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第16話 氷姫は溶けない(後編)

【相談】例の方が凍らされた件 Part14


1:魔王 ◆VaLgRaVe

前スレの続きだ。

城を出た四天王は、氷を操る者だ。我が二百年前に拾って育てた。誰よりも、我に忠実な者だ。

その者が、例の方の前に立ちはだかった。そして、例の方を、氷の柱の中に閉じ込めた。

殺してはいない。凍らせて、眠らせただけだ。我に近づけぬように。

工作員の報告では、例の方は、氷の中で目を閉じている。息はある。

だが、このまま何日も氷の中にいれば、命に関わる。


2:名無しさん

え


3:名無しさん

例の方ーーー!!


4:名無しさん

また魔王軍の身内の暴走かよ


5:名無しさん

でもこれ、操られてるわけじゃないんだよな?


6:魔王 ◆VaLgRaVe

>>5

操られてはいない。自分の意思だ。

言い残した言葉は、「陛下を倒れさせた者を、陛下に近づけるわけにはいかない。

陛下を討つと予言された者を、城には入れない」。


7:名無しさん

あー……


8:名無しさん

魔王さんを守ろうとしてるのか


9:名無しさん

忠臣すぎて暴走するパターン


10:名無しさん

悪い人じゃないから余計につらいやつ


11:魔王 ◆VaLgRaVe

命令で、氷を解かせることはできる。だが、それでは、あの者は納得しないだろう。

また、別の形で、例の方を阻もうとするかもしれない。

どうすればいい。


12:◆PDCAおじさん

魔王さん。

命令ではなく、1on1をしてください。


13:魔王 ◆VaLgRaVe

>>12

ワンオンワン。


14:◆PDCAおじさん

>>13

上司と部下が、一対一で話をすることです。

私の経験上、真面目な部下が命令に背く時は、たいてい、不安を抱えています。

そして、その不安を、上司に言えずにいます。

その方は、魔王さんが倒れたことを、とても心配したのではないでしょうか。

予言のことも、魔王さんご自身より、ずっと怖がっているのかもしれません。

命令する前に、まず、その方の話を聞いてあげてください。


15:名無しさん

課長、さすが


16:名無しさん

1on1は大事


17:名無しさん

うちの上司は1on1で自分の話しかしない


18:名無しさん

>>17

それは1on1じゃなくて独演会


19:◆PDCAおじさん

それから、もう一つ。

話を聞いた後で、魔王さんの本当のゴールを、その方に伝えてください。

魔王さんが、何を目指しているのか。その方が、安心してついていけるように。


20:魔王 ◆VaLgRaVe

>>14、>>19

……やってみる。

念話を繋ぐ魔力が、少しだけ戻っている。一人分なら、届く。


21:名無しさん

がんばれ魔王さん


22:名無しさん

無理すんなよ、胃に穴開きかけてんだからな


23:名無しさん

見守ってる


◆ ◆ ◆


『――セルシア』


念話の向こうで、息を呑む気配がした。


『……陛下』


凍った湖のように、静かで冷たい声。

けれど、その奥で、かすかに震えていた。


『お目覚めに、なられたのですね』

『ああ。心配をかけた』

『……城に、お戻りください。私は、命令には従えません。勇者を、陛下には近づけません』

『命令をしに来たのではない』


ヴァルグレイヴは、寝台の上で、目を閉じた。


『お前の話を、聞きに来た』


長い沈黙があった。


『……私の、話』

『ああ。なぜ、城を出た。何が、怖かった』


セルシアは、しばらく答えなかった。

やがて、念話の向こうから、凍りついた声が、ぽつり、ぽつりと届いた。


『……陛下が、倒れられたと聞いて』

『ああ』

『胃から、血を吐かれたと聞いて』

『……ああ』

『二百年前、私の村が、雪崩に呑まれた時。

母も、父も、村の皆も、目の前で、冷たくなっていきました。

私だけが、生き残った。

凍えて、泣くこともできずにいた私を、陛下が見つけてくださった』


セルシアの声が、かすかに、ひび割れた。


『陛下まで、いなくなったら。私は、また、一人になります』

『……』

『予言では、陛下は、勇者に討たれる。

勇者が城に近づくたびに、陛下は無理をなさる。

結界を張り、兵を止め、血を吐いて倒れられる。

このまま勇者が城に着いたら、陛下は、きっと――』


セルシアは、それ以上、言葉を続けられなかった。

ヴァルグレイヴは、目を開けた。

二百年。この子が、これほどの不安を抱えていたことに、気づかなかった。

いつも、静かに、完璧に、命令をこなしてくれていたから。


『セルシア。よく、話してくれた』

『……陛下』

『我のゴールを、伝えておく』


ヴァルグレイヴは、異界の課長の言葉を、思い出していた。


『三百年、我のゴールは、生き延びることだった。勇者を殺してでも。今は、違う』

『……違う、とは』

『我も、勇者も、生き延びることだ。勇者と話をして、二人とも生きる道を探す。

予言にも、システムにも、聖王国にも従わずに』


念話の向こうで、セルシアが、息を止めたのが分かった。


『そのために、勇者に会わねばならん。勇者を、城に通してくれ。そして、セルシア』


ヴァルグレイヴは、静かに言った。


『我は、死なぬ。お前を、一人にはせん。……信じてくれ』


長い、長い沈黙。

やがて、念話の向こうで、ぴしり、と何かがひび割れる音がした。

氷が、溶ける音だった。


◆ ◆ ◆


24:魔王 ◆VaLgRaVe

戻った。

話を、聞いた。

あの者は、我が死ぬのが怖かったそうだ。

二百年前、家族を失った時のように、また一人になるのが。

我の新しいゴールを伝えた。我も、例の方も、生き延びること。

氷が、溶けた。


25:名無しさん

うわあああ


26:名無しさん

よかった……


27:名無しさん

1on1すげえ


28:名無しさん

二百年分の不安が溶けたのか


29:◆PDCAおじさん

>>24

お疲れさまでした、魔王さん。

それが、上司の一番大事な仕事だと、私は思います。


30:魔王 ◆VaLgRaVe

>>29

……三百年、知らなかった。

それと、今しがた、工作員から報告が届いた。

氷から出てきた例の方が、震えながら、四天王の顔に手を伸ばしたそうだ。

あの者の睫毛には、二百年前から溶けない霜が、こびりついていた。

泣こうとしても、涙が凍ってしまう。それが、あの者の氷の力の代償だった。

例の方は、それを、布で拭いた。

あの者は、今、泣いているそうだ。二百年ぶりに。


31:名無しさん

やめろ


32:名無しさん

それは反則


33:名無しさん

例の方、凍らされた相手の涙拭いてあげてるの……?


34:名無しさん

泣いた


35:名無しさん

俺も泣いた


36:名無しさん

このスレ、いつから泣けるスレになったんだ


37:魔王 ◆VaLgRaVe

>>36

我も、少し、泣いた。


38:名無しさん

魔王さん……


39:◆PDCAおじさん

魔王さん。例の方が城に着くまで、あと三日ほど。

騎士団の期限も、残り三日のはずです。

次のスレでは、例の方を、どう迎えるかを考えましょう。

それから、騎士団の指輪の件も。

例の方の命が、指輪一つで握られている状態は、放っておけません。


40:魔王 ◆VaLgRaVe

>>39

ああ。頼む。


41:名無しさん

次スレも待ってる


42:名無しさん

例の方を守る作戦会議だな


――――――――――


【報告】勇者の進行度:85%

【警告】四天王「氷姫セルシア」が、勇者側に傾いています。


――――――――――


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