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第8話 三百年の懸案事項(後編)


【朗報?】勇者が殺せない件 Part8


1:魔王 ◆VaLgRaVe

報告する。

前スレの案に従い、勇者を瘴気の大湿原へ誘い込んだ。

我が軍の精鋭でも抜けるのに二か月かかる土地だ。

一週目は、勇者の進みが遅く、足止めに成功した。

我は久しぶりに夕食を完食した。

三週目、湿原が消滅した。

跡地には澄んだ湖と、水田に最適な肥沃な土地ができた。

なお、この湿原の浄化は、我が三百年間、予算不足で見送り続けてきた事業である。


2:名無しさん

スレタイが朗報になってて草


3:名無しさん

三百年の懸案事項を三週間で解決する勇者


4:名無しさん

公共事業勇者ふたたび


5:名無しさん

足止め成功してたのに、足止めされてる間に土地改良されてるの面白すぎる


6:名無しさん

いくら浮いたの?


7:魔王 ◆VaLgRaVe

>>6

概算で、国家予算の三年分。


8:名無しさん

えぐい


9:名無しさん

もう勇者に国家予算の一割くらい払っても元取れるだろ


10:名無しさん

村の人たちは?


11:魔王 ◆VaLgRaVe

>>10

村長から嘆願書が届いた。子どもたちが、生まれて初めて咳をせずに眠っているそうだ。

湖を、勇者の名にちなんで「勇者の湖」と名付けたいと。

許可した。


12:名無しさん

許可したんかい


13:名無しさん

敵の名前を自国の湖につける魔王


14:名無しさん

懐が深すぎる


15:名無しさん

でもさ、魔王さんが三百年やりたかったことを勇者がやってくれたんだよな。

それはそれでよかったじゃん


16:魔王 ◆VaLgRaVe

>>15

……そうだな。そう思うことにする。


17:名無しさん

素直


18:名無しさん

てか、そもそもこの勇者、何がしたいんだろうな

魔王を倒しに来てるはずなのに、やってることが毒抜き、罠撤去、呪い解除、成仏、環境浄化


19:名無しさん

ボランティア団体かな?


20:名無しさん

むしろ勇者が通るたびに魔王領が良くなってる


21:名無しさん

で、まずいのはそこなんだよ

勇者、魔王領で人気出すぎてね?


22:名無しさん

>>21

確かに。このまま進んだら、魔王城に着く頃には魔王領の民がみんな勇者の味方になってる


23:名無しさん

そうなったら魔王の統治もやばいじゃん


24:名無しさん

じゃあ逆に悪評流そうぜ

「勇者は村を襲った」「勇者は子どもをさらう」とか。

民衆を勇者の敵にすれば、宿にも泊まれないし、物資も手に入らない


25:名無しさん

ネガキャンか。えげつないけど効きそう


26:名無しさん

孤立させて兵糧攻めだな


27:魔王 ◆VaLgRaVe

>>24

……民を騙すのは、我の主義に反する。

だが、勇者の人気がこれ以上高まれば、我の統治そのものが揺らぐのも事実だ。


28:名無しさん

嘘じゃなくてもいいじゃん。

「勇者は魔王を倒しに来た侵略者」って事実を広めるだけでも効果あるでしょ


29:名無しさん

>>28

それなら嘘じゃないな


30:魔王 ◆VaLgRaVe

>>28

なるほど。事実を伝えるだけなら、我の主義にも反さない。

その案を採用する。

勇者が何者で、何のために来たのか。

領内に布告を出そう。


31:名無しさん

嫌な予感しかしない


32:名無しさん

布告が逆効果になる未来が見える


33:名無しさん

次スレも待ってる


◆ ◆ ◆


魔王は、布告の文面を自ら書いた。


「聖王国より召喚されし勇者、魔王を討つべく魔王領を北上中。民は、これに協力せぬこと」


嘘は一つもない。事実だけを、簡潔に。

羽ペンを置いた時、扉が叩かれた。

入ってきたのは、リリエラではなかった。

農務官の、年老いた獣人だった。


「陛下。旧湿原の開墾の件で、御礼を申し上げに参りました」

「ああ。予算は出す。存分にやれ」

「ありがとうございます。それと……」


老農務官は、少しためらってから、懐から小さな包みを取り出した。

「沼地の村の子らが、陛下にと。湖で初めて獲れた魚の、干物でございます。

湖の名に、陛下がお許しをくださった御礼だそうで」


ヴァルグレイヴは、包みを受け取った。

素朴な干物が三尾、藁で丁寧に縛ってあった。

藁の結び目に、子どもの字で書かれた札が挟まっている。


「まおうさま ありがとう」


魔王は、それを長いこと見つめていた。

それから、書き上げたばかりの布告に目を戻した。

事実だけを、簡潔に。

本当に、それでいいのだろうか。

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