でたとこクエスト 初戦闘③
今回、1人称視点と3人称視点が入り混じります。
いや。今さらですが。
俺は、落下しつつ阿鼻姫へと懇願していた。
阿鼻姫、頼む! 俺に力の使い方を教えてくれ!
―――――――なんだぁ? 儀一。えらく殊勝じゃねぇか? いい心がけだが、俺は手取り足取り教えてやる気はねぇぜ? 力の使い方なら、実際に使って覚えるんだな? ま、ヤバくなったら、代わってやるよ。
そういうと、阿鼻姫は俺の深層域へと引っ込んでしまう。
阿鼻姫の存在が感じられなくなり、俺の中には力だけが残った。
齟齬を感じることもなく、何者の意志も介在しない。
今の俺は過不足なく、俺そのものだった。
それと同時、俺の目に映る世界に変化が訪れた。
俺は俺の身体から溢れる、力の奔流を認識した。
俺はその力を右腕へと集中させる。
その力を喚び水とし、炎を生じさせた。
この力こそが、恐らくこちらの世界で言う魔力なのだろう。
俺はその魔力を使い、火の精霊を瞬時にして従属させたのだ。
俺は従属させた火の下位精霊の力を十二分に現世へと引き出させるため、言霊を思いつくままに唱えた。
「猛き火の精霊よ。我が求めに応じ、今、ここに力を示せ! 赦火爆炎! 爆ぜろ!」
俺の声に応え、妖魔の眼前に、炎が灯った。
爪の先ほどの小さな炎に不思議そうな顔をするのは、当の妖魔だ。「あうう?」と声を上げ、手で触れようとした瞬間、炎が膨張し、一気に爆発した。
爆風に煽られつつも、俺は地面へと難なく着地する。
妖魔は「ギャアアアアアアアア!」と、思わず耳を覆いたくなるような悲鳴を上げた。
ボタボタと真っ黒な肉が融け落ち、そのあまりの苦痛に身を捩る。
爆炎が収まると、そこには顔のおよそ半分を喪った『異形の赤子』の姿があった。
「我、奉るは鎮土ノ微塵姫。其の一撃は魔を伏し、鬼を征すに至る。―――――我が鉄槌に砕けぬものなし!」
妖魔へと追い討ちを掛けるため、言霊を唱えるのは憲吾である。
憲吾のの拳が目映いまでの光を放ったかと思うと、憲吾は「往生せいや」と呟いて、そのまま何一つ躊躇うことなく妖魔の腹へと拳を叩き込んだ。
どぅん。
というくぐもった音と共に、妖魔の体内へと叩き込まれた憲吾の魔力が、波動となって妖魔の腹から背へと突き貫けた。
やおら、妖魔の背中がブクブクと煮沸し始めたかと思うと、細かな気泡が生まれ、ついにはボチュンというような音がして、その背中が破裂した、その穴から内容物がドロドロのシチューとなって噴き出した。
イイイイイイウウウウウウウウウアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!
声なき声を上げ、形を失って行く妖魔の様子に「うっし!」「やったな!」とお互いに声を掛け合い、軽く拳を合わせる2人。
その様子を『白の不思議空間』から興味深げに眺めるのは、一つの小柄な影である。
「ふふん。あやつら、中々にやりおるわい。我の見立てでは、もう少し手こずるものと思っておったのじゃがのぅ。
―――――どれ、他の連中の様子も覗いてみるか」
そう呟くと、その影はおもむろに腕を振る。
その途端、何もない空間へと映し出されていた光景が切り替わる。
そこには複数の少年少女たちが、異形の怪物とそれぞれ戦っていた。
「ほうほう。今回の召喚は大成功じゃな。みな、こちらが予想した以上の働きを見せておる」
その人影はニヤリと人の悪い笑みを浮かべ「これは鍛えがいがあるわい」と、呟いた。
「それにしても、なんじゃのう。この2人は別格じゃの。天祥院明と来栖真希菜、中位妖魔も危なげなく瞬殺しとるのう」
そこに写るのは、美貌の少年が眉一つ動かさず、生きたオーガを依り代とした中位妖魔を、苦もなく消し炭に変える光景だった。
「具現化した能力は蹂躙帝炎烙か。ふむ。名は体を現すとは良く言ったものじゃな。アヤツからは覇王の気質が感じられる」
転じて、他へと目を向ければ、そこには鉄で出来た巨人が、オークとリザードマンを依り代とした数十もの混成部隊を、その一撃で薙ぎ払っている光景が見えた。
「こちらもまた凄まじいの一言よの。来栖真希菜。発現せし能力は黒鉄ノ機神とな。あの膂力であれば、巨獣の突進であろうと、食い止めるじゃろうの。全く末恐ろしい女子じゃ」
そうは言いつつも、どこか冷めた目を向けている。
「やはり、完成された器というものは、どういう訳か心に響かぬな。美しいとは思うのじゃが。ふむ。ならば、あやつらの底がどの程度のものか、試してみるのも一興かの?」
そう言いつつ、手の平を翻すと、そこに出現したのは、一冊の本。
グリモワールである。それも、異世界人が持つそれとは段違いの、凄まじい力を感じさせる代物だ。
そこに封印されている高位妖魔を適当な依り代に憑依させ、あの2人にけしかけようと言うのだ。
影は「いや」と、思い直す。
「いかんいかん。自重せねばの。また我の悪癖で、将来ある若者を潰しかねんところじゃった」
「あー、悪いんだー。やっぱりあなたの仕業だったんだね?」
という声は背後から。
慌てて振り向けば、そこにいたのは、2人の女。
いや、1人は女と言っていいものか、確かに形こそ女ではあったが、その体は水で出来ており、向こう側がユラユラと透けていた。
そしてもう1人は、深山雪乃。やはりこちらも向こう側が透けていたが。
「ふむ。ユキノか? 早く体へと戻らぬと、帰れなくなるぞ?」
と、そう言ったのは、ショタ神様、こと、ナハトムジークだった。
今回はコメディ色皆無ですねー。
しばらく、こんな感じが続くかもしれません。
まぁ、当然のように予定は未定なので、何一つ確かなことは言えないんですが。




