↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
57/69

第19話 強制イベント(後編)

「陛下! 剣を、抜かせてください!」


リリエラの声で、ヴァルグレイヴは我に返った。

脇腹に、勇者の剣が刺さったままだった。

黒いマントが、じっとりと重く濡れている。

医官が駆け寄り、リリエラが、主の腕をつかんでいた。

秘書官の手が、震えていた。


「……浅い。大事ない」

「大事です!」


リリエラが、叫んだ。

二度目だった。

剣が引き抜かれ、医官が傷口に手をかざした。

治癒の光が、ゆっくりと傷を塞いでいく。

ヴァルグレイヴは、その間も、手の中の布を、握りしめたままだった。

広間の床に、板が浮かんでいた。全ての者の前に。


――――――――――


【通知】勇者を、回収しました。

【通知】勇者は、聖王国にて、処理されます。

【通知】処理の完了後、次の勇者を召喚します。

【通知】予言の成就は、次の勇者に引き継がれます。

【通知】処理は、三日後、満月の夜に行われます。


――――――――――


広間が、凍りついた。

処理。

その言葉の意味を、誰もが、理解していた。


「……勇者の代わりは、いくらでもいる、か」


ヴァルグレイヴは、聖騎士団長の言葉を、低く繰り返した。

三百年。

十一人の勇者。

その誰もが、この板の筋書きの中で、使い捨てられてきた。

森戸も。

我が手にかけた、十人も。

そして今、十二人目を。


◆ ◆ ◆


聖王国アルシェ、王城。

埃にまみれた召喚の間の、床の召喚陣が、まばゆく光った。

光が収まると、陣の真ん中に、二つの人影が倒れていた。

鎧の勇者と、紫の髪の夢魔。

勇者は、意識を失っていた。

右手の紋が、まだ、かすかに光っている。

ネフィは、勇者の上に覆いかぶさるようにして、顔を上げた。

周りを、白いマントの騎士たちが、取り囲んでいた。

その奥に、金の冠の国王と、白い法衣の大神官。

そして、聖騎士団長ディートリヒ。


「……魔族が、一匹、混じったか」


大神官オルヴェンが、眉一つ動かさずに言った。

老人の目の前には、半透明の板が浮かんでいる。


「構わぬ。神託は、勇者の処理を命じている。

満月の夜に。

それまで、地下牢に」


騎士たちが、勇者に手を伸ばした。


「触らないでくださいっ!」


ネフィが、勇者を抱きかかえたまま、紫の光を放った。

騎士たちが、わずかにたじろぐ。


「勇者さんに、触らないで! 兜にも、指一本、触らないで!」


夢魔の少女の目に、涙が溜まっていた。

それでも、その目は、騎士たちを睨みつけたまま、一歩も引かなかった。


ディートリヒが、片手を上げて、騎士たちを制した。


「……構わん。その魔族ごと、地下牢へ。勇者の兜は、外さずともよい」

「団長殿?」


大神官が、怪訝そうに眉をひそめた。

ディートリヒは、答えなかった。

ただ、意識を失った勇者と、それを必死に庇う夢魔の少女を、感情のない目で、見下ろしていた。

砕けた指輪のあった右手の指を、もう片方の手で、無意識に握りしめながら。


◆ ◆ ◆


魔王城。

傷の手当てを終えたヴァルグレイヴは、謁見の間の玉座に、深く腰を下ろしていた。

手の中には、まだ、布があった。

使い込まれて、色の褪せた、何の変哲もない布。

勇者が、毒を拭い、瘴気を拭い、呪いを拭い、亡者を拭い、結界を拭い、凍った涙を拭った布。

最後に、自分の紋を、拭おうとした布。


「陛下」


リリエラが、一枚の羊皮紙を差し出した。


「宝物庫の、目録です」

「……今、それどころでは」

「嘆きの腕輪」


ヴァルグレイヴの手が、止まった。


「宝物庫の呪具には、全て、目録の紋が刻まれております。

持ち出されても、どこにあるか、目録で辿れるように」


リリエラは、羊皮紙の一点を、指さした。

嘆きの腕輪の欄に、小さな光の点が、明滅していた。

遥か南。

大陸の端。

聖王国アルシェの、王城の、地下。


「勇者は、あの腕輪を、外していません」


リリエラは、静かに言った。


「ずっとつけていられるね、と。

大事にするね、と。

……そう言っていたと、ネフィが」


ヴァルグレイヴは、羊皮紙の光の点を、長いこと見つめていた。

それから、異界掲示板を開いた。


◆ ◆ ◆


【緊急】例の方を取り戻す件 Part18


1:魔王 ◆VaLgRaVe

前スレの続きを、報告する。

例の方は、我の前で剣を抜いた。紋に体を操られて。

我は、剣を抜かなかった。

脇腹を、少し斬られた。大事ない。

例の方は、刃が我の胸を貫く直前に、わずかに、刃を逸らした。

それから、剣を手放して、自分の紋を、布で拭おうとした。

落ちなかった。それでも、拭い続けていた。

我に、謝っていた。結界を拭いてしまって、ごめんなさい、と。

その直後、システムが、例の方を「回収」した。

工作員も、一緒に消えた。

我の手に、例の方の布だけが残った。


2:名無しさん

……


3:名無しさん

言葉が出ない


4:名無しさん

操られてても、刃を逸らしたのか


5:名無しさん

自分の紋を拭おうとしたの、泣く


6:魔王 ◆VaLgRaVe

システムは、こう告げた。

例の方は、聖王国で「処理」される。

三日後、満月の夜に。

処理の後、次の勇者を召喚する。

予言は、次の勇者に引き継がれる、と。


7:名無しさん

ふざけんな


8:名無しさん

処理って、殺すってことだろ


9:名無しさん

ふざけんなよ


10:名無しさん

使い捨てかよ


11:魔王 ◆VaLgRaVe

例の方の居場所は、分かっている。

以前、我が送った呪いの腕輪を、例の方は、外さずにつけていた。

大事にすると言って。

その腕輪が、聖王国の王城の地下にあると、我が城の目録が示している。


12:名無しさん

腕輪……!


13:名無しさん

あの腕輪が、ここで!?


14:名無しさん

伏線回収がうますぎる


15:名無しさん

呪いの装備のつもりで贈ったものが、命綱になるの胸熱すぎる


16:魔王 ◆VaLgRaVe

迎えに行く。

聖王国へ。


17:名無しさん

うおおおおおお


18:名無しさん

行け魔王さん!


19:名無しさん

全員で応援する!


20:◆PDCAおじさん

魔王さん。

作戦会議を、始めましょう。

ゴールを、確認します。

例の方と、工作員の方を、無事に取り戻すこと。

そして、魔王さんも、生きて帰ること。

期限は、三日。


21:魔王 ◆VaLgRaVe

>>20

ああ。

頼む。皆の知恵を、貸してくれ。


22:名無しさん

当たり前だろ


23:名無しさん

このスレの全員、とっくに覚悟決まってる


24:名無しさん

俺らが三百年分の勇者の無念、晴らしてやる


◆ ◆ ◆


その時、謁見の間の大扉が、開いた。

重い足音が、広間に響いた。

入ってきたのは、漆黒の甲冑に身を包んだ、一人の騎士だった。

兜の面頬を下ろし、背には身の丈ほどの大剣。

南の国境から、夜を徹して駆けつけてきたのだろう。

甲冑には、乾いた泥がこびりついていた。

四天王、最後の一人。黒騎士ヴォルフ。

魔王軍最強の剣士だった。

ヴォルフは、玉座の前で、片膝をついた。


「陛下。国境より、急ぎ参上いたしました」

「ヴォルフ。よく来た。ちょうどいい、お前の力が要る。聖王国へ――」

「存じております」


黒騎士は、面頬の奥から、静かに言った。


「陛下が、勇者を取り戻すため、聖王国へ向かわれると」

「そうだ」


ヴォルフは、ゆっくりと立ち上がった。

背中の大剣の柄に、手をかけた。


「――お止めいたします」


広間の空気が、再び、凍りついた。


――――――――――


【報告】勇者の処理まで:三日


――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。