右ルート攻略組
銀の弧を描いた剣閃が死霊の群れを両断する。
寸でのところで躱した魔物が態勢を整えようと一気に後方へ下がった。
しかし、それを見逃す私の下僕達ではない。
回避先を予測した飛び蹴りと光の雨が魔物達の身体を霧散させた。
委員長と元気、何気に強い魔法使いのおっさんに掛かればこのくらい朝飯前だ。
ちなみに、私はスケッチの護衛役である。
レベルを上げたくないからではない。
可憐で胸が大きい子を守るのは、私に与えられた使命なのだ。
キャンプを終え、私達は当初の計画通り二手に分かれ攻略していた。
道を分かつ寸前、民族が私を睨んできたんだよね。
クリスと一緒にさせたのに、その仕打ちって酷くない?
乙女心は謎である。
スケッチは時折、目がウルっとしてるけど、早く立ち直ってくれ。
罪悪感で潰されそうだ。
班決めとか二度とやりたくないわ。
頑張ったのに、何か悪役じゃん。
それは置いておくとして、クリスからリーク情報を受け取っていた。
民族のスキルが料理、らしい。
あの殺しを楽しむような奴が料理とかギャップありすぎでしょ。
若干の疑いはあるが、幼馴染の助言として信じることにする。
他人にはバラさないで欲しいと、お願いされたがそこは大丈夫。
スキルは私達にとって戦の生命線だから、バラすようなことはしない。
そこは、分別をつけるべき道理だ。
勿論、仲間である内はだけど。
『目星は全て潰れましたか』
(うーん、スケッチの能力で黒龍を操れたりはする?)
『無理でしょうね。単属性よりの魔物ではありませんので』
(だよね。もう、おっさんズしかいないじゃん)
『彼等の動向も気にすることですね。時にリルア様』
(何かあるの?)
『喉が渇きませんか?』
(飲まないよ、私は絶対に!)
『見事な倒置法ですね。残念ですがそろそろバフが消えてしまいます』
ていうか、経験値バフの持続時間長くないですかね。
完全にチートじゃねぇか。
しかも、何か飲んだら持続するんかい。
逆に気になってしまうわ。
パーティーを分割して5時間。
時折、魔物も出るしトラップもあるけど、攻略は順調に進んでいた。
最初のラットスパイダーが鬼門であり、それ以外は幾分か楽だった。
長い間、ダンジョンを進むとそれなりに何も無い時間があるわけで……。
少数パーティーとなり、会話することも増えたため名前呼びが始まる。
その過程で分かった名前。
委員長がフアナ。
スケッチがセーラ。
元気がアスカ。
魔法使いのおっさん、魔法使いのおっさん……忘れたわ。
きょ、興味がないから忘れたとかじゃないんだからね!
他愛のない話も発生するが流石は急増パーティー。
お話が長く続くわけでもなく、時折空白の時間が生まれる。
その間を利用して、寂しい思いをしているであろう鑑定スキルに話掛ける。
何度も騙されているが、気配りをする聖女な私。
(それにしても、近代的なダンジョンだね)
『近代とは何を指すのでしょうか』
(私の転生前の世界に似ているなって)
そうなのだ。
洞窟と研究所が一緒くたになったような構造。
長い道が続く時は、石灰岩らしき物質が堆積した鍾乳洞を彷彿とさせる洞窟。
何かの部屋が近付くと研究所を想起させる鉄筋コンクリートっぽい道に変わる。
まだ、機能が生きている場合は扉前に近付くと自動で開くのだ。
私が異世界アルファで暮らしている限りでは、自動ドアなんて見たことない。
(ちょっと不気味。この世界には見られない構造っていうかさ)
『私の見立ては、三千年前に建造されたダンジョン、いえ、施設だと推測します』
(こういった場所って他にもあるの?)
『発見した国家が厳重に管理しているため、情報の開示が殆どありません』
(ふーん、その割に地表で先端技術の一部も見たことがないんだよね)
『そうでもないのでは。目に見えないインフラ関係では恩恵を受けているかと』
(たとえば?)
『上下水道施設です。王都限定となりますが、近年発達が著しい分野です』
(へー、あんまり行かないから……。って、私と一心同体なのにどこで情報を?)
『過去三年分で見聞きした会話から判断しています。全て記録してあるので』
(すごっ! そんな機能があったんだ)
『ちなみに、風呂上りでリルア様の無い胸に関する発言は900回を超えてます』
(今すぐ記録から抹消して下さい、お願いします)
どんだけ、呟いてんだ私。
ちっぱいツイート、そんなにしてたかなぁ。
そう思っていると、次の扉が見えて来た。
今までと違う、同じことを思ったのか委員長も、
「随分と厳重な扉に見える。終わりが近いのか?」
扉に近付くと、巨大なボルトが回転し、何やらロックが外される。
蒸気も利用されているのか、白煙に包まれる私達。
中は最初に訪れた100メートル四方の巨大な空間に構造が近い。
その奥には厳重にガラスケースに保管された何かが見える。
もしや、あの中にレベルを下げる秘薬があるのでは?
『気をつけて下さい』
(えっ、何?)
『転移陣のトラップが部屋中央を横断するように張り巡らされています』
(ありがとう、皆にも伝えないとね)
私はパーティーの先頭にいる委員長を追い抜き、小走りに駆け出す。
向かうのはトラップが設置されているであろう場所。
部屋中央まで来た私は、その場を示そうと大手を振って叫ぼうとした。
背中を何かが押した。
しまった、という思いと共に態勢を何とか後ろに向ける。
そこには、巨大な魔物が今まさに具現化しようとしていた。
召還場所を私の背後に合わせたのか、刹那的に反応が一瞬遅れてしまったのだ。
魔物のさらに向こうで、醜悪な笑みを浮かべる犯人の姿が視界に入る。
まさか、お前が……。
そう思った時には、別の場所に飛ばされ、私の視界は完全に切り替わっていた。




