第30話 二人とも、の方法(前編)
作戦会議の場所は、謁見の間ではなかった。
魔王城の大食堂。普段は、城で働く者たちが食事をとる、長い木の卓がいくつも並んだ広間だった。
「玉座と広間の中央では、上下ができてしまう」
PDCAおじさんの助言を伝えると、リリエラが、ここを選んだ。
卓を一つにつなげて、その周りに、皆が座っていた。
魔王ヴァルグレイヴ。白石。ネフィと、足元のシロ。
秘書官リリエラ。黒騎士ヴォルフ。氷姫セルシア。
炎獄のイグニス。幻惑の魔女ミラージュ。工兵隊長ドルガン。
北方守備軍の将バルド。天井の梁に、ピッチ。
そして、卓の端に、白いマントの騎士が一人。
「……ディートリヒさん」
白石が、目を丸くした。
「国交再開の使者として、昨日から来ている」
聖騎士団長は、少し居心地悪そうに、背筋を伸ばした。
「聖王国の井戸にも、黒い染みが出ている。他人事ではない。
……それに、陛下から、勇者殿の力になれと、言われてきた」
陛下、とは、聖王国の国王ルドルフ十三世のことだった。
卓の真ん中に、異界掲示板の板が、皆に見えるように、大きく浮かべられていた。
◆ ◆ ◆
【作戦会議】第二部のゴールを決める件 Part7
1:魔王 ◆VaLgRaVe
始める。
今日は、城の大食堂に、皆が集まっている。
四天王、秘書官、工兵隊長、北方守備軍の将、幻術師、工作員、狼、それと、聖王国の騎士団長も。
皆にも、この板が見えるようにしてある。
2:名無しさん
全員集合だ
3:名無しさん
オールスターじゃん
4:名無しさん
騎士団長まで!
5:◆PDCAおじさん
皆さん、おはようございます。日本から、失礼いたします。
本日の進行を、務めさせていただきます。
6:◆ビルメン二十年
同じく、日本から。よろしくお願いします。
7:名無しさん
異世界の作戦会議に日本の課長が司会で参加してるの、絵面がすごい
8:◆PDCAおじさん
では、まず。
魔王さん。会議の前に、お伝えしたいことがあると伺いました。どうぞ。
◆ ◆ ◆
ヴァルグレイヴは、立ち上がった。
大食堂の、長い卓の端から端まで。皆の顔を、一人ずつ、見回した。
それから、隣に座る、白石を見た。
白石の目は、まだ、少しだけ腫れていた。
「白石」
「……はい」
「おととい、我は、帰れと言った。我が消えるのは構わない、と」
白石が、作業着の膝を、ぎゅっと握った。
「あれは、嘘ではなかった。だが、本当のことでもなかった」
魔王は、懐から、一冊の古い帳簿を取り出した。
三百年前の、震えた字の一行が書かれた帳簿。昨夜、その下に、三行を書き足した帳簿。
「我は――」
声が、少しだけ、かすれた。
三百年、口に出したことのない言葉だった。
「我は、消えたくない」
大食堂が、静まり返った。
「生きたい。湖で、また子どもたちと釣りがしたい。
リリエラに、また土産を渡したい。
異界の者たちと、くだらないことで、また笑いたい」
魔王は、白石を、まっすぐに見た。
「そなたと、また、露台で、茶を飲みたい」
白石の目から、涙が、一粒、こぼれた。
「だから、白石。そなたにも、帰ってほしい。
母のもとに。桜を見に。……そして、我も、生きたい」
ヴァルグレイヴは、深く、息を吸った。
「両方だ。どちらか、ではなく。両方を、望む。……わがままだと、分かっている」
◆ ◆ ◆
沈黙。
それを破ったのは、卓の向こうの、赤銅色の大男だった。
「――遅えんだよ」
イグニスが、腕を組んで、鼻を鳴らした。
「三百年かかって、やっとそれかよ、陛下」
「……イグニス」
「わがままでいいんだよ。三百年、一回も、わがまま言わなかったんだから。まとめて言え」
セルシアが、静かに頷いた。
「陛下。私を、一人にはしないと、おっしゃいました。その約束、守っていただきます」
ヴォルフが、兜の奥で、言った。
「陛下の剣として、三百年、陛下を守ってきた。最後まで、守らせていただく」
ミラージュが、手鏡を胸に抱いて、微笑んだ。
「わたくし、陛下のお顔が、曇っていないのを、確かめたばかりですわ。
消えられては、困ります」
ドルガンが、どんと卓を叩いた。
「橋の架け替えは、まだ終わってねえんだ。陛下がいねえと、予算が下りねえ」
バルドが、地鳴りのような声で、言った。
「北の砦は、陛下と築いた。陛下と、守る」
ディートリヒが、少しためらってから、言った。
「……聖王国の陛下も、魔王殿に、礼を言いたいと。自分の手で井戸を掘る国を、見てほしいと」
ネフィが、泣きながら、手を挙げた。
「わたしも、陛下に、消えてほしくないですぅ!
あと、勇者さんにも、帰ってほしいですぅ! 両方ですぅ!」
シロが、「わふ!」と、ひときわ大きく、鳴いた。
リリエラは、何も言わなかった。
ただ、主の前に、湯気の立つ茶を、一杯、そっと置いた。
◆ ◆ ◆
白石は、涙を拭って、立ち上がった。
「ヴァルさん」
「……ああ」
「私も、言います。わがまま」
白石は、魔王を見上げた。
「帰りたいです。お母さんに会いたいです。桜、見たいです。森戸さんと、約束したので」
「ああ」
「でも、帰ったら、もう、ヴァルさんにも、ネフィにも、
シロにも、みんなにも、会えなくなるのは、嫌です」
白石は、くたくたの布を、ぎゅっと握った。
「帰っても、また、来たいです。ここに。現場担当として」
大食堂が、しんと静まり返った。
それから、異界掲示板の板に、文字が、次々と、流れ始めた。
9:名無しさん
それだ!!!
10:名無しさん
行き来できるようにすればいいんだ!
11:名無しさん
帰るか残るかじゃなくて、どっちも!
12:名無しさん
異世界に出張する清掃員
13:名無しさん
最高のゴールじゃん
14:◆PDCAおじさん
>>9〜>>13
……皆さん、ありがとうございます。
では、第二部のゴールを、決めます。
15:◆PDCAおじさん
【第二部のゴール】
一、白石さんが、日本に帰れること。
二、魔王さんが、消えないこと。
三、世界の瘴気を、誰か一人に押しつけない仕組みに変えること。
四、白石さんが、日本と、こちらの世界を、行き来できるようにすること。
以上、四つ。全部です。どれか一つではなく。
16:名無しさん
全部盛りだ
17:名無しさん
欲張りセット
18:◆ビルメン二十年
欲張りで、いいんです。
現場の目標は、高く。手順は、一つずつ。それが、プロのやり方です。
19:魔王 ◆VaLgRaVe
>>15
このゴールで、行く。
皆、頼む。
20:白石
お願いします!
21:名無しさん
うおおおおお
22:名無しさん
第二部、始まった感ある
23:名無しさん
>>22
通算でもうスレ30本くらい経ってるけどな




