↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
49/72

第17話 鍋直しのヴァル(前編)


【作戦会議】例の方を城まで無事に迎える件 Part15


1:魔王 ◆VaLgRaVe

前スレで課長が言っていた件を、相談したい。

例の方は、あと三日で城に着く。騎士団の期限も、あと三日だ。

例の方の右手には、聖王国が刻んだ印がある。

騎士団長が指輪を光らせると、その印が焼けるように痛む。

騎士団長は「代わりはいくらでもいる」と言った。

つまり、指輪一つで、例の方の命を奪えるということだ。

城に着く前に、この指輪をどうにかしたい。


2:◆PDCAおじさん

>>1

はい。私もそれが、最大のリスクだと考えていました。

例の方の安全を、騎士団長一人の判断に握られている状態です。

城で対面する時に、それを使われたら終わりです。


3:名無しさん

指輪奪えばよくね?


4:名無しさん

>>3

相手は騎士団長だぞ。そんな簡単にいくか


5:名無しさん

てか、例の方の印って、例の方本人には拭けないの? いつもの布で


6:魔王 ◆VaLgRaVe

>>5

工作員の報告では、例の方は何度も試したらしい。

だが、その印だけは、どうしても落ちなかったそうだ。


7:名無しさん

まじか


8:名無しさん

なんでも拭き取ってきた例の方が、自分の印だけは拭けないの怖いな


9:◆PDCAおじさん

>>6

それは、重要な情報ですね。

例の方の力でも消せない。

つまり、その印は、毒や呪いとは、根本的に違う種類のものなのかもしれません。

魔王さん。その印を、ご自分の目で、直接ご覧になったことはありますか。


10:魔王 ◆VaLgRaVe

>>9

ない。水晶玉越しに、光っているのを見ただけだ。


11:◆PDCAおじさん

でしたら、現場を見るべきです。

対策を立てるには、まず、現物を確かめる。現場で確認する。それが一番確実です。


12:名無しさん

課長、また現場主義だ


13:名無しさん

でも魔王さんが例の方の前に出ていったら、それって予言の対面になっちゃうんじゃないの?


14:名無しさん

>>13

それな。システムが何してくるか分からんし


15:名無しさん

じゃあ変装すればよくない?


16:名無しさん

>>15

変装!


17:名無しさん

正体隠して会いに行くのは王道


18:名無しさん

お忍びの王様展開きたこれ


19:魔王 ◆VaLgRaVe

>>15

……変装。

我が軍には、幻術の使い手がいる。千年の幻術師だ。

以前、例の方に手鏡を磨いてもらった者で、「次は、例の方をちゃんと見てみたい」と言っていた。


20:名無しさん

伏線回収だ!


21:名無しさん

幻術師さん、まさかの再登場


22:◆PDCAおじさん

>>19

それなら、条件は揃っていますね。

ただし、魔王さん。胃に穴が開きかけたばかりです。

無理は禁物です。

それから、何があっても、正体は明かさないこと。

対面は、お城で、と約束されたのでしょう。


23:魔王 ◆VaLgRaVe

>>22

ああ。約束は、城で、と書いた。

今回は、ただの旅人として行く。


24:名無しさん

どんな旅人に化けるの?


25:名無しさん

吟遊詩人とか


26:名無しさん

魔王さん、歌えなさそう


27:名無しさん

行商人が無難では


28:魔王 ◆VaLgRaVe

>>24

……考えておく。


29:名無しさん

変装実況スレも頼むぞ


30:名無しさん

例の方と魔王さんが、正体隠して焚き火を囲む……胸熱


31:名無しさん

次スレも待ってる


◆ ◆ ◆


「――鍋直し、ですって?」


ミラージュは、宙に浮いたまま、目を丸くした。

魔王城の地下、幻術師の工房。

壁一面に大小の鏡が掛けられ、そのどれもが、少しずつ違う景色を映している。

部屋の真ん中で、ミラージュは、例の手鏡を胸に抱いていた。


「鍋直しだ」


ヴァルグレイヴは、真顔で答えた。


「勇者は、物を手入れする者らしい。鍋直しなら、話が合うかもしれん」

「陛下……」


ミラージュは、笑いをこらえるように、肩を震わせた。


「陛下が、ご自分で、そんなことをお考えになるなんて。千年生きてきて、初めて見ましたわ」

「……悪いか」

「いいえ。とても、素敵ですわ」


ミラージュが、指先を振った。

壁の鏡の一枚が、すうっと滑り出て、ヴァルグレイヴの前に浮かんだ。

鏡の中に、角と黒いマントの巨躯が映っている。

ミラージュが指を動かすたびに、その姿が、少しずつ変わっていった。

角が消える。背が縮む。黒いマントが、煤けた旅装束に変わる。

紅い目が、穏やかな灰色に。

威圧的な顔立ちが、どこにでもいそうな、四十がらみの、くたびれた男の顔に。

背中には、大小の鍋と、修理道具の入った袋。


「いかがです」


ヴァルグレイヴは、鏡の中の男を、しばらく見つめていた。

胃のあたりを押さえている癖だけは、そのままだった。


「……悪くない」

「お名前は?」

「名前?」

「旅の鍋直しにも、名前は要りますわ」


ヴァルグレイヴは、少し考えた。


「ヴァル、でいい」

「……陛下、それ、ほとんどそのままですわ」

「呼ばれ慣れぬ名では、返事ができん」


ミラージュは、とうとう声を上げて笑った。

それから、手鏡を胸に抱いたまま、真剣な顔になった。


「陛下。わたくしの幻は、触れても、嗅いでも、本物と区別がつきません。

けれど、あの勇者は、わたくしの町の幻を、一晩ごとに綺麗にしてしまいましたわ」

「分かっている」

「勇者が、陛下のお顔を、気にして……もし、拭こうとしたら」


ヴァルグレイヴは、鏡の中の、くたびれた男の顔を見た。


「その時は、その時だ」

「……承知いたしましたわ。わたくしも、お供します。幻を、近くで支えねばなりませんもの」


ミラージュは、手鏡を、ぎゅっと抱きしめた。


「それに、今度こそ、あの方を、ちゃんと見てみたいのですわ」


――――――――――


【警告】魔王の外出は、推奨されません。

【警告】勇者との接触は、許可されていません。


――――――――――


「接触ではない」


ヴァルグレイヴは、鍋を背負い直しながら、板に向かって言った。


「鍋直しの、営業だ」


板は、一瞬だけ、文字を乱したように見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。