 あの剣、恐らく魔物を封じる能力を持っている。

 魔物封じの武器は物凄くレアリティが高い。

 それでも、封じるのであれば1体が限度。

 魔物を完全に支配下に置くことで数体の魔物を封じることに成功しているんだ。

 抵抗が無い分、数多くの魔物が封じられるみたい。

 同じことを思ったのかアスカさんも、


「魔物封じが、魔物運びになってるじゃねーか。用途が別になってるし!」


 その時だった。

 不意に誰かに呼ばれた気がした。


――あぶないよ。


 ひとつじゃない複数の声。

 声に導かれる様に召還された3体の魔物を見た。

 瞬間、蛇の姿に似た魔物が消える。

 危険を感じて隣にいる魔物使いの手を引いて、後方へと飛ぶ。


 突如、巨大な影が現れ、長大な尻尾が地面を穿った。

 私達のいた場所を砕く一撃。

 さらに、亀裂を増していく大地。

 砕くといった表現は甘いモノだったと悟る。

 長大な裂け目を生み出す一撃。

 それだけで、高レベルに達した魔物だということが分かる。

 さっき、聞こえた謎の声がなければどうなっていたか……。

 嘲笑を含んだ言葉が耳に届く。


「私の使役する魔物は全て120を超える化け物達だ。存分に楽しんでくれ」


 レベル差がありすぎる。

 さっきは謎の声に助けられたけど、何度も回避するのは無理だ。

 まして、魔法使いのおじさんはかなりレベルが低い。

 何が起こったのか全く分かっていないと思う。

 支援しながら、私に戦うことが出来る? 

 ダメ、自分を守るので精一杯だ。


――助けてあげて。


 また、たくさんの声が聞こえる。

 泣きそうで、消え入りそうな声もある。

 そうだよね。

 見捨てるんじゃなく、協力して乗り越えるんだ。

 おじさんの腕に文字を描きこむ。

 それを見て頷く彼を守るように、私は防御の構えを取った。

 魔物の攻撃が来るからだ。

 致命傷でも一撃くらいなら耐えられる筈。


――大丈夫。


 大勢の声が示すように、それは来た。

 紫の閃光が魔物を弾き飛ばす。


 そこには紫電の獅子を纏ったアスカさんが突きを放った姿勢で佇んでいた。

 幻獣の憑依。

 前に見た鳥型とは別の神。

 けれど、攻撃を受けていない筈なのに彼女の口端から一滴の血が落ちる。

 身体に負担を強いるスキル。

 悠長に戦ってる時間は私達にない。

 

 吹き飛んでいく魔物に指を向ける。

 魔法使いのおじさんに記した内容と同じ行動を取る私。

 それを見たおじさんは、スピード重視の火の矢を放った。

 威力はいらない。

 ただ、当てることのみに特化した高速の矢だ。

 そこに私のスキル《カラースレイブ》を重ねる。

 魔素の従属。

 赤の魔素を収束し、火の矢にシンクロさせれば、


「私の火の矢が、巨大な炎の鳥に!」


 紅蓮の鳥が蛇の魔物を食い尽くす。

 ボロボロと消し炭になっていく魔物。

 その光景を見ても、笑みを絶やさないフアナさん。

 彼女は椅子代わりにしていた猿型の魔物から飛び降りる。

 そして、


「他のメンツが来ても面倒だ。今の内にとっておきを作ろうか」


 一気に9体の魔物が召喚される。

 その中でも禍々しい巨大な口を腹部に待つ魔物に眼が釘付けとなる。

 明らかに他とはレベルの違う異常な何か。


「喰らえ」


 主であるフアナさんの声に反応を見せる魔物達。

 次の瞬間、魔物が魔物を食事とする凄惨な光景が始まった。


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