146話目
それからしばらくは私の修行の日々が続きました。といっても、優先なのはアオイさんとミカコさんで作り上げているマシンの方で、その間に私が特訓しているだけなんですけどね。
「今日はここまでにしておこう」
「はい、ありがとうございました」
特訓を終え、ハルカさんは汗をタオルで拭いている。
「・・・それにしても、カエデは疲れないのか? 全く変化が無いように見えるのだが」
「疲れませんね。汗もでませんし」
「なんかずるいな。やはり、オリジナルは私達とは違うんだろうか?」
「たぶん、違いはあると思いますよ。私達は逆にハルカさん達みたいに完全な人間の姿にはなれませんし」
私達はアオイさんを除き、どこかしらに人間とは違う部分がある。ユカリさんは肌が緑色だし、アヤヒさんは顔が赤い。私は見た目は人間と同じだけど、肌を触ると岩の様に固い。ミカコさんも体中にうろこがある。アオイさんは小さくなっただけで、見た目も肌の感触も普通の人間だから、子供だと言われても誰も違和感を抱かないと思う。
「その代わり、私達みたいに力を解放できるんだろう? 今の特訓にしても、カエデは全くダメージを受けていない」
「それはハルカさんも一緒じゃないですか。私がどれだけ本気で攻撃しても、全部躱したりトンファーで受けたりして当たりません」
「それは経験の差だ。カエデも慣れてくれば相手の動きを読んだり、フェイントを混ぜて敵の行動を誘導したりできるようになる」
私とハルカさんは、組手をしたり、私がハルカさんの動きを真似たりしている。時々、リナさんを混ぜて実戦形式での動きを教えて貰ったり、私の悪いところを教えて貰ったりしている。
「・・・そういえば、私はマリアさんがナノマシンを取り込んだ後の姿を見たことが無いんですけど、どんな感じなんですか?」
「マリア様は目が常に爬虫類の様に瞳孔が縦に細くなっているわ。あと、体温が変温になってるわね。だから見た目は眼を隠せば普通の人と変わらないと思うわ」
「そうなんですね。ちなみに変身後はどうなんでしょう?」
「私も変身後は見たことが無いわね。私が使徒化するときも、普通に血を少し貰っただけだし」
つまり、どんな力を持っているのかまだ分からないってことですね。分かるのは、爬虫類系の力を持っているって事だけかな。
「今更ですけど、どうしてマリアさんは世界征服しようとしてるんですか?」
「本当に今更ね。マリア様が予知能力を持ってることは知ってるでしょ?」
「いえ、知りません」
「嘘っ、あれだけテレビや新聞とかで報道されてたのに!」
「私の家は貧乏で、テレビも新聞もありませんでしたので」
「あ・・・そうなんだ。それじゃ、仕方ない、かな? まあいいわ、教えてあげる。マリア様は未来を見通す力を持っていたの。そして、教団を立ち上げてそこの巫女として君臨していたわ」
「予知能力って、100%未来が当たるんですか?」
「そうね・・・知らなければ100%当たると言われているわ。逆に、未来を変えることが出来るからこそ価値があるのよ。変えられない未来は、知ったところで意味が無いでしょう?」
「それはそうですけど、どうやって未来を変えるんですか?」
「そうねぇ・・・例えば、今日、この後私が落とし穴に落ちるって予言をされたとするじゃない? もし、100%当たるのなら私が何をしようと落とし穴に落ちるけど、それが道路のマンホールに落ちるとかなら、家から出なければ防げるわ」
「そんな簡単に未来を変えられるんですか?」
「まあ、例としてはそんな感じだけど、強制力はある程度あるわよ。例えば、私が家から出ないつもりでも、何かしら家から出そうとする強制力が。それこそ、地震が起こるとか家が火事になるとかね」
「そうなんですか、それじゃあ簡単に変えられるというわけじゃないんですね」
「そうよ。けれど、マシな未来に変えられるわ。どうせ落ちるなら、あらかじめクッションを用意しとくとかね」
「なるほど」
「ただ、ナノマシンを取り込んだ影響なのか、今はその力を失っているわ。でも、必要な未来はすでに知っているんだと思うわよ」
「実際にこんな世界になっていますから、力が本物だと分かります」
もし、私が本来のナノマシンを摂取することがマリアさんにとって都合が悪かったのだとしたら、私が飲むのを邪魔したことは分かります。けど、それならもっとやりようがあったと思うですが、例えば私を研究所へ行かせないとか。実際にどの程度強制力があるのか分からないので何とも言えませんが、私がこうして生き残っているのも何か意味があるのかもしれません。




