怒り
異世界の言語で記された焔の文字、山と神。
浮かび上がるのは元気娘の双肩、その上部。
文字はそれぞれ社に変化し、スロットロールを展開する。
「いい目を引いてね」
高速回転が始まり、暫くの後、出目が揃う。
数値の"100"と"ゴホウ"の文字。
次の瞬間、五色に彩られた煌びやかなオーラが元気娘を覆い、
「数多ある霊山に隠れ住む、幻獣をランダムに憑依させる私の力……」
夢幻か。
巨大な怪鳥が元気の身に舞い降りたような錯覚を覚える。
いや、違うな。
それが核心に変わったのは、彼女の背から五色を基調とした羽が生えたから。
『神降ろしの類ですね。彼女のレベルが100まで跳ね上がりました』
(一瞬にして、幻獣レベルまで強化可能とかコイツもなかなかに……)
『"ゴホウ"は昔、世界の東西南北、そして中央に存在していた怪鳥です』
(知ってるの?)
『はい。彼等が一つとなり、神鳥、つまり幻獣まで覚醒した姿が"ゴホウ"です』
少女を中央に据えた神鳥が空を舞った。
見定めるのは、60レベル台の生き残った中蜘蛛が集まる大部屋の一角。
「焼き尽くせ! "ゴホウ"」
手の振り被りと同時に、五色の炎が蜘蛛達を包み込む。
中蜘蛛どころじゃない。
部屋の中央付近が一気に焼かれ、残ったのは地面に残る蜘蛛達の焦げ跡のみ。
馬鹿野郎、火力高すぎやろ。
委員長と元気によって、蜘蛛の軍勢が残り3000匹まで減少した。
力を行使し、幻獣の力が霧散した元気がストンと大地に舞い降りる。
そして、身体中に異常が無いか確かめながら、
「身体中、痛ったいなー。流石に100レベルはちょっと無理しすぎたかな」
「アハハハッ! お前等、面白い能力を持っているな」
高笑いを浮かべるのは民俗。
いつの間にか、女王蜘蛛5匹の前に腕組みで仁王立ちしていた。
敵も味方もゴホウ降臨に目を奪われていた隙に肉薄していたのだ。
姑息なり。
アイツ美味しいところを全部、持っていく気だ。
勿論、私としては願ったり、叶ったり。
レベル上げないで進めるなら、万々歳って感じよ。
『チッ、チッ、チッ、チッ、チッ』
私の中で舌打ちしまくる鑑定スキル。
悔しかろう。
三万もの軍勢。
それを目の前にして、私が倒したのはたったの一匹なのだから。
へへーん、ざまぁである。
まあ、まだ民族が女王達を倒せるとは決まっていないのだけどね。
そんな民族を皆が固唾を飲んで見守る。
残りの子蜘蛛達も助けるために自爆特攻を仕掛ける素振りを見せない。
行ったところで無駄だと悟っているからだ。
睨み合う人間一人と巨大蜘蛛5匹。
不意に民族が踵を返して、此方に帰ってくる。
皆、一様に、えっ? みたいな表情を浮かべていた。
何もしていない。
だが、私は違う。
コイツ、殺りやがった。
しかも、スキル無しにスピードのみで。
瞬間的な加速を生む特殊な歩法。
かなりの速さだ。
私の十分の一。
いや、大目に八分の一くらいのスピードと定義しておこう。
民族が5個の球体をぐるぐると愉快そうにお手玉しながら、歩を進める。
五つの球体。
それは、女王蜘蛛の心臓。
100レベルの魔物5体を相手に一瞬で抜き取る神業。
まだ生きてると錯覚しているのか、トクントクン、と規則正しく脈動している。
それに気付いた冒険者や騎士達の顔が一瞬にして蒼褪める。
「終わりだな」
不意に民族から告げられた最後通告。
手玉にしていた心臓が宙に舞い、一カ所に集められ、お互いを押し合う。
耐え切れなくなったそれは空に赤の華を盛大に咲かせた。
ボタボタと落ちる赤黒い雨。
同時に部屋の最奥で5匹の女王蜘蛛がドスンと倒れる音が響く。
それを見て怯えるスケッチの前に私は立つ。
死を弄ぶ残酷な光景は見なくていい。
残りの蜘蛛達も勝てないとみるや遺跡の奥や割れ目などに一目散に逃げていく。
彼等を追う者は誰一人としていない。
もう、決着はついているのだから。
「フフッ、あらかた片付いたな。さて、諸君改めて宝探しを開始するとしようか」
「楽しんでいるな、貴様」
「邪魔するな眼鏡。蜘蛛と同じで何も感じず、木偶となるのは本望じゃなかろ?」
委員長が民族に食って掛かる。
止めておきなさい。
ぶつかり合ってもお互いが不幸になるだけじゃん。
睨み合う二人を横目に私は皆の先頭に立つ。
それにしても、凄惨な光景だな。
蜘蛛達の残骸が大広間にところ狭しと転がっている。
中央は焼けた蜘蛛達の影がこびり付いている状況だ。
「アンタ達は良くやったよ。迷宮の守護者としての責務を果たしたのだから」
私は大きく拳を振り被り、大空間を殴り飛ばした。
蜘蛛達の遺体を跡形も無く消し飛ばすために。
焼け焦げた跡が残る地面も綺麗に削り取る様に拳を振るった。
いつまでも、凄惨な姿を晒しているのは本望じゃないでしょうよ。
一瞬にして、白亜の空間となる大広間。
死骸は跡形も無くなり、地面は真っ新に生まれ変わっている。
うん、こんな弔いしか出来ないけど許してね、ラットスパイダー達。
勿論、普段ならこんな馬鹿力を示すような真似はしない。
そう、単純にムカついたのだ。
殺すのであれば、それなりに敬意を払え。
私もついワンパンしちゃって、可哀そうな倒し方をしてしまう場面もある。
けれど、最後に奪った命に対しては後で献花して、祈りを捧げているんだ。
私は満面の笑顔を作り、皆が見える様に振り返る。
「さあ、ダンジョン攻略を開始しよう。皆、仲良く……ねっ!」
言葉の締め括りに握った拳と平手を胸前で強くぶつけて快音を響かせる。
民族、そして隠れているであろう魔物使い。
私を怒らせるなよ。
これは、警告だ。
次に舐めた真似をしたら、この拳を直接、アンタ達に叩き込むからね。




