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第25話 初出勤(後編)

午後、魔王が詰所に持ってきた一覧は、羊皮紙十二枚にわたっていた。


「……多いですね」

「三百年分の、陳情書から抜き出した。

全部ではない。

急ぐものだけだ」


魔王は、少し誇らしげで、少し申し訳なさそうだった。

白石は、一枚目の、一番上の行を読んだ。


――魔王城、宝物庫。

呪具多数につき、立ち入り困難。

三百年、未整理。


「宝物庫?」

「ああ。魔王城の地下にある。

我が魔王に任じられた時には、既にあった。

先代の魔王の時代から、呪いのかかった武具や装飾品が、片っ端から放り込まれてきた場所だ」


魔王は、わずかに、目を逸らした。


「……そなたに贈った、嘆きの腕輪も、そこから出したものだ」


白石は、自分の左手首を見た。

透き通った青い石が、窓の光を受けて、きらりと光った。


「呪具同士が、互いの呪いを強め合っていて、今では、リリエラでさえ、入り口から三歩以上は入れん。中に何があるのか、正確な目録も、もう誰にも分からん」

「……つまり」

「三百年分の、開かずの物置だ」


白石の目が、きらりと光った。

ネフィとシロは、また、顔を見合わせた。


◆ ◆ ◆


【現場】環境整備局・現場担当の仕事を見守るスレ Part1


1:魔王 ◆VaLgRaVe

第二部、とでも言えばいいのか。

新しいスレを立てた。

今日から、白石が、我が国の環境整備局の現場担当として働き始めた。

最初の仕事は、我が城の地下の宝物庫だ。

三百年分の呪具が詰め込まれ、我の秘書官でさえ、入り口から三歩以上は入れない場所だ。

白石は、今、宝物庫の扉の前で、腕まくりをしている。

実況する。


2:名無しさん

新スレきた!


3:名無しさん

第二部w


4:名無しさん

初仕事が呪具の物置って、ハードすぎない?


5:◆PDCAおじさん

魔王さん、白石さん、初出勤おめでとうございます。

初日から難易度の高い現場ですね。


6:◆ビルメン二十年

横から失礼します。初めて書き込みます。

前スレまでROMってました。ビルメンテナンス業、いわゆる清掃業に二十年勤めている者です。

白石さんが同業だと知って、居ても立ってもいられず、コテハンをつけました。


7:名無しさん

本職きた!!


8:名無しさん

プロの先輩だ


9:魔王 ◆VaLgRaVe

>>6

よく来てくれた。白石に伝えておく。


10:◆ビルメン二十年

>>9

ありがとうございます。

白石さんに、一つだけアドバイスを。

長年放置された倉庫は、いきなり奥から手をつけないこと。

入り口から順番に、「残すもの」「捨てるもの」「保留」の三つに分けながら、

作業スペースを確保して進むのが鉄則です。

あと、危険物は、最初に隔離してください。

呪具は、たぶん、こっちでいう危険物扱いだと思うので。


11:魔王 ◆VaLgRaVe

>>10

伝えた。

白石が、「分かってます、先輩」と笑っていた。

それから、「でも、ありがとうございます、心強いです」と。


12:◆ビルメン二十年

>>11

先輩……!


13:名無しさん

ビルメンさん、喜んでて草


14:魔王 ◆VaLgRaVe

始まった。

白石が、扉を開けた。

中から、黒い靄が、どっと溢れ出してきた。

呪いの気配だ。

リリエラが、思わず一歩下がった。

白石は、下がらなかった。

「うわあ」と言った。

それから、「これは、やりがいがありますね」と言った。


15:名無しさん

第一声が「やりがいがある」


16:名無しさん

社畜の鑑……いや、職人の鑑か


17:魔王 ◆VaLgRaVe

白石が、入り口のすぐ脇にあった、黒い剣を手に取った。

先代の魔王の時代に、持ち主を七人狂わせたという、呪いの魔剣だ。

白石は、それを、くるりと裏返して、刃の根元を見た。

それから、布で、拭いた。

刃が、銀色になった。

ただの、よく切れそうな剣になった。

白石は、それを、工作員が用意した「残すもの」の木箱に入れた。


18:名無しさん

持ち主七人狂わせた剣が三秒で無力化


19:名無しさん

仕分けしてて草


20:◆ビルメン二十年

>>17

手際がいい。

拭いた後、すぐに分類して、作業スペースに置かない。

プロの動きです。


21:魔王 ◆VaLgRaVe

次。呪いの鏡。覗き込んだ者の魂を吸い込むという鏡だ。

白石は、覗き込まずに、裏側から鏡面を拭いた。

曇りが取れた鏡は、ただの、よく映る鏡になった。

入り口で見ていた幻術師が、「わたくしの鏡のコレクションに、ぜひ」と言って、持っていった。


22:名無しさん

裏から拭くの賢い


23:名無しさん

ミラージュさん、ちゃっかりしてる


24:魔王 ◆VaLgRaVe

次。呪いの王冠。被った者の頭から、決して外れなくなる。

次。呪いの指輪。嵌めた者の指を、少しずつ石に変える。

次。呪いの杯。注いだ水を、全て毒に変える。

全部、拭かれた。全部、ただの宝物になった。


25:名無しさん

テンポが早すぎるw


26:名無しさん

三百年分の呪いが流れ作業で処理されていく


27:◆PDCAおじさん

魔王さん、一つ伺ってもよろしいですか。

呪いが解けた宝物は、どうなさるおつもりですか。


28:魔王 ◆VaLgRaVe

>>27

秘書官が、今、目録を作り直している。

秘書官いわく、

「呪いさえなければ、どれも国宝級。

売却すれば、北の砦の改修費と、南の街道の整備費と、

湖の周りの開墾費を、全部まかなえます」と。


29:名無しさん

国庫が潤ってて草


30:名無しさん

掃除で財政再建


31:名無しさん

勇者、国家予算に貢献しすぎでは


32:◆ビルメン二十年

>>28

清掃業者は、物の価値を見抜くのも仕事のうちです。

捨てる前に、ちゃんと確認する。

白石さん、本当に、いい仕事をされます。


◆ ◆ ◆


日が傾く頃、宝物庫の床が、三百年ぶりに見えた。

棚という棚が空になり、木箱という木箱が「残すもの」で埋まった。

黒い靄は、どこにもなかった。

古い石の床が、白石の手で、つやつやと光っていた。

白石は、額の汗を拭いながら、宝物庫の一番奥に、目をやった。

壁際に、何か、平たいものが立てかけてあった。

他の呪具とは、違った。黒い靄をまとってはいない。

ただ、三百年、いや、もっと長い時間の埃と煤が、分厚く、こびりついていた。


「……これ、何だろう」


白石は、それに近づいた。

大人の背丈ほどの、石の板だった。

表面に、何かが彫られている。

埃に埋もれて、何も読めない。

白石が板の前の床を拭くと、石の上に、墨を一滴落としたような黒い点が、ひとつ残った。

もう一度拭くと、消えた。

けれど、板の埃を払い終えて振り返ると、さっきの場所のすぐ隣に、また同じ黒い点があった。


(……気のせいかな)


白石は、もう一度だけ、そこを拭いた。

気になったので、手を入れた。


◆ ◆ ◆


33:魔王 ◆VaLgRaVe

宝物庫の掃除が、終わった。

最後に、白石が、宝物庫の一番奥で、石の板を見つけた。

我も、知らなかったものだ。

先代の魔王の、もっと前の時代のものかもしれない。

白石が、埃を拭った。

石の板には、文字と、図が彫られていた。

文字は、我にも、秘書官にも、読めない。

古すぎる。

だが、図は、分かった。

円と線を組み合わせた、複雑な紋様だ。

勇者の紋と、同じ形をしていた。


34:名無しさん

え


35:名無しさん

まじか


36:名無しさん

初日から伏線出てきた


37:◆PDCAおじさん

>>33

魔王さん。その石の板、大切に保管してください。

システムの起源に、繋がっているかもしれません。


38:魔王 ◆VaLgRaVe

>>37

ああ。そうする。

白石は、石の板を見て、少しだけ、黙っていた。

それから、「先に、ここの片付けを終わらせちゃいましょう」と言って、また、手を動かし始めた。


39:◆ビルメン二十年

>>38

……いい仕事人ですね、白石さん。

気になるものを見つけても、まず、目の前の現場を終わらせる。


40:名無しさん

かっこいい


41:名無しさん

初日、お疲れさまでした


42:白石

初日、終わりました。

ビルメン二十年さん、アドバイス、ありがとうございました。

入り口から順番に、三つに分けて。

ちゃんと、基本通りにやりました。

皆さんも、見守っていただいて、ありがとうございました。

明日も、がんばります。


43:名無しさん

おつかれさまー!!


44:名無しさん

白石さん、ゆっくり休んで


45:◆ビルメン二十年

>>42

お疲れさまでした。

同業者として、あなたを誇りに思います。


46:名無しさん

ビルメンさん、泣いてない?


47:◆ビルメン二十年

>>46

泣いてません。目にゴミが入っただけです。


48:名無しさん

清掃業者の目にゴミが入るのは大問題では


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