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双星のレガリア  作者: ボンヌ
第1章

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第9話 試験終了

いつも読んでいただきありがとうございます!


「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります!


これからも楽しんでいただけるよう頑張りますので、よろしくお願いいたします。


「……お前たち、何者だ」


バルトの問いに、千鶴と薫は同時に顔を上げた。


だが、その問いに答えを求めることはなかった。


今、聞くことではない。


バルトはゆっくりと息を吐き、視線を女王個体へ移した。


巨体は完全に動きを止めている。


全身を覆っていた水膜は消え失せ、砕けた地面を伝いながら水路へと流れていく。


辺りを包んでいた緊張も、少しずつほどけ始めていた。


バルトは腰から短剣を抜き、女王個体へ歩み寄る。


薫と千鶴は何も言わず、その場を譲った。


しゃがみ込み、首元へ視線を落とす。


深く刻まれた斬撃。


続いて砕けた前脚。


最後に頭部へ叩き込まれた渾身の一撃。


どれも急所を正確に捉えていた。


借り物の武器でここまでやるか。


バルトは小さく息を吐く。


短剣を胸元へ差し込み、慎重に魔石を取り出した。


現れたのは、大人の拳を二つ並べたほどもある青い魔石。


内部で水が揺らめくように、淡い光を放っている。


「……女王個体で間違いない。」


静かな声が響く。


ロイとミナはようやく張り詰めていた肩の力を抜いた。


「討伐を確認した。」


バルトは魔石を革袋へしまい、四人を見渡す。


「試験はここで終了だ。」


その言葉に、誰もすぐには返事をしなかった。


女王個体という想定外の脅威。


命懸けの戦い。


ようやく終わったという実感が、少し遅れて押し寄せてくる。


「これ以上の調査はギルドの仕事になる。」


ロイは槍を地面へ突き立て、小さく俯いた。


「……俺たち、何もできなかったな。」


悔しさを押し殺した声だった。


隣でミナも杖を抱き締める。


「援護するつもりだったのに……逆に足を引っ張ってしまいました。」


二人の言葉を聞き、バルトは静かに首を振る。


「そう思う気持ちは忘れるな。」


低く落ち着いた声だった。


「お前たちは生き残った。」


ロイが顔を上げる。


「未知の魔獣を前にしても、撤退の判断に従った。無謀に飛び出さなかった。それも冒険者として必要な資質だ。」


一拍置き、バルトは続ける。


「実力不足はいずれ鍛えればいい。だが、自分の力量を見誤る者は、長く生きられん。」


ロイはゆっくりと拳を握る。


その言葉は、悔しいほど胸に刺さった。


「……はい。」


短い返事だった。


だが、その瞳には先ほどまでとは違う光が宿っていた。


バルトは小さく頷く。


「帰るぞ。ギルドへ緊急報告する。」


五人は女王個体へ背を向け、来た道を歩き始めた。


先頭を歩くのはバルト。


その後ろにロイとミナ。


最後尾を、薫と千鶴が並んで歩く。


しばらくの間、誰も口を開かなかった。


水路を流れる水音だけが、静かに耳へ届く。


やがてロイが歩調を少し緩めた。


振り返り、薫へ視線を向ける。


「……一つ、聞いてもいいか。」


薫は小さく頷いた。


「戦ってる時…なんで声も、目配せも、一度もなかったんだ?」


薫は少しだけ考え、隣を歩く千鶴を見る。


千鶴も不思議そうに薫を見返した。


二人は同時に首を傾げる。


「必要だった?」


その一言に、ロイは言葉を失った。


千鶴も首を傾げたまま、小さく笑う。


「薫がどこにいるか分かるし。」


「姉さんが次に何をするかも分かるから。」


あまりにも当たり前のように言う二人を見て、ロイは苦笑するしかなかった。


「……やっぱり、普通じゃないな。」


その呟きに、薫と千鶴は顔を見合わせる。


「そうかな。昔からこんな感じだよね?」


「うん。」


二人は何事もないように頷き合う。


その姿を見ていたバルトは、前を向いたまま小さく目を細めた。


やはり、あの二人はどこか違う。


だが――今は、それでいい。


その疑問は、ギルドへ戻ってから確かめればいいことだ。


やがて、水路を抜けた先に街の城壁が見えてきた。


夕日に照らされた門をくぐると、人々の賑わいが耳に戻ってくる。


冒険者ギルドの扉が視界に入った。


バルトは迷うことなく扉を押し開ける。


勢いよく開いた扉に、受付に立っていた女性が顔を上げた。


「お帰りなさ――」


言葉が止まる。


泥と血に汚れた五人。


歪んだ大剣。


傷だらけの装備。


そして、バルトの手に握られた巨大な青い魔石。


受付嬢の表情から笑みが消えた。


「……バルトさん?」


バルトは魔石を受付へ静かに置く。


「ギルド長を呼んでくれ。」


「緊急報告だ。」


その一言で、ギルドの空気が一変した。

モンスター図鑑 No.002

水路鼠女王アクア・ラット・クイーン

危険度:位階Ⅲ(災害級)


【生息地】

大規模な河川・地下水路・貯水施設


【特徴】

水路鼠アクア・ラットの群れを統率する極めて希少な女王個体。

体長は三メートルを超え、全身を覆う高密度の水膜は通常個体とは比較にならない防御力を誇る。

女王個体が出現すると周囲の群れは急速に拡大し、河川や水路、灌漑施設へ壊滅的な被害をもたらすことから、発見時には緊急討伐依頼が発令される。


【能力】

・《水鎧》

高密度の水膜を全身に纏い、物理攻撃を大幅に軽減する。並の武器では有効打を与えることは難しい。

・《激流弾》

大量の水を圧縮し、砲弾のように放つ中級水属性魔法。直撃すれば岩すら砕く威力を持つ。

・《群統率》

周囲の水路鼠へ命令を送り、統率の取れた集団戦を行わせる。女王が生存している限り、群れの士気は著しく向上する。


【弱点】

大量の水を消費して水膜を維持しているため、水源から引き離されると防御力・機動力ともに低下する。


【討伐のコツ】

最優先は群れを分断し、女王個体を孤立させること。

水膜を破壊できる高火力の攻撃、または一点突破が可能な実力者による短期決戦が望ましい。


【主な素材】

・水路鼠女王の魔石

・水路鼠女王の皮

・水路鼠女王の牙

・水路鼠女王の魔核


【バルドの一言】

「位階Ⅲは新人が相手をする魔獣じゃねぇ。……生きて帰れただけでも奇跡だ。」

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