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063.捜索

「そんな状態で動き回っていたら、全身に毒が回るのが早くなります」


 ルネの顔が青ざめる。

 シロウは百二足の毒を浴びた状態。

 その上、応急処置をする為の道具が入ったマジックバックも所持していない。

 そんな状況で孤立しているのなら、一刻も早く合流して治療しなければならない。


「落ち着け。まだ状況からの推測でしかない」


 コウヤは右往左往しているルネに声を掛け、落ち着かせようとする。

 しかし、冷静さを欠いたルネにコウヤの言葉は伝わっていない。


「ハツカさん、手分けしてシロさんを捜しましょう」

「ルネ、気持ちは分かりますが、こんな場所で単独行動を取るのは良くありません」

「おれ達が下手に散開して魔物と遭遇すれば、各個撃破されるだけだぞ」


 コウヤは、百二足を装飾蠍と同程度の脅威度と目算して戦力を計算をする。


 戦闘力が皆無なルネが単独で戦う事は論外。

 第一ルネは、このパーティで唯一、毒に対する知識を有している。

 そのルネを危険に晒す訳にはいかない。


 ハツカには、菟糸による拘束能力と燕麦による防御能力がある。

 ゆえに菟糸による足止めと、毒から身を守れる燕麦によって、魔物からの逃走は可能。

 そう言った意味では、単独行動を取れるとしたら、ハツカくらいだろう。

 だが、攻撃と言う点では、硬い外殻に覆われた魔物に対しての相性は良くない。

 ハツカの宝鎖では、あれらの防御を突破する事は、まず不可能。


 そしてコウヤも単独で百二足と対峙するのなら、条件を整えておく必要があった。

 単純な火力と言う点でなら、何発か放り込めば倒せる可能性はある。

 しかし、先ほどの装飾蠍と同程度の素早さがあるのなら、それを撃ち込むスキが無い。

 ゆえにコウヤが百二足と戦う時は、先制攻撃や一方的な攻撃が仕掛けられる時。

 または、魔法を放つ前後で仲間から支援を受けられる時、と言う条件が必須だった。


「ここは狩猟都市の森林地帯とは違う。戦闘になると逃げる事は、まず無理だぞ」

「分かっています。だからこそシロさんを急いで捜さないといけないんです」


 コウヤは、谷間となる地形と魔物の脅威度を比較して、再度ルネを(たしな)める。

 しかしその言葉が、逆にルネを(かたく)なにしてしまった。

 ルネは、コウヤに背を向けると倒木を回り込んで奥へと歩き出した。


「おい、どこへ行く気だ?」


 コウヤが声を掛けるも、ルネは答えない。

 ただただ前へと向かって歩いて行った。


「ルネ、本当に頭を冷やせ。シロウを探すなら、そっちじゃない」

「えっ?」


 コウヤの思いがけない言葉にルネが反応する。


「むやみに探し回るくらいなら、リスク覚悟で、こっちからだ」


 そしてコウヤは、ルネが足を進めたナナメ前方を指差した。


「それは何を根拠にしたものなのですか?」

 

 ハツカが、コウヤが差し示した方向の意味を問う。


「おれの探知に、さっきから引っ掛かっているものがある」

「コウヤの魔力探知にですか?」


 ハツカは不思議そうにコウヤに訊ねた。

 シロウは魔法が使えないので、コウヤの魔力探知に引っ掛かる事はない。

 それなのにコウヤは、自身の探知に引っ掛かったものを調べに行く、と言った。


「いや、熱探知の方だ。交戦中だと思える反応がある」

「そこにシロさんが居るんですか? なんで早く言ってくれないんです!」


 ルネは、すぐに向かいましょう、と駆け出そうとする。

 それをコウヤが、ルネの腕を掴んで制止した。


「だから落ち着け。そんな反応をするから言えないんだ」

「そうですね。この場合は、コウヤの言い分の方が正しいでしょう」


 ハツカは、コウヤに同意してルネを落ち着かせる。


「ルネが飛び出してしまうと、シロウの救助や離脱が困難になります」

「更に、そこにシロウが居なかった場合、無駄な戦闘をする事になる」

「ルネがすべき役割は、負傷や毒に見舞われた時の治療です」

「わ、分かりました」


 二人によって、向かった先でルネが前に出る事を固く禁じた。

 ルネは(あせ)る気持ちを抑え、しぶしぶと言った感じで、その話を受け入れる。

 その取りあえず感が分かっているハツカとコウヤだったが、これ以上の話は止めた。

 二人も、シロウの事が気がかりであるのは同じ。

 ゆえに、最低限の決まりだけを定めて、反応があった場所へと向かった。


 ◇◇◇◇◇


 コウヤが熱感知で発見した魔物の交戦地。

 忍び寄った岩陰から覗き込んだ先には、大ムカデの魔物、百二足(ヒャクニ)が居た。


 何者かと激しく交戦している百二足。

 その相手が複数の者、と言のが視界情報として入ってくる。


「ここからでは、誰が戦っているのか分かりません。もう少し近づきましょう」


 そう言ってルネが前に出ようとする。

 ここに来る前にルネには注意してあったのだが、どうにも気が()っている。

 行方不明のシロウの事が気に掛かりとなって、気持ちと共に足を前へと踏み出す。


「ルネ、落ち着け」

「あれは、どう見てもネコレンジャーです」


 冷静に観察を続けていた二人が呆れる。

 目の前にいる百二足は、同様に行方不明となっていたネコレンジャーと戦っていた。


「ええい、邪魔にゃ!」

「オマエなんかの相手をしている場合じゃないのにゃ!」

「さっさとあっち行くにゃ!」

「ねぇ、やっちゃう? 当然やっちゃうよにゃ?」

「けってーい!」


 ネコレンジャーは、百二足にイラつきながら(たわむ)れていた。


「いまの聞こえてきた感じだと、何か変ですね?」


 ハツカがネコレンジャーの怒声を不信に感じる。


「まるで、いましがた戦闘になったような会話だったな」


 それはコウヤも同様で、時系列が合わない、と感じていた。

 コウヤが、百二足の交戦状態を探知してから、すでにかなりの時間が経っていた。


 ここに(いた)るまでにコウヤが新たに使用していた熱探知。

 それは、急激な体温の上昇が見られた者を追う、と言う単純な探知方法。

 シロウが魔物と遭遇して交戦状態に入っているのなら、必ずこれに引っ掛かる。

 そう考えたからこそ、コウヤは複数の体温の上昇が見られた場所に絞って目を付けた。

 

 そして、当初から追っていた反応は二つだった。

 にも関わらず、ここにはネコレンジャーがいる。

 そして、そのネコレンジャーは、コウヤ達が着く直前に、この場に来た感じであった。


「二人とも何を言っているんですか、もう一人いるじゃないですか」


 そう言ってルネが指し示した先は、百二足の影。

 その影と同化して目視が困難となっている者が、そこには居た。


 よく見るとネコレンジャーの矛先は、百二足ではなく、その者に向けられていた。

 そしてその者は、ネコレンジャーとの間に百二足を置くように位置取りをしている。

 それは間違いなく、意図的に百二足を盾にしている動き。

 その為、コウヤ達の位置からは目視がしづらくなっていた。

 この瞬間、ルネの集中した注意力が、探知能力に頼りきっていた二人を上回っていた。

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