第30話 二人とも、の方法(中編)
24:◆PDCAおじさん
ゴールが決まりました。次は、課題を分解します。
大きな問題は、そのままでは解けません。
小さく分けて、一つずつ片付けていきます。掃除と、同じです。
25:◆ビルメン二十年
>>24
その通りです。広い現場は、区画に分けて、一区画ずつ。
26:◆PDCAおじさん
私の整理では、課題は、三つです。
【課題A】世界中に漏れ出している瘴気を、どう処理するか。
【課題B】魔王さんの中に、三百年分溜まっている瘴気を、どうするか。
【課題C】予言。光の糸と、システムそのものを、どうするか。
27:名無しさん
分かりやすい
28:名無しさん
Aが日常、Bが魔王さん、Cがラスボスって感じか
29:◆PDCAおじさん
>>28
まさに、そうです。
そして、優先順位は、A からだと思います。
黒い染みは、今この瞬間も、増え続けています。
足元の火事を消さなければ、ラスボスどころではありません。
30:魔王 ◆VaLgRaVe
>>29
同意する。Aから始めよう。
◆ ◆ ◆
大食堂の卓の上に、魔王領の地図が広げられた。
リリエラが、黒い染みの報告があった場所に、一つずつ、黒い石を置いていく。
地図は、あっという間に、黒い石で埋まっていった。
「……多いな」
イグニスが、顔をしかめた。
「これを、全部、白石が拭いて回るのか」
「無理です」
白石が、即答した。
「一人じゃ、絶対に無理です。おととい、それで、ヴァルさんと喧嘩しました」
卓の周りで、何人かが、くすりと笑った。
31:◆ビルメン二十年
では、清掃のプロとして、提案させてください。
ビルや街の清掃には、基本の流れがあります。
一、汚れが出た場所で、集める。
二、集めたものを、決まった場所に運ぶ。
三、決まった場所で、処理する。
ゴミで言えば、各家庭で袋に入れて、集積所に出して、焼却場で燃やす。
これを、毎日、街中の全員で、繰り返す。
一人の清掃員が、街中を拭いて回るのではありません。
32:名無しさん
ゴミ収集の仕組み!
33:名無しさん
瘴気のゴミ出しか
34:魔王 ◆VaLgRaVe
>>31
……一は、できるかもしれん。
我が城が留守の間、民は、手ぬぐいで、湖や街道を拭いていた。
白石のような力はない。
だが、拭いた場所は、汚れが広がるのが、少し遅くなった。
35:◆ビルメン二十年
>>34
一つ、確認させてください。
民の方々が拭いた後、手ぬぐいは、どうなっていましたか。
◆ ◆ ◆
卓の周りが、ざわついた。
リリエラが、懐から、一枚の手ぬぐいを取り出した。
「ゆうしゃ」と、下手な刺繍の入った手ぬぐい。
満月の夜、瘴気に曇った執務室の窓を、リリエラが拭いた手ぬぐいだった。
手ぬぐいは、黒ずんでいた。
洗っても、落ちなかった黒ずみだった。
「……民の手ぬぐいは、皆、このように」
リリエラが、静かに言った。
「瘴気を拭った手ぬぐいは、黒く染まります。
洗っても、落ちません。民は、黒くなった手ぬぐいを、仕方なく、捨てずに溜めておりました」
白石が、手ぬぐいを受け取って、じっと見つめた。
「……瘴気が、布に、移ってるんだ」
36:◆ビルメン二十年
>>35に関連して、秘書官さんのお話を、魔王さん経由で伺いました。
それなら、一の「集める」は、もうできています。
民の方々の手ぬぐいが、瘴気を集めている。
問題は、三の「処理」です。集めた瘴気を、どこで、どうやって、消すか。
今までは、システムが、魔王さんの体の中に流し込んでいた。
それを、やめる。代わりの「焼却場」が要ります。
37:名無しさん
焼却場……
38:名無しさん
瘴気を燃やせる何かがあれば
39:名無しさん
あ
40:名無しさん
いるじゃん
41:名無しさん
燃やせる人、いるじゃん!!
◆ ◆ ◆
卓の周りの視線が、一斉に、一人に集まった。
赤銅色の肌。燃える髪。胸の炉で、青く澄んだ炎が、静かに燃えている男。
「……あ?」
イグニスが、眉をひそめた。
「何だよ、全員で俺を見て」
「イグニス」
魔王が、言った。
「満月の夜。そなたの炎は、瘴気の影の軍勢を、焼き払った。
霧散させたのではなく、燃え尽きさせた。二度と、寄り集まらなかった」
「……ああ。白石に、煤を拭われてから、俺の炎は、妙に澄んじまってな」
「その炎で、これを」
白石が、黒ずんだ手ぬぐいを、イグニスに差し出した。
イグニスは、手ぬぐいを受け取って、胡散臭そうに眺めた。
「燃やせってのか。布ごと燃えちまうぞ」
「えっと……燃やすんじゃなくて」
白石は、少し考えてから、言った。
「炎で、洗う、みたいな。汚れだけ、焼けないですか」
イグニスは、白石の顔を、まじまじと見た。
それから、大きく、鼻を鳴らした。
「……無茶言いやがる」
そう言いながら、炎の四天王は、胸の炉に、そっと指先を当てた。
指先に、小さな、青い炎が灯った。
蝋燭の火ほどの大きさ。煤のない、どこまでも澄んだ、青い炎。
イグニスは、その小さな炎を、黒ずんだ手ぬぐいの端に、そっと、触れさせた。
炎が、手ぬぐいの上を、さあっと走った。
燃えなかった。
青い炎は、手ぬぐいの布地を舐めるように、端から端まで、走り抜けた。
その後に、黒ずみが、一つも残っていなかった。
白い、手ぬぐいだった。
「ゆうしゃ」と、下手な刺繍の入った、真っ白な手ぬぐいが、イグニスの手の中にあった。
大食堂が、静まり返った。
「……できたな」
イグニス自身が、一番、驚いた顔をしていた。
◆ ◆ ◆
42:魔王 ◆VaLgRaVe
炎の四天王が、黒ずんだ手ぬぐいに、小さな青い炎を当てた。
布は、燃えなかった。黒ずみだけが、焼けて消えた。真っ白に戻った。
43:名無しさん
うおおおおおお
44:名無しさん
炎で洗った!!
45:名無しさん
イグニスさん、焼却炉の才能があった
46:名無しさん
いや、焼却炉っていうか、洗濯機では
47:◆ビルメン二十年
>>42
……これです。
民の方々が、手ぬぐいで瘴気を集める。
黒くなった手ぬぐいを、決まった場所に持ち寄る。
その場所で、炎の四天王さんの炎で、手ぬぐいを洗う。
白くなった手ぬぐいで、また拭く。
これを、毎日、繰り返す。
誰か一人に、押しつけない。みんなで、毎日、少しずつ。
48:◆PDCAおじさん
>>47
課題Aの解決策が、見えましたね。
ただ、一つ、問題があります。
炎の四天王さんは、お一人です。
世界中の手ぬぐいを、お一人で洗っていたら、
今度は、炎の四天王さんが、三百年の魔王さんと同じになってしまいます。
49:名無しさん
たしかに
50:名無しさん
イグニスさんが過労死する
51:魔王 ◆VaLgRaVe
>>48
炎の四天王が、言っている。
「俺の炉の火は、分けられる。灯火にして、あちこちに置けばいい」と。
52:名無しさん
火を分けられるの!?
53:名無しさん
炎の株分け
54:◆ビルメン二十年
>>51
それなら、各町や村に、一つずつ、「洗い場」を置けます。
炎の四天王さんの火を分けた灯火を据えた、手ぬぐいの洗い場。
それが、この世界の、ゴミ焼却場になる。
55:◆PDCAおじさん
>>54
課題A、方針決定です。
「各地に、炎の灯火を据えた洗い場を置く。
民が手ぬぐいで瘴気を集め、洗い場で洗い、また拭く。毎日、みんなで」
56:名無しさん
決まった!
57:名無しさん
すげえ、異世界のゴミ収集制度ができた
58:名無しさん
日本の自治体みたい
◆ ◆ ◆
大食堂で、イグニスは、真っ白になった手ぬぐいを、白石に返した。
「おい、白石」
「はい」
「お前、俺の煤を拭った時、こうなるって、分かってたのか」
白石は、きょとんとした。
「いいえ。全然」
「……だろうな」
イグニスは、天井を仰いで、豪快に笑った。
「三百年、俺の炎は、煤まみれで、焼くことしかできなかった。
それが、お前に拭われて、洗えるようになった。……面白え。
借りの返し方が、また一つ、増えたぜ」
炎の四天王は、胸の炉を、拳で叩いた。
「灯火、いくつ要る。全部、俺が分けてやる」




