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双星のレガリア  作者: ボンヌ
第2章

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第24話 祠の地下

いつも読んでいただきありがとうございます!


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


これからも楽しんでいただけるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。



千鶴と薫は、しばらくその場から動かなかった。


太陽と月。


二つの耳飾りに宿った光は、すでに消えている。


目の前にあるのは、蔦に覆われた古い祠だけだった。


「……今、光ったよね?」


千鶴が自分の耳元へ触れる。


「うん」


薫も三日月の耳飾りを指先でなぞった。


「僕のも反応した」


「やっぱり、ここに何かあるってこと?」


「少なくとも、僕たちと無関係ではなさそうだね」


薫は祠へ視線を戻す。


まだ中へ入ってはいない。


依頼の目的は、祠周辺で起きている異常の原因を調べること。


魔獣の増加。


本来この地域には生息していない種類の出現。


異常に成長した植物。


そして、祠へ近づくほど濃くなっていく魔力。


ここまで確認しただけでも、ギルドへ持ち帰れる情報は十分に増えている。


「まず、周りを見よう」


薫が言った。


千鶴は少し意外そうに祠を見る。


「入らないの?」


「入る前に確認する」


「慎重だねぇ」


「姉さんが慎重じゃないから」


「今日はちゃんと慎重だよ!」


そう言いながら、千鶴はすでに祠へ近づこうとしていた。


薫が無言で姉の外套を掴む。


「……何?」


「周りから」


「分かってるって」


「今、真っ直ぐ入ろうとしてたよね」


「ちょっと近くで見ようとしただけ」


「それを入ろうとしてたって言うんだよ」


千鶴は不満そうに頬を膨らませた。


肩の上では、ノクスが二人のやり取りなど気にもせず、祠をじっと見つめている。


先ほどから一度も鳴かない。


それが、薫には少し気になった。


三人は祠を囲むようにゆっくりと歩いた。


建物そのものは、それほど大きくない。


正面に一つだけ入口があり、左右と背面には窓すらなかった。


石材は所々崩れているものの、長い年月を経た建物にしては形を保っている。


「足跡、多いね」


千鶴が地面を見る。


祠の周囲には、無数の魔獣の足跡が残されていた。


牙狼。


岩甲蜥蜴。


それ以外にも、大きさも形も異なる痕跡がいくつも混じっている。


薫はしゃがみ込み、その一つへ指を近づけた。


「新しい」


「どのくらい?」


「今日か、昨日」


祠の入口付近にも足跡は続いている。


薫は眉を寄せた。


「中には入ってない」


「え?」


千鶴も近づく。


確かに魔獣の足跡は祠の周囲へ大量に集まっている。


入口のすぐ前にもある。


しかし、そこから先には一つも続いていなかった。


まるで祠へ近づいたところで

何かに怯えて引き返したかのように。


「さっきの子たちもそうだったのかな」


千鶴が言う。


「ここまで来て、逃げた?」


「可能性はある」


薫は祠を見る。


魔獣を引き寄せている何かがある。


同時に魔獣を近づけさせない何かもある。


「変だね」


「うん」


祠の背面へ回る。


壁には深い爪痕が何本も残されていた。


かなり大きな魔獣が引っ掻いたものらしい。


だが、石壁はほとんど削れていない。


「硬いな」


薫が表面へ触れる。


ただの石に見える。


それでも内部には僅かに魔力が残っていた。


建物全体へ薄く何かが張り巡らされている。


結界そう呼べるものかもしれない。


「壊そうとしたのかな」


「たぶん」


「でも入れなかった」


「そうみたいだね」


一周して正面へ戻る。


異常はある。


だが、外側だけでは原因までは分からない。


薫は祠の入口を見つめた。


「中を確認しよう」


「今度こそ?」


「うん」


千鶴は大剣を背負い直した。


「よし!」


「遊びに行くんじゃないからね」


「分かってるよ」


「本当に?」


「今日は何回聞くの?」


「姉さんだから」


「信用なさすぎじゃない?」


「実績の問題だよ」


「ひどい!」


千鶴が文句を言う。


だがその声とは裏腹に、祠へ近づく足取りは慎重だった。


ノクスも肩の上で身体を低くしている。


入口の前。


千鶴が足を止めた。


中は薄暗い。


外から差し込む光だけでは、奥まで見通すことができない。


「ノクス」


千鶴が小さく呼ぶ。


返事がない。


黒龍の身体が僅かに震えている。


「怖い?」


「……キュル」


小さな声。


千鶴はノクスの頭を優しく撫でた。


「無理しなくていいよ」


ノクスを下ろそうとする。


だが。


前脚が千鶴の服を掴んだ。


離れようとしない。


「一緒に来る?」


「キュル」


「分かった」


千鶴はノクスを肩へ戻した。


「絶対離れないでね」


三人は祠へ足を踏み入れた。



内部は、外から見た以上に狭かった。


正面に古びた石台。


左右には何もない。


壁には装飾らしい装飾もなく、床へ薄い埃が積もっている。


「……これだけ?」


千鶴が辺りを見る。


祠というからには、何かを祀る像や祭壇があると思っていた。


だが、正面の石台にも何も置かれていない。


空だった。


「何を祀ってたんだろ」


「エルナさんも分からないって言ってたね」


薫は壁を確認する。


文字。


紋章。


絵。


何か残されていないか探していく。


千鶴も反対側を調べ始めた。


「何もないね」


「そう見える」


「隠し扉とか?」


「急に冒険者っぽくなったね」


「ありそうじゃん!」


千鶴が壁を叩く。


コン。


コン。


「こういうのって、音が違う場所が――」


ゴンッ。


「痛っ!」


「拳でやるからだよ」


「薫も探してよ!」


「探してる」


薫は床へ視線を落とした。


祠へ入ってから。


ずっと気になっている。


魔力の流れ。


外では祠そのものから感じていると思っていた。


だが違う。


もっと下。


地面の奥から上がってきている。


薫は石床へ片膝をついた。


手のひらを触れる。


冷たい。


目を閉じる。


周囲の音を意識から切り離し、魔力だけを追う。


流れがある。


地下から。


確実に。


「姉さん」


「何かあった?」


「下だ」


千鶴が床を見る。


「下?」


「魔力は、この祠から出てるんじゃない」


薫が立ち上がる。


「祠の地下から来てる」


「地下があるの?」


「たぶん」


二人は床を調べ始めた。


石板は一枚一枚が大きく、隙間もほとんどない。


階段らしきものは見当たらない。


だが石台の前まで来た時だった。


薫が足を止める。


「これ」


埃の下に何かがある。


袖で表面を拭う。


細い溝。


そこからさらに埃を払う。


千鶴も手伝った。


少しずつ。


床へ刻まれた巨大な紋様が姿を現していく。


円。


その中心に、大きな星。


そして星を挟むように刻まれた二つの印。


太陽と月


「……これ」


千鶴の表情から笑みが消えた。


薫も黙って紋様を見る。


見覚えがある。


まったく同じではない。


だが。


この世界へ来た直後。


星墜ちの森で見つけた古い石柱。


あそこに刻まれていたものと、よく似ている。


太陽と月を重ねた星。


星冠院が使っていた紋章にも似ていた。


けれど星冠院のものとは違う。


もっと古くもっと単純、そして歪みがない。


「森で見たのと似てるね」


千鶴が呟く。


「うん」


「星冠院の印にも」


「でも、同じじゃない」


薫は紋様を指でなぞる。


「こっちの方が、元の形に見える」


「元?」


「星冠院が、この印を真似したのかもしれない」


あの時。


星墜ちの森でも同じことを考えた。


二人がこの世界へ来るより遥か昔から。


この紋章は存在していた。


千鶴が耳飾りへ触れる。


「また反応するかな」


「待って」


「触るだけだよ」


「姉さんがそう言うと嫌な予感しかしない」


「大丈夫!」


「だから、その言葉が――」


千鶴が紋様へ手を伸ばした。


指先が、太陽の部分へ触れる。


何も起きない。


「ほら」


「……本当に何も起きなかったね」


「ちょっと残念そうじゃない?」


「安心してる」


千鶴が頬を膨らませる。


その時だった。


薫の月の耳飾りが淡く光った。


「え?」


千鶴が振り返る。


続いて千鶴の太陽の耳飾りも黄金色の光を宿した。


二つの光が床へ落ちる。


太陽。


月。


それぞれの紋様へ光が吸い込まれた。


ゴゴゴゴゴ……。


低い音。


祠全体が僅かに震える。


「薫!」


「下がって!」


二人が石台から距離を取る。


ノクスが千鶴の肩へしがみついた。


「キュルッ!」


床へ刻まれた線が次々と光っていく。


太陽。


月。


星。


すべてが一つの紋様として繋がった瞬間。


石台が動いた。


ゆっくりと横へ。


「うそ……」


千鶴が目を見開く。


石と石が擦れ合う重い音。


その下から黒い穴が現れる。


地下へ続く石段だった。


冷たい空気が吹き上がってくる。


それと同時に。


濃密な魔力が祠の中へ流れ込んだ。


「……ここだ」


薫が呟く。


間違いない。


周辺へ漏れ出していた魔力。


その大部分がこの地下から来ている。


千鶴が階段を覗き込む。


暗くどこまで続いているのか分からない。


「どうする?」


珍しく、千鶴の方から尋ねた。


薫は答えず、地下へ意識を向けた。


未知の場所。


依頼範囲を越えている可能性が高い。


ここで戻り地下区画の存在をギルドへ報告する。


それも正しい判断だ。


だが魔獣異常の原因が地下にある可能性は高い。


そして何よりこの扉を開いたのは

自分たちの耳飾りだった。


他の冒険者が来ても

同じように開けられる保証はない。


「少しだけ確認しよう」


薫が言った。


「危険があると思ったら、すぐ戻る」


千鶴が頷く。


「了解」


「戦うことが目的じゃないからね」


「分かってる」


「奥まで行くことも」


「分かってるって!」


「念のため」


千鶴は大剣を抜いた。


「じゃあ行こう」


薫も長剣を抜く。


三人は地下へ続く階段を下り始めた。



階段は思った以上に深かった。


地上からの光は、数十段も下りる頃には完全に届かなくなっている。


薫は指先へ僅かに魔力を集めた。


青白い光。


攻撃へ使うほどではない。


足元を照らすだけの小さな明かり。


「便利だね」


千鶴が言う。


「姉さんも火を出せるでしょ」


「燃えたら嫌じゃん」


「そこはちゃんと考えるんだ」


「どういう意味?」


石壁が左右へ続いている。


地上の祠とは違い地下には明らかな

人工物の痕跡が残っていた。


壁へ刻まれた文字。


規則正しく並ぶ模様。


所々に残された石像。


「字、読める?」


千鶴が壁を見上げる。


「無理」


「私も」


「姉さんはアルカの文字もまだほとんど読めないでしょ」


「今それ関係ある?」


「ないね」


文字の形は、アルカで使われているものとはまるで違う。


曲線が多く

星や円を組み合わせたような文字。


薫は以前星墜ちの森で見つけた石柱にも

似た文字が刻まれていたことを思い出した。


「同じ時代のものかもしれない」


「森の石柱と?」


「たぶん」


千鶴が壁へ顔を近づける。


「何て書いてあるんだろ」


「読めたら苦労しないよ」


「こういうのって、耳飾りで読めたりしない?」


「話し言葉みたいにはいかないみたいだね」


二人の耳飾りは

この世界の人々が話す言葉を理解させてくれるが

文字までは読めない。


その仕組みも理由も

まだ二人には分かっていなかった。


さらに進むと

やがて壁に刻まれている模様が変わり始めた。


千鶴が足を止める。


「薫」


「見えてる」


壁画。


長い年月で色はほとんど失われている。


だが彫り込まれた形だけは残っていた。


中央に一つの星。


その左右へ。


太陽。


月。


二つの光。


さらに周囲には。


複数の人影。


獣。


翼を持つ者。


角のある者。


様々な姿が刻まれている。


「何だろ」


千鶴が壁画を見つめる。


「神様?」


「分からない」


薫は中央の星を見る。


なぜか胸の奥がざわついた。


知らない。


こんな壁画を見た記憶はない。


それなのに懐かしい。


その感覚が

何よりも気持ち悪かった。


「薫?」


「……大丈夫」


「その言葉、信用できないよ」


千鶴がすぐに返す。


薫は姉を見る。


「仕返し?」


「お互い様」


ほんの少しだけ笑う。


それだけで、胸のざわつきが和らいだ。


「進もう」


「うん」


階段が終わる。


その先には

長い石造りの通路が続いていた。


空気が変わった。


先ほどまで感じていた魔力とは違う。


濃い。


そして。


重い。


ノクスが千鶴の肩で低く唸る。


「グルルル……」


「ノクス」


千鶴が小さく呼ぶ。


黒龍は前だけを見ている。


通路の奥の暗闇。


何も見えない。


薫が青白い光を少し強くした。


床が照らされる。


その瞬間。


薫は足を止めた。


「待って」


千鶴も止まる。


床に傷がある。


大きい。


剣や槍ではない。


爪。


石床を深く抉った痕が

何本も残されている。


しかも古いものだけではない。


比較的新しい傷が混じっていた。


「何かいるね」


千鶴の声から軽さが消えた。


薫が頷く。


「たぶん」


二人は武器を構える。


一歩。


また一歩。


慎重に進む通路の先に

広い空間が見え始めた。


巨大な地下室。


天井は高くいくつもの石柱が並んでいる。


そしてその最奥。


巨大な石の扉。


表面には

太陽と月を重ねた紋章が刻まれていた。


千鶴の耳飾りが僅かに熱を持つ。


「薫」


「うん」


あの向こう。


何かがある。


二人がそう確信した。


その時だった。


暗闇の中で。


二つの光が灯った。


青白い瞳。


低い唸り声が地下室へ響く。


「グルルルルル……」


千鶴が大剣を構える。


薫も長剣と短剣を抜いた。


石柱の影からゆっくりと

巨大な四足の獣が姿を現す。


岩のような灰白色の外皮。


太い四肢。


狼とも獅子ともつかない頭部。


背中には。


黒い結晶のような突起が並んでいた。


ノクスが千鶴の肩で身を縮める。


「キュル……!」


巨獣は二人を見た。


そしてその背後にある石扉を守るように

ゆっくりと身体を低くした。


薫の瞳が細くなる。


「……守ってる?」


次の瞬間。


地下室を震わせる咆哮が響いた。

モンスター図鑑 No.005

岩甲蜥蜴ロック・リザード

危険度:位階Ⅰ(通常級)


【生息地】

岩場・丘陵地帯・乾燥地帯


【特徴】

全身を岩のように硬い鱗で覆う大型の蜥蜴型魔獣。

高い防御力を誇り、頑丈な身体を活かした突進を得意とする。

通常は温厚で縄張りからほとんど動かないが、魔力環境の変化によって興奮状態になると、本来の生息域を離れて行動することがある。


【主な能力】

・岩甲

 岩のような硬い鱗で刃を弾く。

・突進

 全身を使った高速の体当たりを繰り出す。

・高耐久

 並の斬撃では致命傷を与えにくい。


【弱点】

・顎下や腹部など鱗の薄い部位

・方向転換が遅い

・重量を活かした打撃攻撃


【討伐推奨ランク】

ストーン級以上(複数人推奨)


【主な素材】

・岩甲鱗

 防具の素材として人気が高い。

・岩蜥蜴の爪

 加工することで短剣や槍の穂先に利用される。

・岩核石(稀)

 体内で長い年月をかけて形成される魔力結晶。

 防具や魔道具の素材として高値で取引される。


【バルドの一言】

「岩甲蜥蜴を相手に刃を立てようとする奴は三流だ。

転ばせるか、弱点を狙うか、叩き潰せ。

力任せと考えなしは違うからな。」

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