232 権限
(ゼーヴェ、ラティス。一旦戻って来られるか?)
(承知しました)
(やれやれ、先程来たばかりだというのに)
(悪いな、だがちょっと配置を考え直す必要がありそうだ)
正直なところ、予定通りの配置は悪手な気がしてる。勇者たちと争った上にラビの決死の攻撃まで入ってたのに、マコトはほとんど無傷だ。
ついでにシエルとエリッツさんとやらを蘇生するときた。正確に蘇生かは知らないが、今のところ特に制限もなく動き回ってるように見える。何かいじってるにせよ、これでリョーガとか出てきたら大変なことになるぞ。下手したら創造持ちが二人だ。やってられるか。
(マスター、聞こえているか。転移門が使えないようだが)
(私も今試してはいますが……駄目ですね。ロード?)
(ま、待て待て。俺なんもやってないぞ)
こういうときは再起動、いやその前にコンセントを確認、電源ケーブルを一度抜き差しして……
『エラー。転移門の管理権限が存在しません』
何だって。俺はここの主なんだぞ。俺でダメって、じゃあ誰ならいいんだよ。
『エラー。情報へのアクセスが制限されています』
いや……いやいやいや。どうなってんだ。こんなときに乗っ取り仕掛けてきた奴がいるってことなのか? どうやって乗っ取った? つーか誰が?
(マスター。状況は)
(あ、ああ……あんまり良くはないな……)
(そんなことは分かっている。何か心当たりは?)
心当たり? DMに送られてきた謎のリンクは踏んでないし、怪レい日本语のページにIDパスワード打ち込んだ記憶もない。
だからって、俺が自分から権限を移譲するようなことはないと思うんだよな。自分で言うのもなんだが、あんまり騙されたりしないタイプだ。本当だぜ。謎の壺は買わないし、オレオレ言うならプリ〇ュア37人言わせるし、レターパックで現金送ったりもしない。
じゃあ何かの術に引っかかってその間の記憶が消えてるとか……いや、それこそ有り得ない。羽衣貫通するようなのを遠隔でかけられるとは思えないし、記憶の空白もない(それに誰も気付かないとも思えない)。いつにも増してないない尽くしだ。
…………本当にそうか? あったはずだ。こんなときに、とは言ったが、そもそも事の発端と同一人物だとしたら。それに、完全に遠隔ってわけじゃない。俺は一回あいつと接触してるし、さっき丁度左腕が痛んだとこだった。
解呪して安心してたが、実は術自体は残ってたとしたら? そこから迷宮の管理権限を半分奪われて、その半分で諸々を書き換えられてたとしたら?
(分かったかもしれない。ラティス、は来れないか。シルヴァ頼む!)
(緊急事態みたいですね。今行きます!)
(では、我々はひとまずここで待機しておく。転移門が直ったらまた呼べ)
(ああ、分かった)
状況が良くなったとは言えないが、とりあえず一歩前進だ。一行はまだ81階、近未来階層に足を踏み入れたところ。時間的猶予はある。
「お待たせしました!」
「おおシルヴァ、忙しいとこ悪いな」
「いえいえ、それで御用とは?」
「腕の件だ。あいつの解析がまだ残ってるんじゃないかと思ってな」
今は痛みはないが、リフィストたちの戦闘が始まる辺りで一度確かに痛んだ。
……が、改めて見てみると本当に普段通りの腕だ。あれは気のせいだったような気さえしてくる。
「うーん……少し深く調べますね」
シルヴァは目を閉じ、俺の腕に軽く触れる。小さい手だ。頼りになるが、こいつもまだ子供なんだよな。
「……ありました。分かりづらいですが、かなり広がっています」
「レルアに解呪してもらったんだが、効いてなかったってことか?」
「いえ、解呪の跡は残っています。他の術式が複数発動する仕組みみたいですね。僕たちの播種に似ているので、ラティス先生はそこまで警戒しなかったんだと思います」
レルアさんを呼んでください、と言って、再び目を閉じるシルヴァ。言う通りにしておこう。
(レルア、ちょっと来てくれ)
(了解です)
「やっぱり。播種の上位互換ですね。大昔に用いられていた、アルデム先生とは別の魔術体系のものにも似ています。いっぺんに解呪するのは難しそうです」
「でも取り除くこと自体はできるんだよな?」
「……時間はかかりますが、恐らくは」
「失礼します」
ここでレルア到着。俺の腕に触れるシルヴァを見て、大体の事情は察してくれたらしく、
「私の解呪に不足が?」
「あ、いえその、解呪自体は綺麗に決まっていました。ラティス先生の言った部分は問題なく消えていましたし、レルアさんの責任ではないんです」
「では……?」
「……ラティス先生のせいでもないんですが。僕たちの播種で言う発芽が自動で行われているので、発見が難しかったんだと思います」
ああ、解呪自体は成功だったのか。じゃああの痛いのがデフォだったと。
「今回も解呪で取り除けるものですか?」
「はい。ただ……今ラティス先生にも聞いてみたんですが、広がった術式の数だけ使ってもらう必要がありそうです」
「了解しました。ではマスター、お手を」
ぐええマジかよ。それしかないのか、方法は。初めてじゃないけど痛くしないでほしいの。
「根の場所は探ればすぐ分かると思います。それじゃ、僕はこの辺で。レルアさん、お願いします」
そうして部屋を出ていくシルヴァ。二人残されて、謎の緊張感を覚える。触診じゃないが、そんな感じで腕に触れていくレルア――普段なら嬉しいだろうが、今は違う。いや今も嬉しくないわけじゃないが、そんな嬉しさに浸っている余裕がない。
「マスター。力を抜いて、リラックスしてください」
「うぉ……あぁ……」
魔力がブレッブレなのは自分でも分かってる。だがアレだ、痛いの確定してんのにリラックスは無理だぜ。あの目に空気噴射するなんちゃら検査でつい瞬きしちまうようなもんだ。
「なるべく丁寧に術式を構築します。私を信じてはいただけませんか?」
俺の目を真っ直ぐ見るレルア。そんなこと言われたらさあ、俺だって覚悟決めるしかないじゃんよ。
「……ああ。じゃあ、頼んだ」
「ありがとうございます。それでは――解呪」
一瞬光るレルアの掌と、魔術が発動した感じ、そして、
「痛っっっってえ!」
激痛。痛いもんは痛いんです。例え天使の施術でもね。




