第17話 鍋直しのヴァル(前編)
【作戦会議】例の方を城まで無事に迎える件 Part15
1:魔王 ◆VaLgRaVe
前スレで課長が言っていた件を、相談したい。
例の方は、あと三日で城に着く。騎士団の期限も、あと三日だ。
例の方の右手には、聖王国が刻んだ印がある。
騎士団長が指輪を光らせると、その印が焼けるように痛む。
騎士団長は「代わりはいくらでもいる」と言った。
つまり、指輪一つで、例の方の命を奪えるということだ。
城に着く前に、この指輪をどうにかしたい。
2:◆PDCAおじさん
>>1
はい。私もそれが、最大のリスクだと考えていました。
例の方の安全を、騎士団長一人の判断に握られている状態です。
城で対面する時に、それを使われたら終わりです。
3:名無しさん
指輪奪えばよくね?
4:名無しさん
>>3
相手は騎士団長だぞ。そんな簡単にいくか
5:名無しさん
てか、例の方の印って、例の方本人には拭けないの? いつもの布で
6:魔王 ◆VaLgRaVe
>>5
工作員の報告では、例の方は何度も試したらしい。
だが、その印だけは、どうしても落ちなかったそうだ。
7:名無しさん
まじか
8:名無しさん
なんでも拭き取ってきた例の方が、自分の印だけは拭けないの怖いな
9:◆PDCAおじさん
>>6
それは、重要な情報ですね。
例の方の力でも消せない。
つまり、その印は、毒や呪いとは、根本的に違う種類のものなのかもしれません。
魔王さん。その印を、ご自分の目で、直接ご覧になったことはありますか。
10:魔王 ◆VaLgRaVe
>>9
ない。水晶玉越しに、光っているのを見ただけだ。
11:◆PDCAおじさん
でしたら、現場を見るべきです。
対策を立てるには、まず、現物を確かめる。現場で確認する。それが一番確実です。
12:名無しさん
課長、また現場主義だ
13:名無しさん
でも魔王さんが例の方の前に出ていったら、それって予言の対面になっちゃうんじゃないの?
14:名無しさん
>>13
それな。システムが何してくるか分からんし
15:名無しさん
じゃあ変装すればよくない?
16:名無しさん
>>15
変装!
17:名無しさん
正体隠して会いに行くのは王道
18:名無しさん
お忍びの王様展開きたこれ
19:魔王 ◆VaLgRaVe
>>15
……変装。
我が軍には、幻術の使い手がいる。千年の幻術師だ。
以前、例の方に手鏡を磨いてもらった者で、「次は、例の方をちゃんと見てみたい」と言っていた。
20:名無しさん
伏線回収だ!
21:名無しさん
幻術師さん、まさかの再登場
22:◆PDCAおじさん
>>19
それなら、条件は揃っていますね。
ただし、魔王さん。胃に穴が開きかけたばかりです。
無理は禁物です。
それから、何があっても、正体は明かさないこと。
対面は、お城で、と約束されたのでしょう。
23:魔王 ◆VaLgRaVe
>>22
ああ。約束は、城で、と書いた。
今回は、ただの旅人として行く。
24:名無しさん
どんな旅人に化けるの?
25:名無しさん
吟遊詩人とか
26:名無しさん
魔王さん、歌えなさそう
27:名無しさん
行商人が無難では
28:魔王 ◆VaLgRaVe
>>24
……考えておく。
29:名無しさん
変装実況スレも頼むぞ
30:名無しさん
例の方と魔王さんが、正体隠して焚き火を囲む……胸熱
31:名無しさん
次スレも待ってる
◆ ◆ ◆
「――鍋直し、ですって?」
ミラージュは、宙に浮いたまま、目を丸くした。
魔王城の地下、幻術師の工房。
壁一面に大小の鏡が掛けられ、そのどれもが、少しずつ違う景色を映している。
部屋の真ん中で、ミラージュは、例の手鏡を胸に抱いていた。
「鍋直しだ」
ヴァルグレイヴは、真顔で答えた。
「勇者は、物を手入れする者らしい。鍋直しなら、話が合うかもしれん」
「陛下……」
ミラージュは、笑いをこらえるように、肩を震わせた。
「陛下が、ご自分で、そんなことをお考えになるなんて。千年生きてきて、初めて見ましたわ」
「……悪いか」
「いいえ。とても、素敵ですわ」
ミラージュが、指先を振った。
壁の鏡の一枚が、すうっと滑り出て、ヴァルグレイヴの前に浮かんだ。
鏡の中に、角と黒いマントの巨躯が映っている。
ミラージュが指を動かすたびに、その姿が、少しずつ変わっていった。
角が消える。背が縮む。黒いマントが、煤けた旅装束に変わる。
紅い目が、穏やかな灰色に。
威圧的な顔立ちが、どこにでもいそうな、四十がらみの、くたびれた男の顔に。
背中には、大小の鍋と、修理道具の入った袋。
「いかがです」
ヴァルグレイヴは、鏡の中の男を、しばらく見つめていた。
胃のあたりを押さえている癖だけは、そのままだった。
「……悪くない」
「お名前は?」
「名前?」
「旅の鍋直しにも、名前は要りますわ」
ヴァルグレイヴは、少し考えた。
「ヴァル、でいい」
「……陛下、それ、ほとんどそのままですわ」
「呼ばれ慣れぬ名では、返事ができん」
ミラージュは、とうとう声を上げて笑った。
それから、手鏡を胸に抱いたまま、真剣な顔になった。
「陛下。わたくしの幻は、触れても、嗅いでも、本物と区別がつきません。
けれど、あの勇者は、わたくしの町の幻を、一晩ごとに綺麗にしてしまいましたわ」
「分かっている」
「勇者が、陛下のお顔を、気にして……もし、拭こうとしたら」
ヴァルグレイヴは、鏡の中の、くたびれた男の顔を見た。
「その時は、その時だ」
「……承知いたしましたわ。わたくしも、お供します。幻を、近くで支えねばなりませんもの」
ミラージュは、手鏡を、ぎゅっと抱きしめた。
「それに、今度こそ、あの方を、ちゃんと見てみたいのですわ」
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【警告】魔王の外出は、推奨されません。
【警告】勇者との接触は、許可されていません。
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「接触ではない」
ヴァルグレイヴは、鍋を背負い直しながら、板に向かって言った。
「鍋直しの、営業だ」
板は、一瞬だけ、文字を乱したように見えた。




