第32話 東雲台駅(後編)
【現地】東雲台駅から実況するスレ Part9
1:◆PDCAおじさん
日本側から、失礼します。
今、東雲台駅の二番線ホームにいます。
ビルメン二十年さんと、近所の大学生の方と、三人で。
初めて、お会いしました。
2:名無しさん
オフ会してる!!
3:名無しさん
課長とビルメンさんが実在した
4:名無しさん
顔、どんな感じだった?
5:◆PDCAおじさん
>>4
ビルメンさんは、想像していた通りの、頼りになる職人さんでした。
大学生の方は、想像より、ずっと若かったです。
6:名無しさん
課長は?
7:◆ビルメン二十年
>>6
休日なのにスーツでした。
あと、過去ログを全部印刷してきてました。
8:名無しさん
課長www
9:名無しさん
期待を裏切らない
10:魔王 ◆VaLgRaVe
課長、ビルメンどの。
本当に、行ってくれたのだな。礼を言う。
白石も、聖王国で、このスレを見ている。
11:◆PDCAおじさん
>>10
はい。
まず、ご報告です。貼り紙は、ありました。
白石さんの写真と、お母様の手書きの文字も、確かに。
それから、金木犀も。花は盛りを過ぎかけていますが、まだ、香っています。
12:白石
>>11
ありがとうございます。
……金木犀、まだ咲いてるんですね。
13:◆PDCAおじさん
>>12
はい。ちゃんと、咲いていますよ。
そして、もう一つ。重大なご報告があります。
先ほど、二十三時四十二分。白石さんが消えた、終電の一本前の電車が出た直後に。
金木犀の前のホームの床から、光の糸が、一瞬だけ、立ち上りました。
三人とも、見ました。
14:名無しさん
え
15:名無しさん
まじで!?
16:名無しさん
こっち側にも見えるの!?
17:魔王 ◆VaLgRaVe
>>13
……日本側の、出口か。
18:◆ビルメン二十年
それだけではありません。
光の糸が立ち上った場所の、タイルの目地と、点字ブロックの溝に、黒い粒が、こびりついています。
二十年、駅を掃除してきましたが、見たことのない汚れです。
白石さんたちが、光の糸の根元で見つけたという、黒い粒と、同じものではないかと思います。
19:白石
>>18
……先輩。
その粒、たぶん、同じです。
こっち側の糸も、詰まってました。
向こう側の出口も、詰まってるってことですね。
20:◆ビルメン二十年
>>19
そういうことだと思います。
配管は、片方の端だけ掃除しても、もう片方が詰まっていれば、流れません。
21:名無しさん
両側から掃除しないといけないのか
22:◆ビルメン二十年
>>21
はい。
ですので、白石さん。一つ、提案があります。
23:白石
>>22
はい。
24:◆ビルメン二十年
同時に、やりませんか。
あなたは、そちら側の、糸の根元を。
私は、こちら側の、出口を。
25:名無しさん
うおおおお
26:名無しさん
日本と異世界の同時清掃!?
27:名無しさん
でもビルメンさん、駅のホームって勝手に掃除していいの?
28:◆ビルメン二十年
>>27
実は、うちの会社、この路線の駅清掃を請け負っています。
東雲台駅は担当外ですが、駅員さんとは顔見知りです。
さっき、事情は伏せて、
「点字ブロックの溝に変な汚れがあるので、ちょっと見させてほしい」と頼んだら、
終電までなら構わないと。
29:名無しさん
本職の強み
30:名無しさん
ビルメンさん、有能すぎる
31:白石
>>24
やります。
今、ネフィとシロと、召喚の間に向かっています。走ってます。
32:魔王 ◆VaLgRaVe
>>31
黒騎士に、念話で伝えた。召喚の間の扉を開けて待っている、と。
33:◆PDCAおじさん
時刻を、合わせましょう。
こちらは、今、二十三時五十分です。終電は、零時十二分。それまでに。
白石さんが、根元に着いたら、魔王さん経由で、合図をください。
◆ ◆ ◆
東雲台駅、二番線ホーム。
権田は、金木犀の前の床に、膝をついていた。
道具鞄から、取り出したもの。
目地用の細いブラシ。
点字ブロックの溝用の、柄の長い歯ブラシのようなブラシ。
中性洗剤を薄めたスプレー。
それから、何枚ものマイクロファイバークロス。
白石が、百円ショップで買ったと言っていたのと、同じ種類の布だった。
「……権田さん、それ」
森川が、権田の手元を覗き込んだ。
「百均のです」
権田は、少し照れくさそうに笑った。
「白石さんと、同じのを使いたくて。昨日、買ってきました」
佐伯は、スマートフォンの画面を、じっと見つめていた。
異界掲示板。いつの間にか、自分のスマートフォンから、普通に書き込めるようになっていた掲示板。
画面が、更新された。
34:魔王 ◆VaLgRaVe
白石が、召喚の間に着いた。根元に、膝をついた。
合図を、待っている。
35:◆PDCAおじさん
>>34
権田さん。
佐伯の声に、権田が、顔を上げた。
「――お願いします」
「了解」
36:◆PDCAおじさん
始めます。
37:魔王 ◆VaLgRaVe
始める。
◆ ◆ ◆
権田は、ブラシを、タイルの目地に当てた。
二十年、毎日、やってきた動きだった。
力を入れすぎず、目地の奥まで、毛先を届かせる。
汚れを掻き出し、スプレーを吹き、布で、そっと拭い取る。
黒い粒が、一つ、目地から、剥がれた。
剥がれた粒は、床に落ちる前に、すうっと、消えた。
「……消えた」
森川が、息を呑んだ。
普通の汚れは、消えない。
拭い取った布に、移るだけだ。
権田は、何も言わずに、次の粒に、ブラシを当てた。
◆ ◆ ◆
聖王国、召喚の間。
白石は、光の糸の根元に、膝をついていた。
糸は、細い紐ほどの太さで、天窓へ向かって、まっすぐに伸びていた。
数日前、手の届く範囲の黒い粒は、全部、払い落とした。
けれど、それから、また、新しい粒が、こびりつき始めていた。
白石は、布の端で、粒を、払い落としていった。
一つ。また一つ。
(先輩も、今、向こうで、やってるんだ)
顔も知らない、先輩。
日焼けした、短い白髪まじりの髪の、頼りになる職人さんだと、課長さんが書いていた。
同じ百円ショップの布で。同じように、膝をついて。
光の糸の、向こう側と、こちら側で。
白石は、ふと、糸が、かすかに震えたのを感じた。
指先に触れた、糸の温もりが、ふと、強くなった。
◆ ◆ ◆
38:魔王 ◆VaLgRaVe
黒騎士から、報告だ。
糸が、太くなっている。
細い紐ほどだったのが、指ほどに。
白石が一人で払った時より、ずっと、速く。
39:◆PDCAおじさん
>>38
こちらも。
権田さんが、目地の黒い粒を取り除いていたら、ホームの床から、光の糸が、また、立ち上りました。
今度は、一瞬では、ありません。
消えないで、ずっと、そこにあります。指くらいの太さで。
40:名無しさん
うわああああ
41:名無しさん
繋がった!?
42:名無しさん
両側から掃除したら、道が太くなった!!
43:◆ビルメン二十年
……白石さん。
今、糸から、匂いがします。
金木犀じゃない。草と、石と、雨上がりの土みたいな、匂い。
そっちの、匂いですか。
44:白石
>>43
……はい。
たぶん、それ、こっちの匂いです。
先輩。今、私、糸の向こうから、金木犀の匂いがしてます。
45:名無しさん
46:名無しさん
やめろ
47:名無しさん
匂いが、行き来してる
48:名無しさん
泣いた。本気で泣いた
49:◆PDCAおじさん
>>44
白石さん。
両側から手を入れれば、道は、保てる。
今日、それが、分かりました。
帰り道は、片側だけでは、維持できない。
でも、こちら側には、私たちがいます。
50:◆ビルメン二十年
>>49
こちら側の出口は、私が、責任を持って、掃除します。
毎日は無理でも、週に一度は。同業者として。
51:白石
>>50
……ありがとうございます、先輩。
52:魔王 ◆VaLgRaVe
糸が、また、細くなり始めた。だが、さっきよりは、ずっと太い。
黒騎士いわく、「十日前と、同じくらいに戻った」と。
53:◆PDCAおじさん
>>52
こちらも、光の糸が、薄れ始めました。でも、まだ、うっすらと見えています。
終電が、来ます。今日は、ここまでですね。
54:白石
課長さん。
一つ、お願いがあります。
55:◆PDCAおじさん
>>54
はい。
56:白石
貼り紙の、お母さんの番号に。
電話、してもらえませんか。
驚かせないように。……できれば、私が、元気でいるって、それだけでも。
57:◆PDCAおじさん
>>56
承りました。
明日の朝、お電話します。
58:名無しさん
ついに……
59:名無しさん
課長、頼む
60:名無しさん
終電の音が聞こえてきそうなスレだな




