第9話 魔王の布告(後編)
【悲報】勇者が殺せない件 Part9
1:魔王 ◆VaLgRaVe
報告する。
前スレの案に従い、「勇者は魔王を討ちに来た者である。協力せぬこと」と、領内に布告を出した。
布告は、勇者の進路予告として読まれた。
町々から、勇者を我が町にも寄越してほしいという陳情書が、一日に山一つ分届いている。
勇者にあやかった手ぬぐいが売れ、沿道の宿屋の売り上げは四割増えた。
民の間では、我が布告を出したのは、勇者のために町々へ準備をさせる心遣いだった、
という噂が広まっている。
2:名無しさん
知ってた
3:名無しさん
ですよねー!
4:名無しさん
逆効果すぎて草
5:名無しさん
公式が進路予告出しちゃったらそりゃそうなる
6:名無しさん
勇者グッズ出てるの草。手ぬぐい欲しい
7:名無しさん
経済効果四割増はもう国策レベル
8:名無しさん
「協力せぬこと」が「お心遣い」に変換されるの、民からの信頼が厚すぎるだろ
9:魔王 ◆VaLgRaVe
>>8
三百年、民を騙したことは一度もない。それが裏目に出た。
10:名無しさん
かっこいいこと言ってるけど、結果的に勇者の宣伝してるの面白すぎる
11:名無しさん
陳情書はどうしたの?
12:魔王 ◆VaLgRaVe
>>11
全て目を通して返答した。井戸は水道局に調査させ、鐘は工兵隊に修理させ、下水道には予算をつけた。
勇者を通すかどうかについては、返答していない。
13:名無しさん
全部読んで返事したの!?
14:名無しさん
えらすぎる
15:名無しさん
この魔王ホワイトすぎる
16:名無しさん
てか、子どもからの手紙とかないの?
17:魔王 ◆VaLgRaVe
>>16
一通あった。我と勇者は喧嘩をしているのか、仲直りしてほしい、どちらも好きだから、と。
18:名無しさん
うっ
19:名無しさん
急に刺してくるのやめろ
20:名無しさん
どっちも好き、は重い
21:名無しさん
なあ、もう素直に考えようぜ
勇者、強くはないけど、魔王領にとってめちゃくちゃ有益な人材じゃん
倒すんじゃなくて、雇えばよくない?
22:名無しさん
>>21
前から言われてたやつ
23:名無しさん
スカウトか。魔王領で働いてもらう
24:名無しさん
環境大臣とか公共事業大臣とかのポスト用意して、家と給料出せば、
わざわざ魔王倒す必要なくなるじゃん
25:名無しさん
異世界から無理やり呼ばれて、魔王倒せって言われてるだけなんだろ? 別の道を示してあげればいい
26:魔王 ◆VaLgRaVe
>>25
……我は、その発想を持たなかった。
勇者は、殺すか、殺されるかの相手だと、三百年考えてきた。
27:名無しさん
魔王さん、価値観アップデートの回
28:名無しさん
でも断られたらどうすんの?
29:名無しさん
これだけ魔王領の役に立ってて、魔王領の人に好かれてて、断る理由なくね?
30:名無しさん
待遇次第だな。どうせなら盛大にやれ
31:魔王 ◆VaLgRaVe
勇者の懐柔、いや、勧誘の案を採用する。
我が自ら、書状を書こう。
32:名無しさん
魔王直筆のスカウト状か
33:名無しさん
これは勝ったな
34:名無しさん
>>33
フラグやめろ
35:名無しさん
次スレも待ってる
◆ ◆ ◆
「――以上の条件をもって、貴殿を魔王領環境整備局の初代局長として迎えたい」
ヴァルグレイヴは、書き上げた書状を読み返した。
年俸は、魔王軍の将軍と同等。魔王城下に邸宅を一軒。
専属の部下を二十名。休暇は年に六十日。
白い狼とその他の同行者も、全員を客分として遇する。
「……リリエラ。これで、足りるだろうか」
「十分すぎるかと。我が国の大臣より好待遇です」
「勇者には、それだけの価値がある」
ヴァルグレイヴは書状に封をし、黒い竜の紋章の印を押した。
「ネフィに届けさせろ。我の言葉として、直接、勇者に渡すように」
「承知しました」
リリエラが書状を受け取り、扉の前で振り返った。
「陛下。一つ、伺ってもよろしいですか」
「何だ」
「もし勇者がこれを受けたら、陛下は、勇者とお会いになるのですか」
ヴァルグレイヴは、答えに詰まった。
考えていなかった。勇者を倒すことばかりを考えてきて、
勇者と会う、ということを、一度も考えたことがなかった。
「……その時は、そうなるだろうな」
「左様ですか」
リリエラは、ほんの少しだけ、楽しそうに見えた。
――――――――――
【警告】魔王の行動が、規定の範囲を逸脱しています。
【警告】勇者との交渉は、許可されていません。
――――――――――
ヴァルグレイヴは、浮かんだ板を見据えた。
「許可、だと」
三百年、この板の言うことに従ってきた。
予言を信じ、勇者を殺し、世界を征服した。
「我は、民のためになることをしているだけだ」
板は、答えなかった。
ただ、いつものようには消えず、しばらくの間、魔王の目の前に浮かび続けていた。




