第30話 二人とも、の方法(後編)
59:◆PDCAおじさん
続いて、課題BとCです。
課題Bの、魔王さんの中に溜まった三百年分の瘴気。
これは、正直に申し上げると、今の私たちには、手の打ちようがありません。
魔王さんの体が「器」として、どういう仕組みで瘴気を溜めているのか。
それが分からなければ、取り出し方も分かりません。
そして、その仕組みは、おそらく、システムそのものと、繋がっています。
60:名無しさん
つまり、BはCを調べないと分からない
61:◆PDCAおじさん
>>60
その通りです。ですので、Bは、Cの調査結果が出るまで、保留にします。
保留は、放置ではありません。「今は手を出さないと決めて、記録しておく」ことです。
62:白石
>>61
あの、一つだけ。
私、自分の体の中の毒とかは、知らないうちに掃除してたみたいなんです。
ヴァルさんの中の瘴気も、同じように、何とかできないかなって、ちょっと思ってます。
でも、どうやればいいのか、まだ全然分からないので、保留で大丈夫です。
63:魔王 ◆VaLgRaVe
>>62
……白石。
64:名無しさん
白石さん……
65:名無しさん
それ、めちゃくちゃ大事な気づきでは
66:◆PDCAおじさん
>>62
記録しておきます。課題Bの、有力な仮説として。
67:◆PDCAおじさん
では、課題C。予言、光の糸、システム。
これは、調べることが多いので、手分けしましょう。
◆ ◆ ◆
大食堂の卓の上で、リリエラが、新しい羊皮紙に、役割を書き出していった。
掲示板の書き込みと、卓の周りの声を、一つずつ拾いながら。
――課題A 洗い場の設置
――イグニス:灯火を分ける。
――ドルガン、工兵隊:各地に洗い場を建てる。
――バルド、北方守備軍:北の砦と街道沿いの村々。
――ディートリヒ:聖王国の王都と村々。
――セルシア:湖と川沿い。水路の瘴気は、凍らせて流れを止め、拭いやすくする。
――白石、ネフィ、シロ:各地を回って、民に、拭き方と、洗い場の使い方を教える。
――課題B 保留(課題Cの結果次第)
――仮説:白石の力で、陛下の体内の瘴気を掃除できる可能性。
――課題C 予言、光の糸、システムの調査
――リリエラ、ミラージュ:宝物庫の石板の解読。
――ディートリヒ:大神官オルヴェンへの聴取。
――ヴォルフ:聖王国の召喚陣と光の糸の警護、および観察。
――ネフィ:夢魔の力で、光の糸を辿れないか、試す。
――日本側(PDCAおじさん、ビルメン二十年、住人の皆様):去年の駅の行方不明事件の調査。
白石の家族への連絡方法の検討。
――陛下:全体の取りまとめ。および、月に一度の休み。
「……最後の一行は、何だ」
ヴァルグレイヴが、羊皮紙を覗き込んで、眉をひそめた。
「必須事項です」
リリエラは、表情一つ変えずに答えた。
68:名無しさん
月に一度の休みが必須事項になってて草
69:名無しさん
秘書官さん、有能
70:◆PDCAおじさん
素晴らしい役割分担です。
一つだけ、付け加えさせてください。
報告と、共有。分かったことは、すぐに、このスレに書き込んでください。
一人で抱え込まないこと。それが、このチームの、唯一のルールです。
71:魔王 ◆VaLgRaVe
>>70
分かった。
72:白石
はい!
73:名無しさん
チーム結成だ
74:名無しさん
異世界と日本の合同プロジェクト
75:◆ビルメン二十年
では、まず、一か所で、試しましょう。
いきなり全部やらない。一つの現場で試して、うまくいったら、広げる。
76:◆PDCAおじさん
>>75
PDCAの、Pの次の、Dですね。小さく始めましょう。
77:魔王 ◆VaLgRaVe
>>75、>>76
勇者の湖の村で、試す。今日の午後に。
◆ ◆ ◆
午後。勇者の湖。
湖のほとりに、ドルガンの工兵隊が、半日で、小さな石造りの洗い場を組み上げた。
腰の高さの石の台。その真ん中に、浅い石の鉢。
鉢の中に、イグニスが、胸の炉から分けた青い灯火を、そっと据えた。
蝋燭ほどの、小さな、澄んだ青い炎。
「これで、いいのか」
イグニスが、少し不安そうに、腕を組んだ。
「俺から離れても、消えねえかどうか、分からんぞ」
灯火は、石の鉢の中で、静かに、揺れていた。
消える気配は、なかった。
沼地の村の子どもたちが、手ぬぐいを握りしめて、集まってきた。
白石は、子どもたちの前に、しゃがんだ。
「みんな。湖の岸に、黒い、小さな染みがあるの、分かる?」
「わかる!」
「さいきん、いっぱいある!」
「それを見つけたら、手ぬぐいで、こうやって拭くの」
白石は、自分の布で、岸辺の染みを、一つ、拭ってみせた。
「上から、下に。端から、真ん中に。ごしごしじゃなくて、そっと」
子どもたちが、真剣な顔で、頷いた。
「手ぬぐいが黒くなったら、ここに持ってきてね。イグニスさんの火で、洗ってもらえるから」
「イグニスさん、こわくない?」
「こわくないよ。……たぶん」
イグニスが、渋い顔をした。
◆ ◆ ◆
夕方まで、子どもたちは、湖の岸を走り回った。
黒い染みを見つけては、手ぬぐいで拭う。
手ぬぐいが黒くなると、洗い場に駆けてくる。
イグニスが、青い灯火に手ぬぐいをかざすと、黒ずみが、さあっと消える。
白くなった手ぬぐいを握って、また、岸へ駆けていく。
子どもたちの手ぬぐいでは、白石のように、一拭きで染みが消えるわけではなかった。
何度も拭いて、ようやく、薄くなる。
それでも、子どもたちは、二十人いた。
その後から、村の大人たちも、手ぬぐいを持って、加わった。
日が傾く頃。
白石は、岸辺を、端から端まで、歩いてみた。
黒い染みは、まだ、あった。けれど、休みの日の夕方に見た時より、ずっと少なかった。
そして、拭いた端から、別の場所に滲み出してくる速さが、目に見えて、遅くなっていた。
「……減ってる」
白石は、呟いた。
振り返ると、魔王が、湖のほとりに立っていた。
子どもたちに囲まれて、手ぬぐいを一枚、握らされていた。
「まおうさまも、ふいて!」
「……こう、か」
魔王が、ぎこちない手つきで、足元の小さな黒い染みを、拭った。
染みは、少しだけ、薄くなった。
「へた!」
「まおうさま、へた!」
子どもたちが、きゃっきゃと笑った。魔王は、困った顔で、もう一度、拭いた。
白石は、その光景を見て、笑った。
誰か一人が、全部を拭くのではない。みんなが、少しずつ、毎日。下手でも、一拭きずつ。
これが、きっと、本当の掃除だ。
◆ ◆ ◆
78:白石
勇者の湖の村で、試しました。
子どもたちと村の人たちが、手ぬぐいで拭いて、イグニスさんの火で洗って、また拭いて。
夕方には、黒い染み、朝の半分くらいになりました。滲み出てくる速さも、遅くなりました。
ヴァルさんも、拭いてました。子どもたちに、へたって言われてました。
79:名無しさん
成功だ!!
80:名無しさん
半分!!
81:名無しさん
魔王さん、また子どもにへたって言われてて草
82:◆ビルメン二十年
>>78
……やりましたね。
これを、各地に、広げていきましょう。
83:◆PDCAおじさん
>>78
Do、完了です。結果は、良好。
明日から、Check しながら、各地に展開しましょう。
84:魔王 ◆VaLgRaVe
皆、礼を言う。
三百年で、初めて、瘴気が、誰か一人ではなく、皆の手で、減った。
85:名無しさん
いい話だ
86:名無しさん
第二部、いいスタートじゃん
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【警告】瘴気の処理に、規定外の手順を、検知しました。
【通知】……学習します。
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湖のほとりで、白石と魔王は、同時に、宙に浮かんだ板を見上げた。
板は、それだけを告げて、すうっと消えた。
「……学習、か」
魔王が、低く呟いた。
白石は、くたくたの布を、ぎゅっと握った。
「向こうも、考えてるってことですね」
「ああ」
夕焼けの湖の向こうで、子どもたちが、まだ、手ぬぐいを振り回して、岸辺を走り回っていた。
洗い場の石の鉢の中で、小さな青い灯火が、静かに、揺れていた。




