でたとこクエスト 交渉
ほぼ、会話説明のみ。
「驚いたものじゃな? こうも早く我のことが、それも雪乃のような娘にバレるとは考えてもみなんだ」
「うふふー。良く言われるー。けど、日本の神様はね。色々な側面を持つものよ? 表に見えてるものだけが、その本質とは限らないの。
しかも巌谷ノ小波姫の祖神である泣沢女はイザナギ命の慟哭の涙より生ぜし女神なのよ? 和物ファンタジー大好物で、日本書紀や古事記がマイバイブルな私の、一番大好きな女神なのよ? 不可能なんてないって信じてるー!!!!」
「なんじゃ、その宣言は? とはいえ、それこそがお主らの強さなのやもしれんな。
―――――それで? 雪乃はどうしたいのじゃ? 我を糾弾してみるか?」
「んー? そんなことしないよー? ただ小波姫がね。あっちに『変な空間』があって、そこから『気配』がするって言うから、それで、もしかしたらって、思っただけよ? だから正直、どうするかなんて決めてないの。ただ、あなたから受けた説明の、どこまでがウソで、どこまでがホントなのか知りたいっていうのはあるけど」
「ふむ? 全部本当のことじゃ。と、我がそう言うて、お主は納得出来るのかの?」
「うーん? まぁ信用してもいいかなー。 でも、わたしの疑問には答えて欲しいかな?」
「内容にもよるが、真摯に答えることを『我が主』に誓おうぞ」
「やったー。じゃぁね? あなたの持ってるグリモワールについて教えて欲しいかなー?」
「我の持つこのグリモワールは、いわゆる『本物』のグリモワールじゃな。製作者たるトライシオン=カデナの所有する3冊の内の1冊じゃよ」
「それって、わたしたちが持ってるグリモワールとどう違うの?」
「ふむ。だいぶんと違うぞ? 我の持つグリモワールの機能は一つ。『使役』のみじゃ。
クアドラードに現存するグリモワールによって、絶対封印された妖魔の全てが、3冊のオリジナルであるグリモワールに共有されるのじゃ。そしてこの真なるグリモワールの力により、封印されし妖魔を、限定的とはいえ、使役することが可能となるのじゃ」
「その妖魔を、私たちに、ぶつけてたのね?」
「ま、そう言うことになるかのぉ」
「どうしてそんなことするの?」
「それは、お主らの成長のためじゃ。この世界が妖魔の侵攻に悩まされておるとはいえ、お主らの行く先々で、そう都合良くホコホコ湧いて出るほど数がおるわけではないからのぅ。それにお主らの強さに見合うた敵でないと、あまり効率的な成長は見込めぬしな。
ま、とはいえ、半分は我の趣味でもあるのじゃがな。見込みある若人を一端の戦士へと育て上げるのは、なんとも言えぬ充足感があっての? 我の数少ない楽しみとなっておるのじゃ」
「ふーん? なんか、玩具にされてる側からすると、あんまり喜べないかなー。わたしも怪我しちゃったわけだし?」
「じゃろうのう。とはいえ、お主らにとっても悪い話ではあるまい?」
「ま、確かにそうかも知れないわねぇ。なんといってもゲームバランスは大事だもんね。いきなりボスクラスの敵が出て来たら死んじゃうしー。
――――うん。解ったわ。じゃ、あなたのこと、黙っててあげるね?」
「ほほう? 我としては願ったりじゃが。何故じゃ? 我がお主らに妖魔を嗾けておることがバレたとて、我としては遣りようなど、いくらでもあるのじゃぞ? ユキノが黙っていようがいまいが、我としては、ぶっちゃけ、どちらでも良いのじゃが?」
「でも、隠れてやってるってことは、出来れば知られたくないってことよね?」
「ふむ。まぁの。お主らとは友好な関係を維持しておきたいとは思うておるが?」
「じゃ、やっぱり黙っておく方がいいよ。そのかわり、わたしのお願いも聞いて欲しいかなって」
「ふむ。取引か? なかなかに神経の太い女子じゃの。我はイロイロと見誤っておったようじゃ。まぁいい。申してみよ。場合によっては、この取引、呑んでやらんこともない」
「ほんと? 良かった。じゃ、わたしの出す条件なんだけど。今、私たちが使ってる部室棟を私にくれたりしないかなーって」
「―――――あれがどういう代物か、解っておるがゆえの発言かの?」
「んー。大体は。あれって、多分、あなたが作った精巧な複製品よね?」
「その通りじゃ。あれは我が霊質で作り上げた紛い物じゃ。じゃが、いつ気付いたのじゃ?」
「んー。なんかオカシイなって思ったのは、扇風機が回ってたこと、かな? 異世界なのに電気が来てるって変じゃない? ギー君も疑問に思ってたみたいだし。でも、確信したのはついさっき、この体になって小波姫と同調した時かな」
「なるほどの。その『せんぷうき』とやらがどういう仕組みで動いておるかは知らんが、我の能力は対象物の『事象』を含めた、『そのもの』を複製することじゃからのぅ。
――――にしても、ようやくお主の能力の本質が見えてきおったわい。お主は空間を湖面に見立て、そこに起こる霊的事象の『揺らぎ』を感知しおるのじゃな?」
「そうそう。大体そんなカンジかなー。私としては回復特化かー。って思ってたんだけど、どっちかっていうと、感知タイプみたい。だからこれからはサポート役に徹したいと思って。多分、わたしって『器用貧乏系』じゃないかなー。序盤と中盤はどうにかなるけど、終盤になると、火力不足になるタイプ」
「いや、そう卑下せずとも良かろう。人にはそれぞれ役割があろう。
―――――とはいえ、そもそも、この部室棟とやらは我の管理下にあるから安定しておるだけで、本来なら半日で霧散するような不完全な代物じゃぞ? そんなもんお主が貰ってどうするというのじゃ?」
「それは多分、大丈夫かなー? あれぐらいの規模なら、わたしにも管理できると思うんだよね?」
「何じゃと? ユキノ、まさかお主がここの管理者になると、そう言うておるのか?」
「うん。私の霊体をこの部室棟に同調させれば、今の私でも十分に管理者になれると思うんだけど?」
「いや、ま、確かに可能じゃろうが、そんなことをすれば、お主はこの地へと縛り付けられることになるぞ?」
「別にいーよ? 仮初とはいえ、みんなの帰るところを守るのもいいかなーって。それに私みたいに戦いに向いてない子もいるだろうし。そんな子と一緒に、ここでみんなのサポートするのもいいかなって思って」
「ふぅむ。ユキノの能力なら戦闘に加わらずとも、前線の方が役立つと思うがの?」
「うーん。そうでもないと思うよ? だって、一縷ちゃんもどっちかっていうと感知タイプだし。快癒丹もたくさん作ってギー君のグリモワールに収納しておけばいいし。ぶっちゃけ邪魔にしかなんない自信がある!」
「お主が、そこまで言うのなら別に止めやせぬが・・・・・・。いいのかの? あやつらと離れることになるぞ?」
「そこは仕方ないかなー。でもみんな、優しいからしょっちょう帰って来てくれると思うんだよね。それに小波姫もいることだし。ちょっと間なら大丈夫かな?」
「ま、我が四の五の言うても仕方あるまいの。お主の道はお主が選べばよいのじゃから。
――――いいじゃろう。契約成立じゃ。ともかくお主は早く体に戻ってみなを安心させてやれ」
そう言うや否や、ナハトムジークの姿が掻き消えたかと思うと、白の空間が綴じ、わたしは瞬時にして自らの肉体へと戻っていた。
目を薄く開くと一縷ちゃんが私の頬へと大粒の涙を降らせ「雪ちゃん!」と昔の呼び方で呼んでくれる。
一縷ちゃんが「雪ちゃんのこと『先輩』って呼んでいい?」って、聞いてきたのは、一縷ちゃんの入学発表の時。
「何か、他人行儀でイヤ」って言ったのに「じゃ、親しみを込めて『雪ちゃん先輩』で」って、妥協案を出して来たので、ちょっと考えてから「いいよ」って答えたんだっけ?
すぐ飽きて元の「雪ちゃん」に戻ると思ってたから。
なんとなく、そんなことを思い出すなんて、死亡フラグみたいでイヤねー。 まさかとは思うけど、違うわよね?
ケンちゃんが「ホッ」としたような顔をして、ギー君がバツの悪そうな顔をしている。
みんな心配してくれてたんだねー。
ちょっと嬉しいな。
わたしがここの管理者になるって言ったら、みんなどんな顔するかな? 多分、一縷ちゃんは怒るよね。で、ギー君は黙る。ケンちゃんはなんとなく賛成してくれそうだ。
「みんな聞いて?」
わたしは意を決して口を開く。
「わたし、部室棟になる!」
そう宣言した瞬間、「「「ハア?」」」と3人は同時に「何言ってんだコイツ?」って顔をした。
あれ? 何か間違ったっけ。わたし?




