149話目
「お母さん・・・」
私は夢を見ていると自覚できた。私の視界には、幼い私が廊下で母親を探しているのが映っている。
「お母さん、どこ・・・?」
この日は確か、母親が家を出て行った日だ。この時の私は、母親が出かけただけだと思っていて、夜になっても帰ってこない母親を探していたんだった。
「もう、あいつは戻らない。だから、静かにしてろ」
父親は、私の気持なんかちっとも考えずに、酒瓶からコップに酒を入れながらそう言った。私の事が好きじゃないはずの父親が、なぜ私を育てる事になったのか。今なら私を金づるにするつもりだったと分かるけれど、その時は母親が居なくなったことで頭がいっぱいだった。
「―――――カエデちゃん? 大丈夫?」
「あ・・・ユカリさん」
私は目を覚ました。そういえば、睡眠の必要が無い私が、どうして夢を見てたのでしょう?
「すまない。まさか、睡眠を促すこの弾が、カエデに有効に働くとは思わなかった」
そう言ってハルカさんは一発の銃弾を見せてくれる。それは恐らく、ユカリさんが作り出した種の一つだと思う。そして、どうしてこうなったのかも思い出した。
「いえ、私が試していいですよって言ったんですから」
そう。私は何を思ったのか、銃弾を回避する練習をしたいとハルカさんにお願いしたのだ。最初は何の効果も無い、ただの種を撃ちだしていたのだけれど、硬い私の体には効果は無かった。それじゃあ、何か効くものはあるのだろうかと、いくつかの弾を追加で撃ち込んでもらっていたのだ。
それらの特殊な弾ですら、私には効かなかったから、ただ眠らせるだけの弾なんて、それこそ睡眠が不必要な私には全く効果が無いと思って油断していた。
「痛かったのか? 泣いている様に見えたが」
「いえ、泣いてなんていません」
私はむきになって言い返す。この年になって、母親が居なくなったと泣くのは恥ずかしく感じる。それに今は母親が私を捨てたことも知っている。だから、育ててくれた恩があるから恨みはしないけど、今となったら母親に甘えたいだとか、褒められたいという気持ちも無い。それだけ、父親と2人の生活―――いや、実質一人での生活は不自由で、食事も満足に取れないものだった。
それに、あれから10年も経っている現状では、どこにいるのかも、生きているのかもわからないのだ。父親に関しては、もし生きているなら一発は殴りたいと思っているくらいだ。
「そ、そうか。それじゃあ、訓練はここまでにするか?」
「もう少しお願いしてもいいですか? ちょっと気分を発散させたいので」
「分かった。それじゃあ、続けようか」
私は再びハルカさんを相手に、訓練を続けるのでした。




