第33話 白石家(後編)
【白石家】ご両親との問答 Part10
1:◆PDCAおじさん
白石さん。魔王さん。
今、長野の、白石さんのご実家の居間にいます。
全てをお話ししましたが、信じていただけませんでした。
お父様は、席を立たれました。
無理もないと思います。
お母様は、ここに、いらっしゃいます。
白石さん。お母様の質問に、答えていただけませんか。
お母様と、あなたにしか、分からないことを。
2:白石
>>1
はい。
お母さん、そこにいるんですね。
3:◆PDCAおじさん
>>2
はい。
今、スマートフォンの画面を、お母様にお見せしています。
お母様から、最初の質問です。
私が、そのまま書きます。
「うちの大福の、ひみつは、何?」
4:名無しさん
5:名無しさん
本人確認の質問が大福なの泣く
6:白石
>>3
あんこに、塩を、ひとつまみ。
「甘すぎると、お父さんの胃がもたれるから」って、お母さんが、いつも言ってた。
それから、お餅を包む時に、手に、片栗粉じゃなくて、きなこを少し混ぜる。
おばあちゃんの家のやり方。
7:◆PDCAおじさん
>>6
……お母様が、泣いておられます。
今、お母様が、私のスマートフォンを、握りしめておられます。
8:名無しさん
9:名無しさん
本人だ……
10:名無しさん
お父さんも胃が弱いのかよ
11:◆PDCAおじさん
お母様から、次の質問です。
「あんたが、小学校三年生の時、夏休みの自由研究で、何をやった?」
12:白石
>>11
「家じゅうの汚れ、どこが一番落ちにくいか調べてみた」。
台所の換気扇が、一位でした。
お母さんに、「あんたは、ほんとに変な子だね」って笑われました。
でも、先生に、金賞もらいました。
13:名無しさん
小三からこれかよ
14:名無しさん
筋金入りすぎる
15:名無しさん
天職だったんだな
16:◆PDCAおじさん
>>12
お母様が、笑っておられます。泣きながら。
「そう、そうだった。換気扇だった」と。
……お母様が、もう一つ、質問を、と。
「ちゃんと、ご飯、食べてる?」
17:白石
>>16
食べてるよ。
こっちのご飯、美味しいよ。揚げパンとか、焼き魚とか。
この前、魔王さんが、お母さんの大福を真似して、お城の料理長さんに作らせてくれたの。
異世界のお米で。ちょっと甘すぎたけど、すごく、美味しかった。
お母さんのには、負けるけど。
18:魔王 ◆VaLgRaVe
>>17
……塩が、足りなかったのか。
19:名無しさん
魔王さんwww
20:名無しさん
反省してて草
21:名無しさん
塩ひとつまみの重要性
22:◆PDCAおじさん
>>17
お母様が、「魔王さんが、大福を……?」と、目を丸くしておられます。
◆ ◆ ◆
白石家の居間で、由美子は佐伯のスマートフォンを両手で握りしめていた。
画面に並ぶ文字を、何度も、何度も、読み返していた。
あんこに、塩をひとつまみ。きなこを少し。台所の換気扇。
「……あかりだ」
由美子は、呟いた。
「あかりだわ。こんなこと、あの子しか、知らない」
涙が、画面の上に、ぽたぽたと落ちた。
その時、縁側の方で、床が、きしりと鳴った。
佐伯が振り返ると、縁側と居間を仕切る障子の陰に、正三が立っていた。
いつからそこにいたのか、分からなかった。
作業場に行ったはずの宮大工は、障子の陰で腕を組んで、居間の中をじっと見ていた。
由美子のことを。由美子が握りしめている、スマートフォンのことを。
「……あなた」
由美子が、夫を見上げた。
「あかりよ。本当に、あかりなのよ」
正三は、何も言わなかった。
長いこと、障子の陰に、立ち尽くしていた。
やがて、低い声で、言った。
「……一つ、聞いてくれ」
佐伯は、背筋を伸ばした。
「はい」
「鉋の刃を研いだ後。最後に、何をするか」
◆ ◆ ◆
23:◆PDCAおじさん
白石さん。
お父様が、戻ってこられました。
障子の陰に、立っておられます。
お父様からの、質問です。
「鉋の刃を研いだ後。最後に、何をするか」
24:名無しさん
お父さん……
25:名無しさん
宮大工の質問だ
26:白石
>>23
刃の裏を、布で拭く。
それから、刃に、はあっと、息を吹きかける。
刃が曇って、その曇りが、すうっと、端から消えていくのを、最後まで、じっと見る。
曇りが、どこか一か所でも、残ってたら、そこに、まだ、研ぎ残しがある。
「曇りが残ってるうちは、まだ、仕事は終わってない」。
お父さんが、作業場で、私が小さい頃から、ずっと、そう言ってた。
27:名無しさん
28:名無しさん
29:名無しさん
「曇りが残ってるうちは、仕事は終わってない」
30:名無しさん
白石さんの原点、お父さんだったのか
31:名無しさん
曇りを見たら放っておけない人の、根っこがここに
32:魔王 ◆VaLgRaVe
>>26
……そうか。
そなたが、我の結界を、空の曇りだと思って拭いたのも。
召喚陣の線を、曇りではないと見抜いたのも。
全部、そこから来ていたのか。
◆ ◆ ◆
佐伯が、画面の文字を、読み上げた。
刃の裏を、布で拭く。
息を吹きかける。
曇りが端から消えていくのを、最後まで、じっと見る。
曇りが残ってるうちは、まだ、仕事は終わってない。
読み終えた時、障子の陰で、正三が、膝をついていた。
太い指で、顔を、覆っていた。
肩が、震えていた。
由美子が、夫のそばに、這うようにして寄っていった。
夫の背中に、そっと手を置いた。
宮大工は、声を上げなかった。
ただ、長いこと、肩を震わせていた。
居間には、時計の針の音だけが、響いていた。
佐伯も、権田も、何も言わなかった。
◆ ◆ ◆
やがて、正三が、顔を上げた。
目が、真っ赤だった。
佐伯の方を見て、それから、由美子が握っているスマートフォンを見た。
「……あかりに」
かすれた声だった。
「仕事は、ちゃんとやってるか、と」
33:◆PDCAおじさん
白石さん。
お父様からです。
「仕事は、ちゃんとやってるか」
34:白石
>>33
やってるよ、お父さん。
こっちで、現場担当って仕事を、もらった。
井戸とか、お城とか、湖とか。
汚れたところを、片っ端から、きれいにしてる。
曇りが残らないように、ちゃんと、最後まで見てる。
お父さんに、教わった通りに。
35:◆PDCAおじさん
>>34
お父様が、頷いておられます。
お父様から、もう一言。
「……帰ってこい」
36:名無しさん
37:名無しさん
お父さん……
38:◆PDCAおじさん
いえ、待ってください。お父様が、言い直しておられます。
「帰ってこい。……いや。そっちの仕事が、終わったら、帰ってこい」
「引き受けた仕事を、途中で投げるな。それが、終わったら。
曇りが、全部、消えたら。……帰ってこい」
39:名無しさん
うわあああ
40:名無しさん
職人の親父の言葉
41:名無しさん
「一度引き受けた仕事は最後までやる」って、白石さんが勧誘断った時に言ってたやつだ
42:名無しさん
あれも、お父さんから教わったことだったのか
43:白石
>>38
うん。
終わらせて、帰る。
絶対に、帰るから。
44:魔王 ◆VaLgRaVe
課長。
白石の父御と、母御に、伝えてくれるか。
45:◆PDCAおじさん
>>44
はい。どうぞ。
46:魔王 ◆VaLgRaVe
我は、白石の、雇い主をしている者だ。
魔王、と呼ばれているが、今は、白石の、上司のようなものだと思っている。
白石は、こちらの世界で、誰よりも、いい仕事をしている。
毒を拭い、呪いを拭い、三百年、誰にも拭えなかったものを、拭ってくれた。
我の、命も、救われた。
白石の仕事が終わったら、必ず、そちらに、帰す。
我の、全てにかけて、約束する。
それまで、娘御を、お預かりする。
47:名無しさん
魔王さん……
48:名無しさん
「娘御を、お預かりする」
49:名無しさん
まるで、結婚の挨拶みたいだけど、上司の挨拶なんだよな
50:名無しさん
>>49
上司が、部下の親御さんに挨拶する、いい上司だ
51:◆PDCAおじさん
>>46
お伝えしました。
お父様が、しばらく、黙っておられました。
それから、こう、おっしゃいました。
「……魔王とやらに、伝えてくれ。娘を、頼む、と」
「それから、胃は、大事にしろ、と。俺も、弱いんでな」
52:名無しさん
wwwwww
53:名無しさん
胃弱同盟、増えた
54:名無しさん
泣かせといて最後に笑わせるのやめろ
55:魔王 ◆VaLgRaVe
>>51
承った。
父御の胃も、どうか、お大事に。
56:◆PDCAおじさん
お母様から、最後に、一つだけ。
「手紙を、書いてもいいですか」と。
「あかりに、ちゃんと、手紙を書きたい」と。
57:白石
>>56
うん。
書いて、お母さん。
私も、書く。




