188話目
「おい、カエデ!」
「シーッ! アオイさん、声が大きいです。みんな起きちゃいますよ」
「あ・・・。おほんっ、すまない」
「いえ」
幸い、誰も起きてきませんでした。目は覚めたかもしれませんが、おそらくそのまま再び寝たのでしょう。
「それで、どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、お前は旅で一体何をしてきたんだ?」
「何をって、リナさんから報告受けませんでしたか?」
「ああ、受けた。だが、その中にこの現象に繋がるようなモノは無かったと思うが」
「この現象って何ですか?」
「ああ、これを見てくれ」
アオイさんが紙を渡してくれました。何気に、紙に触るのも久しぶりですね。今の世の中だと紙は貴重品だろうし、使い道もメモくらいしかないでしょうし。けれど、アオイさんから渡された紙には、きちんと印刷が施されていました。そこには、2本の線が上下に引かれていますね。その横に説明なのか、ローマ字の羅列がありますね。
「・・・それで、この線って何ですか? 私、英語は読めませんよ」
「そうなのか? だったら、口で説明しよう。下の青い線は、以前のカエデのナノマシンの性能を示したものだ。そして、上の赤い線は今日・・・今となったら昨日か? にカエデから貰った唾液に含まれていたナノマシンの性能だ。似たようなラインを示しているのは、どちらもカエデのナノマシンだから。だが、ほとんど重ならないくらいに上振れているのはカエデのナノマシンの性能が大幅に上がっている事を示している。ちなみに、私のはこれだ」
そう言ってアオイさんはもう一枚の紙を私に渡してくれました。受け取ったその紙には、先ほどと同様に2本の線が引かれていますが、ところどころ赤い線が少し上に飛び出ているだけで、それほど変わりませんね。
「これって、どのくらいすごい事なんですか?」
「そうだな・・・。昨日飼っていたペットの犬が、今日の朝に2本足で立って日本語でおはようって挨拶するくらいだな」
「それって、ものすごく変わってるって事じゃないですか!」
突然変異どころじゃないですね。ダーウィンの進化論でしたっけ? 環境に合わせて生物が進化するって。そんなの目じゃないくらいに変化してるじゃないですか。
「そうだ、だから異常なんだよ。本当に、旅では何もなかったのか?」
「何もないってことは無いですけど、主だったところではマミコさんやエリを救った事と、熊を倒した事くらいですね」
「なるほど。リナからは2人の事は聞いたが、熊の事は聞いてないぞ」
「と言っても、熊のヴァリアントと戦ったってだけですよ。別に苦戦も何もしてないので、リナさんも報告するまでもないと思ったんじゃないですか? 帰りはヴァリアントと結構戦いましたし」
「ふむ・・・。リナからは本州に入ってからヴァリアント多数と戦ったとだけ聞いたな。これは、もう一度詳しく聞く必要があるな。よし、明日リナとアヤヒが起きたらもう一度話を聞こう。すまないが、そういう事で明日の朝に話を聞かせてくれ」
「いいですよ」
私が了承すると、アオイさんは再び部屋を出ていきました。小声で話していたけど、話し声で誰かを起こすことは無かったようでよかったですね。




