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双星のレガリア  作者: ボンヌ
第1章

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第17話 実力

いつも読んでいただきありがとうございます!


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


これからも楽しんでいただけるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。



千鶴が、先に群れへ飛び込んだ。


大剣を振りかぶる。


真正面から迫っていた魔獣が牙を剥き、地面を蹴った。


千鶴は止まらない。


踏み込みと同時に、大剣を横薙ぎに振り抜く。


重い刃が魔獣の胴を捉えた。


鈍い音。


魔獣の身体が横へ弾き飛ばされ、その後ろから迫っていた二体を巻き込んで地面を転がる。


だが。


千鶴はもう、その三体を見ていなかった。


次。


左から一体。


低い姿勢で迫る魔獣へ、大剣を振り下ろす。


魔獣が横へ跳んだ。


その先に。


薫がいた。


長剣が走る。


一閃。


着地するより早く、魔獣の首から血が噴き出した。


薫は倒れる身体を避けるように半歩ずれる。


その背後へ、別の魔獣が飛び込んでくる。


振り返らない。


短剣だけを後ろへ向けた。


魔獣の牙と刃が触れる。


ほんの僅か。


それだけで、突進の軌道がずれた。


薫の横を魔獣が通り抜ける。


その先では。


千鶴が大剣を振り上げていた。


「ふっ!」


振り下ろす。


轟音。


地面が砕けた。


魔獣の身体が地面へ叩きつけられる。


千鶴は大剣を引き抜き、そのまま次へ向かう。


薫も反対方向へ走った。


会話はない。


合図もない。


互いを見ることすらない。


それなのに。


一度として、二人の動きは重ならなかった。


千鶴が薙ぎ払えば、その一撃から逃れた魔獣を薫が斬る。


薫が受け流せば、その先には千鶴がいる。


千鶴が前へ出れば、薫が空いた死角を埋める。


薫が踏み込めば、千鶴は迷うことなく別の敵へ向かう。


まるで。


最初から戦場のすべてを二人で分けているかのように。


「……なんだよ、あれ」


ロイは槍を握ったまま、動けなかった。


助けに入るつもりだった。


二人だけを行かせるつもりなんてなかった。


なのに。


入れない。


どこへ入ればいいのか、分からない。


千鶴と薫の間には隙間がない。


いや。


違う。


隙間はある。


だが、その隙間さえ二人の戦いの一部になっている。


「ロイ……」


隣でミナが呟く。


「私たち……邪魔になる」


ロイは答えなかった。


否定できなかった。


前方では、さらに三体の魔獣が千鶴へ殺到していた。


正面。


左右。


三方向。


「千鶴!」


ロイが思わず叫ぶ。


千鶴は笑った。


「大丈夫!」


右から飛びかかってきた魔獣へ大剣を合わせる。


斬らない。


刀身の腹で受ける。


衝撃。


千鶴の身体が僅かに沈んだ。


そのまま大剣を振り抜いた。


魔獣が弾き飛ばされる。


正面から二体目。


千鶴は一歩踏み込む。


大剣では間に合わない。


だから。


蹴った。


「はっ!」


魔獣の顎を、千鶴の踵が跳ね上げる。


頭部が大きく仰け反った。


そこへ大剣を振り下ろす。


だが。


左。


三体目が迫っている。


千鶴は見ていなかった。


それでも。


避けなかった。


甲高い金属音。


薫の長剣が、魔獣の牙を受け流していた。


千鶴のすぐ隣。


いつの間に来たのか。


薫は魔獣の勢いを横へ流しながら、その懐へ潜り込む。


短剣が閃く。


一度。


二度。


魔獣の前脚が崩れる。


薫は倒れ込む魔獣の身体を踏み台にして跳んだ。


空中で身体を捻る。


長剣が首筋を斬り裂いた。


着地。


同時に。


薫はもう次の敵へ向かっていた。


「……嘘だろ」


ロイの声が漏れる。


強い。


それはもう分かっていた。


仮登録試験。


水路鼠女王。


あの時から、この二人がおかしいことくらい知っている。


だが。


今見ているものは、あの時とは違った。


あの時は強敵だった。


だから二人が本気になるのも分かる。


今は違う。


目の前にいる魔獣たちは、アイアン級の冒険者なら一対一で十分に戦える。


それなのに。


千鶴と薫が相手をすると。


戦いにすら見えない。


「……慣れてる」


ミナが呟いた。


「え?」


「二人とも……こういう戦いに、慣れすぎてる」


ロイがミナを見る。


ミナの顔から血の気が引いていた。


「強いとかじゃないです」


杖を握る手に、力が入る。


「次に何が起こるのか、最初から知ってるみたい……」


ロイは再び二人を見る。


その言葉の意味が。


少しだけ分かった。


千鶴が大剣を振るう。


薫が双剣を操る。


派手な技ではない。


魔法も使っていない。


それでも。


一切の迷いがない。


敵が飛びかかってから考えているのではない。


敵が動く前から。


もう次の動作へ入っている。


どれだけ戦えば。


あんな動きができる。


「おい!」


離れた場所から声が飛んだ。


戦っていた冒険者の一人だった。


「そこの二人!」


千鶴が一瞬だけ振り返る。


「はい!」


「下がれ! そこはもう前線だ!」


「え?」


「後ろは俺たちが――」


冒険者の言葉が止まった。


千鶴の背後。


一体の魔獣が飛びかかっていた。


「後ろ――!」


言い終える前に。


千鶴が身体を沈めた。


頭上を魔獣が通過する。


その腹部へ。


大剣の柄を叩き込む。


魔獣が空中で姿勢を崩した。


そこへ薫が走り込む。


短剣を一閃。


着地した魔獣が、そのまま崩れ落ちた。


「……え?」


冒険者が固まる。


千鶴は何事もなかったように顔を戻した。


「すみません!」


「……は?」


「下がりたいんですけど!」


千鶴が大剣を構え直す。


「ちょっと無理そうです!」


その直後。


新たな魔獣が襲いかかる。


千鶴は再び前へ出た。


冒険者は言葉を失った。


胸元。


そこには。


石で作られた小さな札。


ストーン級。


「……新人?」


呟く。


ありえない。


その時。


「おい! ぼさっとするな!」


仲間の声で冒険者が我に返る。


「前を見ろ!」


「あ、ああ!」


剣を構え直す。


だが。


意識の片隅から、あの二人が消えなかった。



千鶴が大剣を振る。


一体。


薫の長剣が走る。


二体。


千鶴が踏み込み。


三体目を吹き飛ばす。


その陰から四体目。


薫が滑り込む。


短剣で前脚を裂く。


体勢が崩れたところへ長剣。


一閃。


倒れる。


「薫!」


千鶴が初めて大きな声を上げた。


薫が視線だけを向ける。


千鶴が大剣を振り抜いた。


一体の魔獣が宙を舞う。


薫へ向かって。


「姉さん……」


呆れたような声。


薫は一歩だけ横へ動く。


落ちてきた魔獣へ長剣を突き立てた。


そのまま地面へ叩き落とす。


「投げないでよ」


「ごめん!」


「絶対わざとでしょ」


「倒しやすかったでしょ?」


「まあね」


薫が短剣についた血を払う。


千鶴が笑った。


ほんの一瞬。


まるで。


昔から何度も繰り返してきたやり取りのように。


だが。


次の瞬間には。


二人の表情から笑みが消えた。


前方。


群れが動いた。


今までとは違う。


ばらばらに襲いかかっていた魔獣たちが、一斉に同じ方向へ身体を向ける。


「……薫」


「うん」


二人が足を止めた。


地面が震える。


ドン。


ドン。


重い足音。


冒険者たちの声が飛び交う。


「来るぞ!」


「前衛、構えろ!」


「魔法使いは詠唱準備!」


空気が変わった。


千鶴が目を細める。


群れの奥。


ひときわ大きな影が動いた。


その身体は、周囲の魔獣より一回り以上大きい。


分厚い前脚。


傷だらけの身体。


そして。


額から伸びる、一本の黒い角。


「上位個体だ!」


誰かが叫んだ。


「前衛は絶対に正面から受けるな!」


黒角の魔獣が頭を低くする。


地面を前脚で掻く。


次の瞬間。


突進した。


「散れぇ!」


冒険者たちが左右へ飛ぶ。


黒角が通過する。


その巨体が荷車へ激突した。


轟音。


木製の荷車が粉々に砕け散った。


「……すごい」


千鶴が呟いた。


薫が姉を見る。


嫌な予感がした。


「姉さん」


「なに?」


「楽しそうにしないで」


「してないよ?」


「してる」


「してないって!」


その会話を聞いたロイの顔が引きつる。


「お前ら……」


黒角が身体を反転させる。


その視線が。


千鶴を捉えた。


「……あ」


千鶴が呟く。


地面を蹴る音。


黒角が再び突進した。


「千鶴!」


ロイが叫ぶ。


逃げろ。


そう続けるつもりだった。


だが。


千鶴は逃げなかった。


大剣を両手で握る。


腰を落とす。


正面。


黒角の巨体が迫る。


「おい!」


先ほどの冒険者が叫ぶ。


「馬鹿! 受けるな!」


千鶴は動かない。


十メートル。


五メートル。


三メートル。


黒角が頭を下げる。


巨大な角が千鶴へ迫った。


その瞬間。


千鶴が半歩だけ踏み込んだ。


大剣を振る。


真正面。


刃と黒角が激突した。


轟音。


衝撃が街道を走った。


砂埃が舞い上がる。


「千鶴!」


ミナが悲鳴を上げる。


ロイが槍を握り締めた。


だが。


砂埃の中。


一つの影が。


動かなかった。


「……え?」


黒角の突進が。


止まっている。


千鶴の大剣。


その刃が、黒角を受け止めていた。


靴底が地面を削っている。


それでも。


下がったのは。


僅か一歩。


「う……っ」


千鶴の腕へ力が入る。


黒角がさらに押し込む。


地面が軋む。


千鶴の口元が。


僅かに上がった。


「重い……!」


嬉しそうだった。


「でも――」


千鶴が大剣を押し返す。


「これくらいなら!」


一歩。


前へ。


黒角の巨体が揺れた。


冒険者たちが息を呑む。


「嘘だろ……」


「押し返してる……?」


千鶴が叫ぶ。


「薫!」


その時には。


もう。


薫はいなかった。


黒角の側面。


巨体の死角へ入り込んでいる。


長剣を逆手に持つ。


狙うのは。


前脚。


斬る。


一閃。


黒角の身体が傾いた。


千鶴は大剣を引く。


薫が離れる。


次の瞬間。


千鶴が踏み込んだ。


「はぁぁっ!」


大剣が。


黒角の胴へ叩き込まれた。


巨体が浮く。


ほんの僅か。


だが。


確かに。


あれほど巨大な魔獣の四肢が。


地面から離れた。


そのまま横へ吹き飛ぶ。


轟音。


黒角が街道を転がった。


静寂。


一瞬だけ。


戦場から音が消えたように感じた。


千鶴は大剣を肩へ担ぐ。


「ふぅ……」


薫が隣へ戻ってくる。


「力任せ」


「ちゃんと薫が崩すの待ったよ?」


「そういう問題じゃないよ」


「倒せたからいいじゃん」


「まだだよ」


「え?」


薫が黒角を見る。


倒れていた巨体が動いた。


ゆっくりと。


立ち上がる。


「……頑丈だね」


千鶴が目を丸くする。


黒角が低く唸った。


額の角には、大剣を受け止めた傷。


前脚から血が流れている。


それでも。


まだ戦意は失っていない。


周囲の魔獣たちも。


再び集まり始める。


薫が双剣を構えた。


「数も減ってない」


千鶴も大剣を下ろす。


「じゃあ、もう少し頑張ろうか」


「うん」


二人が並ぶ。


その姿を。


周囲の冒険者たちは見ていた。


ストーン級。


つい先日、冒険者になったばかりの新人。


そう聞いていた。


なのに。


アイアン級の自分たちが必死に食い止めていた群れの中で。


二人だけが。


まるで別の戦場にいる。


「……何者なんだ」


誰かが呟いた。


答える者はいなかった。


ただ。


その場にいた誰もが。


同じ二人を見ていた。


大剣を構える少女。


双剣を携える少年。


そして。


再び迫り始めた魔獣の群れ。


千鶴が息を吐く。


薫が静かに目を細める。


ここまでは。


剣だけで戦った。


だが。


敵の数は、まだ多い。


千鶴が大剣の柄を握り直した。


その手の奥で。


ほんの一瞬。


小さな火の粉が弾けた。


黄金色の。


小さな火の粉が。

モンスター図鑑 No.003

牙狼ファングウルフ

危険度:位階Ⅰ(獣害級)


【生息地】

森林・草原・丘陵地帯・街道周辺


【特徴】

鋭い牙と高い知能を持つ狼型の魔獣。

通常は五~十頭ほどの群れで行動し、獲物を包囲して仕留める習性を持つ。

単体ではそれほど脅威ではないが、群れとなった際の連携能力は極めて高い。

街道を利用する旅人や商隊を襲うことが多く、新人冒険者が命を落とす原因としても知られている。


【能力】

・《群牙連携》

仲間と連携して獲物を包囲し、死角から襲いかかる。

一体だけを見て戦うと、背後や側面から奇襲を受けやすい。

・《疾風跳躍》

優れた脚力を活かし、一瞬で間合いを詰める高速跳躍。

岩場や倒木を利用した立体的な攻撃も得意とする。

・《遠吠え》

遠吠えによって周囲の群れを呼び寄せる。

長期戦になるほど数的不利に陥る危険がある。


【弱点】

統率役となる個体を失うと連携が乱れやすい。

また、狭い場所では機動力を十分に活かせない。


【討伐のコツ】

群れに囲まれないよう陣形を維持することが重要。

遠吠えを許さず、統率役を優先して討伐すると被害を抑えられる。


【主な素材】

・牙狼の魔石

・牙狼の牙

・牙狼の毛皮

・牙狼の鋭爪


【バルドの一言】

「狼を一匹見つけたら安心するな。

お前を囲んでる残りの連中は、もう牙を研いで待ってる。」

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