064.建国史
「だが、あのネコレンジャーの様子だと、あそこにいるのはシロウではないだろう」
コウヤが、三つの勢力に分かれて戦っている様子を見て、そう結論付ける。
それは次の瞬間に、百二足の影から陽の下に出て来た姿を見て確定した。
「見た事が無いワンワンオーにゃ!(あせあせ)」
アニィが、黒い爪を持つ黒毛の狼を見て興奮して叫んだ。
「アニィの縄張りに入ってくるなんて許せないにゃ(あせ) 戦争にゃ!(あせあせ)」
「おまえが言うな!」
コウヤは、短期間に何度も国境を侵犯しているアニィが、それを言うか、と呆れる。
「黒狼? いえ、人狼と言うものでしょうか?」
「違うにゃ(あせ) アイツらと似てるけど違うのにゃ!(あせあせ)」
ハツカには区別がつかないが、アニィには、あの魔物の識別が出来ているようだった。
だがそれでも、その正体を正確には計れていなかった。
「新種か亜種の魔物のようだな。とりあえず『黒爪狼』と言う事にしておくぞ」
コウヤは、後々ギルドに報告する為にも必要となる識別用の名称を付ける。
そして、百二足の影にいた者がシロウではなかった、と確認した。
そうなってやっと、ルネが冷静さを取り戻す。
と同時に、これはどう言う事でしょう、と頭に浮かんだ疑問を呟いた。
「ルネ、何か気になる事があるのですか?」
こぼれ出たルネの言葉をハツカが拾う。
するとルネは、自分のつまらない疑問が漏れていた事に気づき逡巡する。
だが言葉に出してしまった以上、引っ込める訳にもいかなくなり説明を始めた。
「犬と猫に分類される魔物は、同じ土地で活動をする事は無い、と聞いた事があります」
それは、先ほど憤慨していたアニィの言葉と重なる話だった。
「そう言われると、国境の街までの道中でも犬や狼の魔物は見かけませんでしたね」
ハツカは、その区間で見かけたヤガランテ達もネコ科の魔物だった事を思い出す。
「そうです。この辺りだと狩猟都市辺りを境に、こちら側が猫の領域、と言う話でした」
「そうにゃ(あせ) こんな所まで入り込むなんてルール違反にゃ!(あせあせ)」
そしてアニィは、ご立腹だった。
「ちょっと待て、ルール違反って事は、ちゃんとした取り決めが交わされているのか?」
「そうにゃ(あせ) 古くからある契約にゃ!(あせあせ)」
アニィの話を聞いてみると、狩場での争いを避ける為に交わされた契約だと言う。
「子猫達が、そんな契約を本当に守っているのか?」
「ミィラスラ王国の国境は平気で侵犯していますよね?」
「何を言ってるにゃ(あせ) あそこは、いまもアニィ達の縄張りにゃ!(あせあせ)」
「「「えっ?」」」
アニィの言葉にコウヤ達の思考が止まった。
「後からやって来た人間が、勝手に家を建てて住み着いたのにゃ!(あせあせ)」
アニィが主張しているのは、この地に人間が住み着く前からあった狩猟領域。
その後、子猫達の生活圏を侵犯して人間が区切った国境と言う枠組みではない。
そしてアニィは、自分達が知らされている子猫達の歴史を語った。
◇◇◇◇◇
子猫達は、長い寿命を持っている。
その一時となる時間で膨れ上がった人間が、子猫達の狩猟区を我が物顔に侵犯した。
その事を憂えた聡明な子猫が、人間の王の前に立った。
聡明な子猫は、人間の王の前で、古よりある子猫達の狩猟区について伝える。
そして自分達の狩場を、勝手に潰して住み着くのを止めて欲しい、と訴え掛けた。
しかし、幼い子猫の姿を侮った人間の王は、話を取り上げずに放り出した。
聡明な子猫は、何度も人間の王の下に訴えに行ったが相手にされない。
それでも長い時間をかけて、子猫は訴え続けた。
そして次第に、人間の考え方が分かってきた。
聡明な子猫は、たった一匹で訴えた所で、相手にされない事を学んだ。
いままでの子猫達のように、バラバラいてはダメなのだと。
それは、狩猟区を分けて互いに不干渉を貫いている犬達の現状からも明らか。
かの種族、人狼達は人間と敵対して狩られ、住処を奪われ、数を減らしていっている。
ゆえに聡明な子猫は、人間と同じように『国』を作る事にした。
人間と話をする為には、同じように国と言う形を持つ必要がある、と。
それからの聡明な子猫の行動は早かった。
他の子猫達を面白おかしく、興味を引く言葉や物で釣っていく。
と同時に、人間の王にあたる子猫の王を選定すべく、美猫コンテストを開催した。
それは、子猫達の発情期を狙った一大イベント。
大いに盛り上がった子猫達の熱狂によって、一匹の子猫が選定される。
この辺りは、子猫達の習性と人間の知識を学んだ聡明な子猫の手腕が輝いた瞬間。
そしてこの時に選ばれた子猫が、のちに建国の女王と呼ばれるアニィの先祖マドンナ。
その美貌と、他の追随を許さない圧倒的な魔力を保有する、強くて美しい女王。
フェイロイ王国の女王を頂点とする国家形成は、この時より始まった。
女王マドンナを擁立してフェイロイ王国の建国を宣言した聡明な子猫。
女王マドンナと共に、再度、人間の王の前に立つ。
しかし、人間の王は、子猫達の国を認めなかった。
いや、ある意味、認めたからこそ、戦争を仕掛けた。
フェイロイ王国は、建国と同時に戦争へと突入する。
その結果、熱狂的な支持の下、調子に乗った女王マドンナが隣国を滅ぼした。
圧倒的な魔力を行使しての魔法は、子猫達を大喜ばせる大爆発をもたらす。
熱狂した子猫達が満足するまで、次々と放たれた大花火大会。
この事によって、一国が消えてしまった。
聡明な子猫も、これには困った。
自分達は別に人間を滅ぼしたい訳では無い。
そう、ないのだが、調子に乗りすぎた。
自分達は、ただ狩場を荒らされたくなかっただけなのだ。
なのに、これでは完全に人間と敵対関係になってしまう。
聡明な子猫は困ってしまって、にゃん、にゃん、にゃにゃーん、と泣いてしまった。
だが、この女王マドンナの行為が、良いように転がった。
しばらくしてフェイロイ王国に、新しい人間の王を名乗る者が訪れた。
その人間の王は、互いの国を認め合いたい、と言ってきた。
その上で子猫達の狩猟区を認め、その一部に人間が住む事を認めて欲しい、と。
人間の王が、初めて子猫達を対等の立場と認めて交渉してきたのだ。
聡明な子猫は、感無量だった。
こうして新たに建国された王国とフェイロイ王国との間で契約が結ばれた。
子猫達は、いままでの狩猟区を容認させ、一定の領土も認めさせた。
人間達は、子猫以外の魔物の狩猟と旧王国の一部の住処使用を認めさせた。
これが運命の女神様の名の下に両国の王族が交わした最初の契約となる。
こうして旧リダ王国から新生したのが、現ミィラスラ王国がであった。




