105話目
「先に私が行くぞ」
アオイさんは着地と同時にワニへ向かって走り出しました。両手にはハサミとカッターが握られています。そのハサミを逆手に持ち換え、尻尾を振りぬいて後ろ向きになったワニの後ろ足に突き立てます。けれど、金属同士がぶつかるような硬質な音とともに、火花が散るだけで突き刺さりません。
「ちっ、硬すぎるな。私の力じゃ無理やり貫く事も無理そうだ。うろこの隙間かうろこの無い場所を狙うしかないか」
アオイさんはワニからの反撃を避けるためか、一度距離を取っています。
「それじゃあ、私の力でも無理そうよね。私が注意を引くから、その間に弱点を探して!」
「リナさん、危険です! 囮役なら私の方が!」
「カエデは攻撃の要でしょ! きっとあなたの馬鹿力ならダメージを与えられるかもしれないし。・・・デカブツ、こっちよ!」
リナさんは、擬態を使ったり切ったりと存在をアピールしはじめました。服はそのままなのに、そこから出ている肌が点滅するかのように見えるのがワニの興味を引いたようで、ワニは狙い通りにリナさんの方へ向かいます。
「アオイさん、どこか鱗の無い場所はありそうですか?」
「いや、無いな。腹の部分すら鱗に覆われている。鱗の無い場所は目だけだが、打撃では致命傷にならないだろう」
「そんな・・・」
こうして見ている間にも、リナさんが危なかった瞬間が何度もありました。前足に潰されそうになったり、尻尾に当たりそうになったり。
「あっ!!」
ワニが口を開けながら突進してきます。その大きな口が、リナさんを飲み込み、服の切れ端が、ワニの鋭い歯にひっかかっています。
「リナさん!!」
「大丈夫よ! ちょっと服をひっかけられたけど」
どうやら食べられたのは服だけで、全裸になったリナさんは無事なようです。擬態を使っているのか、私には今は見えませんが、声で無事なのはわかりました。擬態を使っているのなら逃げられるかもしれませんが、もしかしたら匂いでバレるかもしれません。なので、倒すために動きます。
「アオイさん、見ましたか? ワニの口の中には鱗がありませんでしたよ」
「それはそうだろうが、食われた時点で死ぬぞ」
「きっと私なら平気です」
「根拠が無いだろう! ワニの噛む力は、カエデが思っている以上に強力だ。それがあの大きさで、さらにナノマシンの力が加われば、絶対にカエデは耐えられない」
「アオイさん。私達って、ランクで言えば4になるんですよね?」
「ん? ああ、直接ナノマシンを摂取した我々がランク2や3ということは無いだろう」
「だったら、私にだって何かできることがあるはずですよね?」
「それは・・・確かに、そうかもしれんな」
実際、私は怒った時に異常な力を発揮しています。それを、今は自分の意志で起こせばいいだけのはずです。
「私のナノマシン、すべての力を右腕に・・・」
私は意識して右腕にエネルギーが集まるようイメージします。右腕だけにナノマシンが集まってきているのか、大きく、硬くなっていきます。
「リナさん! ワニにもう一度口を開けさせてください!」
「ええっ! それって私が食べられる時じゃないの!」
「いえ、すぐに私が飛び込みます!」
「それって大丈夫なの?! けど、私じゃどうすることも出来ないし、任せるわ! デカブツ! ほらっ、私を食べて見せなさいよ!」
リナさんは逃げ回るのをやめ、手を広げてワニの正面へと立ちました。ワニは、それを好機とみたのか、大きな口を広げて突進してきました。私は、リナさんの前へと飛び出し、代わりにワニの口へと飛び込みます。




