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双星のレガリア  作者: ボンヌ
第1章

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第12話 初めての依頼

いつも読んでいただきありがとうございます!


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


これからも楽しんでいただけるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。

ギルドへ足を踏み入れると、朝の活気が一気に押し寄せてきた。


朝。


柔らかな陽射しが、宿の小さな部屋へ差し込んでいた。


「キュル!」


何かが頬をぺちぺちと叩く。


「ん……」


千鶴は布団へ顔を埋めたまま、小さく唸った。


「あと五分……」


「キュル!」


もう一度。


今度は少し強めだった。


「んぅ……」


ゆっくり目を開ける。


目の前には、黒い小さな顔。


ノクスが前足を伸ばし、真剣な表情で千鶴を見つめていた。


「おはよう、ノクス」


千鶴が頭を撫でると、ノクスは嬉しそうに目を細める。


「キュル」


窓際では、薫が荷物をまとめていた。


「今日は返事だけして寝なかったね」


「昨日?」


「森でも同じこと言ってた」


「覚えてない」


「便利な言葉だね」


薫の言葉に、千鶴は苦笑する。


「今日は初仕事だもん」


「寝坊なんかしないよ」


そう言って勢いよく起き上がる。


その反動でノクスが肩から滑り落ちそうになり、慌てて抱き留めた。


「わっ、ごめん!」


「キュル!」


ノクスは遊んでもらえたと思ったのか、尻尾をぱたぱたと振る。


薫は小さく笑った。


「元気そうで何より」



一階の食堂へ降りると、焼きたてのパンの香りが部屋いっぱいに広がっていた。


昨日と同じ宿。


昨日と同じ食堂。


それなのに、今日は少しだけ違って見える。


昨日は泊まる場所を探すだけで精一杯だった。


今日は、この街で生活する一日が始まろうとしている。


「おはよう。」


宿の女将が二人へ笑顔を向けた。


「昨日は遅かったね。」


「おはようございます」


千鶴が頭を下げる。


「冒険者になれたのかい?」


「はい!」


嬉しそうに答える。


「正式登録できました!」


女将は目を細めた。


「そうかい。」


「おめでとう。」


「ありがとうございます!」


ノクスが千鶴の肩から小さく鳴く。


「キュル」


女将は優しく笑った。


「この子もすっかり懐いたねぇ。」


「はい。」


千鶴がノクスを抱き上げる。


「すごくいい子なんです。」


ノクスは胸を張るように小さく鳴いた。


「キュル!」


「ふふっ。」


女将が笑う。


「賢そうな子だ。」


「昨日も全然騒がなかったよ。」


薫は頷いた。


「助かりました。」


女将はパンとスープを二人の前へ並べる。


「しっかり食べて行きな。」


「空腹じゃ良い判断はできないからね。」


薫と千鶴は顔を見合わせる。


「いただきます。」


朝食は素朴だった。


焼きたてのパン。


野菜の入った温かなスープ。


少し硬めの燻製肉。


豪華ではない。


それでも、温かい食事は身体へじんわりと染み渡った。


「美味しい……」


千鶴が自然と笑顔になる。


ノクスも小さく切り分けてもらった肉を夢中で頬張っていた。


「キュル、キュル!」


「そんなに慌てなくても誰も取らないよ。」


千鶴が笑う。


薫も穏やかな表情でその様子を見ていた。


食事を終えると、女将が二人を見送る。


「無理だけはするんじゃないよ。」


「はい!」


「行ってきます。」


宿を出ると、朝の空気が心地よかった。


石畳には朝日が差し込み、露店の主人たちが開店の準備を始めている。


焼き菓子の甘い香り。


果物を並べる商人。


鍛冶屋から響く金槌の音。


昨日は気付かなかった街の表情が、次々と目へ飛び込んでくる。


「昨日は全然見る余裕なかったね。」


千鶴が辺りを見回す。


「うん。」


薫も街並みを眺めながら歩く。


道幅。


建物の配置。


人の流れ。


何かあった時、すぐ動けるよう自然と頭へ入れていた。


その横で。


ノクスは千鶴の肩から身を乗り出し、露店を興味津々で眺めていた。


「キュル?」


パン屋の前を通る。


焼きたての香りに鼻をひくひくと動かした。


「また食べたいの?」


「キュル……」


しょんぼりと耳を下げる。


その姿に千鶴は思わず笑った。


「食いしん坊だね。」


その時だった。


近くを歩いていた小さな女の子が足を止めた。


「あれ……?」


女の子は千鶴の肩を指差す。


「お母さん。」


「あの子、何?」


母親も足を止めた。


ノクスを見る。


「……何だろう。」


「魔獣なのかな。」


近くを歩いていた冒険者も視線を向ける。


「見たことないな。」


「幼獣か?」


「いや……少なくとも俺は知らん。」


通りすがる人々が、不思議そうにノクスを見つめる。


誰も名前を知らない。


誰も正体を知らない。


ノクスは集まる視線に気付くと、小さく身体を震わせた。


「キュッ……」


慌てて千鶴の首の後ろへ隠れる。


白金色の髪の隙間から、紫色の瞳だけがそっと覗いた。


「大丈夫。」


千鶴は優しく頭を撫でる。


「怖くないよ。」


ノクスは恐る恐る周囲を見回す。


それでも肩から下りようとはしなかった。


薫はそんな様子を見て、小さく笑う。


「まだ人には慣れてないみたいだね。」


「少しずつでいいよ。」


千鶴も微笑む。


ノクスは安心したように小さく鳴いた。


「キュル。」


やがて二人の前に、大きな木造の建物が見えてくる。


冒険者ギルド。


朝から多くの冒険者たちが出入りしている。


千鶴は建物を見上げ、小さく息を吸った。


「よし。」


「今日は初めての依頼だ。」


薫も静かに頷く。


「行こう。」


二人は顔を見合わせ、小さく笑う。


そしてノクスを肩へ乗せたまま、冒険者ギルドの扉を押し開けた。


ギルドへ足を踏み入れると、朝の活気が一気に押し寄せてきた。


昨日とはまるで違う。


依頼へ向かう冒険者。


受付で報告をする者。


地図を広げて仲間と相談する者。


酒場ではなく、仕事場。


そんな空気が建物全体を包んでいた。


「昨日より人が多いね」


千鶴が辺りを見回す。


「朝だからかな」


薫も周囲を見渡した。


多くの冒険者が朝のうちに依頼を受け、夕方までに戻ってくる。


昨日は試験しか見えていなかったが、今日はようやくギルド本来の姿を見ることができた。


「おはようございます!」


受付嬢が二人へ気付き、笑顔で声を掛ける。


「おはようございます」


薫が軽く頭を下げた。


「今日は依頼を受けに来ました」


「でしたら、まずは依頼掲示板をご覧ください」


受付嬢が壁の奥を指差す。


大きな掲示板には、数え切れないほどの依頼書が並んでいた。


千鶴は思わず目を丸くする。


「こんなにあるの!?」


薫も一枚ずつ目を通していく。


『薬草採取』


『荷物運搬』


『井戸清掃』


『配達依頼』


『畑の害獣駆除』


『家畜捜索』


どれも街の暮らしを支える依頼ばかりだった。


さらに奥へ目を向ける。


『位階Ⅱ魔獣討伐』


『街道護衛』


『迷宮調査』


依頼書の色も少し違う。


受注条件には、


『アイアンランク以上』


『シルバーランク以上』


と書かれていた。


「あっ!」


千鶴が討伐依頼を指差す。


「あれ!」


薫は苦笑する。


「まだ受けられないよ」


「分かってるけど、気になるじゃん」


「姉さんらしいね」


その時だった。


「新人ほど討伐依頼に目が行く」


聞き覚えのある低い声がした。


振り返ると、腕を組んだバルトが立っていた。


「おはようございます!」


千鶴が頭を下げる。


「おう」


バルトは短く頷いた。


「昨日はよく眠れたか」


「はい!」


「ぐっすりでした!」


「それなら結構だ」


バルトは掲示板へ視線を向ける。


「依頼は見たか」


「はい」


薫が答える。


「思っていたより種類が多くて驚きました」


「冒険者の仕事は魔獣討伐だけじゃない」


バルトは薬草採取の依頼書を指差した。


「採取。」


次に荷物運搬。


「運搬。」


配達依頼。


「配達。」


「どれも地味だ。

だが、街には必要な仕事だ」


千鶴も真剣な表情で聞いている。


「依頼主は、お前たちを信用して仕事を任せる、期限を守る、依頼内容を守る

報告を怠らないそう、やって積み重ねた信用が冒険者の評価になる」


薫は静かに頷いた。


「昨日、お前たちは強かった」


バルトは二人を見る。


「だが、それは昨日の話だ。

今日からは、一人の冒険者として実績を積み重ねろ」


その言葉は重かった。


強さだけでは、一人前にはなれない。


「ありがとうございます」


薫が頭を下げる。


その時、背後から元気な声が響いた。


「おっ!」


ロイだった。


隣にはミナもいる。


「もう依頼受けるのか!」


「おはようございます」


ミナが小さく頭を下げる。


「昨日はありがとうございました」


「こちらこそ」


千鶴も笑顔になる。


ロイは掲示板を見る。


「俺たちは荷物運搬だ」


「まずは地道に稼がないとな」


「お互い頑張ろう!」


千鶴も笑顔で拳を握った。


「うん!」


短い会話を交わし、ロイとミナは受付へ向かっていく。


薫は掲示板へ向き直った。


「姉さん」


「薬草採取でいい?」


千鶴は討伐依頼をもう一度だけ見つめる。


少しだけ名残惜しそうに笑った。


「うん」


「まずは一歩ずつだね」


受付へ向かう。


「この依頼をお願いします」


受付嬢は依頼書を受け取り、確認する。


「薬草採取ですね」


「場所は街の東にある《ルーベ草原》です」


「こちらが地図になります」


小さな地図と採取袋が渡される。


「薬草は似た植物も多いので、分からないものは無理に採らず持ち帰ってください」


「こちらで確認いたします」


「分かりました」


薫が頷く。


受付嬢は最後に微笑んだ。


「それでは、初依頼ですね」


「お気を付けて行ってらっしゃいませ」


薫と千鶴は顔を見合わせる。


ノクスも肩の上で元気よく鳴いた。


二人は小さく笑い合い、新しい一歩を踏み出した。

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