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双星のレガリア  作者: ボンヌ
第1章

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第18話 異質な剣

いつも読んでいただきありがとうございます!


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


これからも楽しんでいただけるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。



黄金色の火の粉が、千鶴の指先から零れた。


一つ。


二つ。


小さな光が、大剣の柄を伝っていく。


やがて、刃の根元に小さな炎が灯った。


それを見た薫が僅かに眉を寄せる。


「姉さん」


「分かってる」


千鶴は大剣を構えたまま答えた。


「少しだけ」


「……ならいいけど」


短いやり取り。


だが、周囲にいた冒険者たちはその意味を知らない。


一人の剣士が千鶴の大剣を見て目を細めた。


「火……?」


刀身に沿うように小さな炎が走っている。


魔法。


そう思った。


だが、違和感があった。


詠唱がない。杖もない。


そして何より…


千鶴は魔法を放とうとしていない。


大剣を握っているだけ。


「来るぞ!」


怒号が飛ぶ。


黒角の上位個体が地面を蹴った。


同時に周囲の牙狼たちも動き出す。


正面から黒角。


左右から群れ。


千鶴が息を吐いた。


「薫」


返事はない。


必要なかった。


薫が先に動く。


右側の群れの中へ飛び込んだ。


「なっ――!」


冒険者の一人が声を上げる。


薫の長剣が走った。


一体目の牙を受け流す。


短剣で二体目の前脚を払う。


三体目が跳ぶ。


薫は地面へ左手を向けた。


冷気が走る。


白い霜が、一瞬で地面を覆った。


飛びかかろうとしていた牙狼の後脚が滑る。


体勢が崩れた。


それだけ。


薫は魔法そのもので攻撃しない。


滑った牙狼の懐へ踏み込み。


長剣を振る。


一閃。


その横から二体。


薫が短剣を構えた。


だが斬らない。


黒い靄が、足元から僅かに広がった。


「なんだ……?」


見ていた冒険者が目を凝らす。


牙狼たちの足が止まった。


ほんの一瞬。


視界を遮るほどではない。


辺りを闇で覆ったわけでもない。


ただ、薫の輪郭が僅かにぼやけた。


牙狼が薫を見失う。


その一瞬で十分だった。


薫が一歩踏み込む。


長剣。


短剣。


二つの刃が別々の軌道を描く。


二体が同時に崩れ落ちた。


「……魔法?」


ミナは無意識に首を振った。


自分が知っている使い方ではない。


魔法使いなら


敵を凍らせる。


氷塊を飛ばす。


闇で視界を奪う。


そうやって魔法そのもので敵を倒そうとする。


薫は違う。


滑らせる。


迷わせる。


一瞬だけ。


そして剣でとどめをさす。


「魔法を……」


ミナの声が震えた。


「剣のために使ってる……?」


その時、轟音が響いた。


黒角が千鶴へ迫る。


二度目の突進。


千鶴は大剣を構えた。


今度は受けない。


地面を蹴る。


自分から黒角へ向かった。


「また正面から!?」


冒険者が叫ぶ。


黒角が頭を下げる。


巨大な角。


対する千鶴は大剣を右へ引いた。


刀身を覆っていた炎が強くなる。


赤ではない。


橙でもない。


黄金。


陽光をそのまま炎へ変えたような色。


「……なんだ、あの火」


誰かが呟いた。


千鶴が踏み込む。


黒角が迫る。


あと一歩。


その瞬間、千鶴は身体を横へ滑らせた。


巨大な角が、髪を掠める。


そして。


「はぁっ!」


大剣を振り抜く。


黄金の炎を纏った刃が。


黒角の側面を斬り裂いた。


爆発はしない。


炎も飛ばない。


ただ、刃が通った場所だけを

黄金の炎が駆け抜けた。


黒角が絶叫する。


傷口から炎が噴き上がる。


だがそれも一瞬。


炎はすぐに消えた。


黒角の巨体がよろめく。


「浅い……!」


千鶴が舌打ちする。


まだ倒れない。


振り返った黒角が前脚を振り上げた。


千鶴へ叩きつける。


「姉さん」


薫の声。


同時に。


千鶴の足元を冷気が走った。


氷。


薄い氷の膜が地面を伸びる。


千鶴は迷わず、その上へ足を乗せた。


「よっ!」


氷の膜が伸びて


千鶴の身体を一気に横へ流す。


黒角の前脚が空を切った。


轟音。


地面が砕ける。


その横。


氷の上を滑った千鶴が、黒角の死角へ回り込んでいた。


「なるほど!」


「今気づいたの?」


「いいじゃん!」


「合わせて」


「うん!」


千鶴が大剣を引く。


薫が走る。


黒角の正面へ。


長剣で牽制。


黒角が薫へ頭を向ける。


角が薙ぎ払われる。


薫は身体を沈めた。


頭上を角が通過する。


そのまま黒角の懐へ。


短剣を前脚へ突き立てる。


だが浅い。


分厚い毛皮と筋肉に阻まれる。


黒角が吠えた。


薫を踏み潰そうと前脚が持ち上がる。


その瞬間。


地面から氷が伸び黒角の後脚を捕まえた。


完全には凍らず一瞬だけ足裏と地面を繋ぐ。


黒角の動きが止まった。


一秒にも満たない僅かな一瞬。


千鶴には十分だった。


「いくよ!」


大剣が黄金に染まる。


先ほどより強く眩しく。


「なんだ……?」


離れた場所にいた魔法使いが、杖を下ろした。


目が離せない。


炎魔法なら知っている。


火球。


炎槍。


爆炎。


自分だって使える。


だが、目の前の事象に説明がつかない。


魔法が剣に従っている。


「千鶴!」


ロイが叫ぶ。


千鶴が踏み込む。


大剣を振り上げる。


黒角が氷を砕いた。


自由になった巨体が、千鶴へ向く。


遅い。


「はぁぁぁぁっ!」


黄金の軌跡が。


戦場を走った。


斬撃。


刃が黒角の胸元へ食い込む。


その瞬間。


黄金の炎が傷口へ流れ込んだ。


黒角の身体が大きく仰け反り咆哮。


巨体が暴れる。


千鶴は大剣を抜きすぐに離れる。


黒角がよろめきそして崩れた。


地面が揺れる。


黒角の巨体が動かなくなった。


「……倒した」


ロイが呟く。


周囲の冒険者たちも動きを止めていた。


上位個体。


あれだけ自分たちの陣形を乱していた魔獣を二人で。


ほとんど傷らしい傷も負わずに。


「やった!」


千鶴が大剣を持ち上げる。


「薫!」


「まだ」


「え?」


薫は群れを見ていた。


黒角が倒れた。


その時、牙狼たちの動きが変わった。


足が止まり互いを見る。


低い唸り声。


それまで統率されていた群れが明らかに乱れている。


薫が目を細めた。


「今だ」


その言葉を聞いたのは。


千鶴だけではなかった。


「今だぁぁぁ!」


冒険者の一人が叫んだ。


剣を掲げる。


「上位個体は落ちた! 押し返せ!」


空気が変わった。


「おおおおおっ!」


前衛が動く。


盾を構えた冒険者たちが、一斉に押し返す。


その後ろで魔法使いたちが杖を掲げ詠唱を始める。


火球。


風刃。


土槍。


魔法が群れへ降り注ぐ。


統率を失った牙狼たちが散る。


「ロイ!」


ミナが叫ぶ。


「ああ!」


今度は二人も動いた。


ロイが槍を構え、前へ出る。


ミナが杖を向ける。


風が走った。


牙狼の身体が僅かに浮く。


「もらった!」


ロイの槍が突き出される。


一体。


倒す。


「次!」


「右です!」


ロイが走りミナが続く。


戦場全体が押し返し始めた。


千鶴はその光景を見る。


「……すごい」


「何が?」


薫が聞く。


「みんな」


千鶴が笑った。


「さっきまで押されてたのに」


「群れの動きが崩れたからね」


「じゃあ」


千鶴が大剣を構える。


刀身には、まだ僅かに黄金の炎が残っている。


「私たちも!」


走り出す。


「姉さん!」


薫も追う。


「使いすぎないでよ!」


「分かってる!」


「絶対分かってない!」


「大丈夫だって!」


二人が。


再び群れへ飛び込む。



戦況が決するまでそれほど時間はかからなかった。


統率を失った牙狼は、もはや最初の脅威ではなかった。


逃げる個体。


それを追う冒険者。


負傷者を運ぶ者。


周囲を警戒する者。


少しずつ戦場から剣戟が消えていく。


そして


最後の一体が森の奥へ逃げ込んだ時、誰かが叫んだ。


「追うな!」


冒険者たちが足を止める。


荒い呼吸。


血の臭い。


砕けた荷車。


傷ついた街道。


誰もがしばらく動かなかった。


「……終わった?」


千鶴が周囲を見る。


薫が双剣についた血を払う。


「たぶん」


「よかったぁ……」


千鶴が大きく息を吐いた。


大剣から黄金の炎が消える。


その時、周囲が静かなことに気づいた。


「……あれ?」


千鶴が顔を上げる。


周囲の冒険者たちがこちらを見ていた。


「……?」


千鶴が首を傾げる。


自分の服を見る。


血。


泥。


特に変なところはない。


「薫」


小声で呼ぶ。


「なに」


「なんか見られてる」


「うん」


「私、何か変?」


薫は答えなかった。


嫌な予感がしていた。


仮登録試験の時もそうだった。


姉は自分たちが周囲からどう見えるのか

という感覚が時々致命的に抜けているのだ。


「……帰ろうか」


薫が言った。


「え? でもロイとミナが」


「呼んでくる」


「う、うん」


薫が歩き出そうとしたその時


「待て」


二人が振り返る。


先ほど千鶴へ「下がれ」と叫んだ冒険者だった。


剣を肩へ担いでいる。


鎧は傷だらけ


胸元には鉄で作られた札。


アイアン級。


男は千鶴と薫を交互に見て

二人の胸元へ視線を落とした。


石札。


間違いない。


何度見ても石だ。


「……お前ら」


千鶴が瞬きをする。


「はい?」


男が眉間を押さえた。


何かを考えるように。


一度、深く息を吐く。


そして。


どうしても納得できないという顔で。


二人を見た。


「本当に……」


周囲が静まる。


ロイとミナも。


少し離れた場所からこちらを見ている。


男が二人の石札を指差した。


「ストーン級なのか?」


千鶴と薫が自分の石札を見る。


一瞬だけ黙る。


千鶴は何を聞かれているのか

分からないような顔で答えた。


「はい」


男は天を仰いだ。


「……嘘だろ」


その日。


街道で戦った冒険者たちの間に一つの噂が生まれた。


大剣を振るう少女と、二本の剣を操る少年。

互いに言葉を交わすことすらなく

まるで一つの生き物のように戦う

双子のストーン級の冒険者。


そして、その噂は

彼らが街へ戻るよりも早く

冒険者たちの口から少しずつ。

広がり始めていた。

モンスター図鑑 No.004

黒角牙狼ブラックホーン・ファングウルフ

危険度:位階Ⅱ(脅威級)


【生息地】

森林・草原・街道周辺


【特徴】

牙狼ファングウルフの群れを率いる極めて希少な上位個体。

通常個体を一回り以上上回る巨体と、額から伸びる一本の黒い角が特徴。

群れは黒角牙狼の指揮によって統率され、獲物を包囲・分断しながら確実に追い詰める。

単体でも高い戦闘能力を誇るが、群れを率いた際の脅威は通常個体とは比較にならない。 017 第17話 双星の実力.docx


【能力】

・《黒角突撃》

全身の筋力を活かした高速突進。

荷馬車すら粉砕するほどの破壊力を持ち、正面から受け止めるのは極めて危険。

・《群狼統率》

遠吠えや威嚇によって群れへ的確な指示を送り、一斉攻撃や包囲戦を行う。

統率役が健在な限り、群れの連携はほとんど崩れない。

・《鋼体》

分厚い筋肉と強靭な骨格を持ち、高い耐久力を誇る。

致命傷を受けても即座には倒れず、最後まで戦い続ける執念を持つ。 017 第17話 双星の実力.docx


【弱点】

巨体ゆえに細かな方向転換は苦手。

前脚へ大きな損傷を受けると機動力が著しく低下し、連携能力も乱れやすい。


【討伐のコツ】

正面から力比べをするのではなく、機動力を活かして側面や後方から攻めること。

単独で相手をせず、群れを分断したうえで前脚や側面を狙うのが望ましい。


【主な素材】

・黒角牙狼の魔石

・黒角牙狼の黒角

・黒角牙狼の牙

・黒角牙狼の毛皮

・黒角牙狼の鋭爪


【バルドの一言】

「群れの狼が急に統率の取れた動きを始めたら、近くに黒角がいる。見つけた時には、もう狩られる側になってると思え。」

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