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悪役の令嬢:ナナリーの視点

 久し振りに料理をした。

 昔、純真無垢な少女だった頃を思い出す。

 最初は傍観に徹しようと思っていた。

 けど、私以外壊滅的に料理の基礎がなってない。

 赤毛の女は失敗しても、錬金術で団子にすればいいとか頭がおかしい。

 余りにも酷い惨状に、ついつい手を出してしまったのだ。


 見張り番として過ごす時間。

 思い出すのは過去のことばかり。

 料理をしたのは失敗だったか。

 二度と取り戻すことの出来ない、美しき日々を垣間見てしまったから。


「ナナリーさん、横に座ってもいいかな?」

「……別に、構わん」


 大賢者のスキルを持つクリスという少年が横に座る。

 彼に好意がある素振りを見せたのは打算的なモノだ。

 将来、確実に高い地位に就くであろう彼に顔繫ぎをしておけば恩恵が得られる。

 そう思った私は、甘える雌猫の様に身を寄せたに過ぎない。


 かつて貴族の令嬢として優雅な暮らしを送っていた私。

 未練は無いと思っていたけど、まだ諦めきれないのねと苦笑する。

 王都で煌びやかなドレスを翻し、豪奢な晩餐会に参加していた日々。

 過去に囚われたせいか、どうも今は話す気になれない。

 態度も素っ気ないもので、


「何の用だ?」

「ちょっと、お話でもって」

「例えば?」

「その派手な、可愛らしい衣装とか……」

「見えるのか?」

「その人が発する音の多さとか、種類とかかな」


 衣擦れの音などを判断しているのだろうか。

 それにしても、凄まじい感度だ。


「後は何だ?」

「単純にお礼かな。すごく美味しい料理だったから」

「他が駄目すぎる。ああいう女達が普通だと思わない方がいい」

「フフッ、肝に命じとくよ。それにしてもナナリーさんのスキルって素敵だよね」


 彼の言葉にぞくりと身体を震わせる。

 料理を作る際に隠して使用した固有スキルがバレていたことに。

 熱が顔中に広がっていくのを感じる。


「料理に関するスキルでしょ? 」

「くっ、他の人にバラしたら殺すわよ……」

「あはは……。それも肝に命じとくよ」


 不意に頭の中で声が聞こえた。


――顔、お熱? 恋してる?

――恋ってなあに?

――大人になったら、みんなするやつ。


 気のせいよね。

 私の内面を読み取るような複数の声が聞こえる。

 きっと、疲れているのよ。

 その原因は目の前にいる大賢者のせいね、きっと。


「それで、何で私のスキルのことが分かったわけ?」

「僕は目が見えないから、一早くスキルの発動に気付く必要があるでしょ?」

「訓練でもして身に付けた力だとでもいうの?」

「幼馴染と特訓したかな。スキルが発動した時のチリつく感じとかね」

「チリつくか……。私には無い感覚だな」

「ナナリーさんのスキルはふわつく感じで、なんか安心する」

「はっ、恥ずかしいことをベラベラとっ!」


 時折、取り繕っていた高圧的な喋り口調が薄れ、素の私になりかける。

 調子が狂うな。

 特に何でも受け止めてくれそうな、優し気な笑顔が……。

 

「ナナリーさんも強くなるために、必死に特訓したんでしょ?」


 何処か寂しげな彼の問いに対する答えはイエスだ。

 暗殺技術は後天的に身に付けたモノ。

 そもそも、私は王家に仕えるよう育てられ、料理スキルを発現させた。

 20レベルで取得可能な固有スキルはこれまでの人生を大きく反映する。

 御手伝いの修業を積んでいた私が覚えるスキルとしては妥当なモノだ。

 後に暗殺業に手を染めるとは微塵も思ってなかったけど。


 固有スキルを習得した直後、私の人生は大きく転落する。

 結論を言えば王家に切られ、没落貴族となった。

 それならばいい。

 最後には一族諸共、闇に葬り去る為、虐殺にあったのだ。

 

 当時は知らなかったが、私の家系は王家お抱えの暗殺屋だった。

 黒い仕事を忠義の証として貴族の地位についた家系だ。

 男として生まれた場合は、暗殺業を継ぐ。

 女として生まれた場合は、王家の秘書や召し使いとして働く。

 一族でも暗殺に関わる者しか、詳細は知らされない。

 情報の漏洩を防ぐためだ。


 王族が懐に暗殺屋を置くなどリスクのある行為だと思うかもしれない。

 答えは逆だ。

 忠実な飼い犬の方が危険が少なく、秘密裏に葬るとしても簡単なのだ。

 野党を暗殺者として雇った場合、裏切り、脅迫といったリスクが付き纏う。

 秘密裏に消そうにも、誰が関わったのか一から調べる必要があるからだ。


 何も知らなかった私。

 運命の日は突如として訪れる。

 王家が私達一族を葬り去ることを決定したのだ。

 何かしら王に繋がる証拠でも挙がったのだろう。

 それについての詳細は私には分からない。

 あるのは責を一族に押し付け、証拠隠滅込みで虐殺されたという事実だけ。


 皆の助けを受けて、運良く生き延びた私と父。

 いつか王家に復讐するため、殺しの技を父から学ぶ日々を送っていた。

 それも国からの追手により、父が殺され、終焉を迎えることとなる。


 私一人で王家に復讐出来るわけでもなく、殺しの技を以て日銭を稼ぐ日々。

 料理のスキルを使って表の仕事をと考えたが、追手の件もあり出来なかった。

 そんな私に突如として舞い込んで来たのが、ダンジョン攻略の話だった。

 生きていく上で少しでも金が得られればと参加した。


 暗殺者として悪役ぶってはいたけど、料理の件で動揺するなんて不覚よね。

 彼が私の返答を待っている。

 何だっけ、生きるために何をしたかだよね。


「生きるために暗殺技術を死に物狂いで学んだ」


――お胸、痛い?

――目の前のお兄ちゃんに悲しいのお話しする?


 ああ、また声がする。

 この謎の声は、自分が疲れているのだと割り切ることにした。


 声の言う通り、心の内にある悲しみを打ち明けたい衝動に駆られる。

 けれど、王族への復讐のために修行した、とは言わない。

 彼が今後、英雄として王族と関わることは必定。

 迷いの種を与える必要なんてないのだから。

 正義のため切り捨てられる悪は必要なのだ。

 その役目がたまたま私達、一族だっただけの話。

 納得は出来ないが、抗う術がないというのが現状だ。


「でも、そういう生き方を望んだわけじゃなかったんでしょ?」

「最初はそうね。けれど、悪役として生きていく方が楽なのよ。アナタにとやかく言われる筋合いはない」

 

 今の生き方を望んでいるのだと嘘を付く。

 これ以上、私に踏み込んでくるなという威圧を込めて。

 だが、銀髪の少年は意に返さず明るい表情で、


「ごめん、もう言わないよ。でも、また美味しい料理は食べさせてほしいかな」

「卑しいわね。普段、大したもの食べてないのかしら」

「いや、料理作ってる時のナナリーさんはとても楽しそうだったから」


 コイツ、全然理解していない。

 天然なのかしら。

 私の内側に入り込んでインファイトを仕掛けてきた。


 駄目だ、私。

 凄く嬉しいと思ってる。

 心臓の鼓動もやたら煩いし、何なの、もう。


「あ、明日の準備があるから、アッチ行きなさい!」

「あ、うん。じゃあ、ダンジョン攻略終わったら料理食べたいな」


 どんだけ料理にご執心よ。

 逆に私目当てじゃないことに腹が立ってきた。

 クリスはそそくさと赤毛の女の元へ向かう。

 

 あの二人、幼馴染とか言ってるけど、実際どんな関係なのかしら。

 胸がざわつく。

 ってもう、私ってば普通の恋する乙女になっちゃってるじゃない!


――ちゅーするの、ちゅー?

――ちゅーって何?

――好きな人とするやつだって。

――お姉ちゃん、お兄ちゃんがちゅー?

 

 ちゅっ、ちゅーなんてしないわよ!

 何なの、変になりすぎて頭のお花畑でも咲いたのかしら。


 本当に疲れている。

 ダンジョン攻略が終わり、1人に戻れば迷いも消える。

 きっと、謎の声も聞こえなくなる筈。

 そう言い聞かせ、取り繕うように明日の準備を始めるのだった。


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