104話目
大阪へと向かう道中、私達は琵琶湖のほとりで休憩することにしました。相変わらず、リナさんの体力が持たなかったので。
琵琶湖を初めて見ましたが、静まり返った湖面が不気味なほど青く広がっているのをみると、何とも言えない寂しさを感じました。
「おや? あそこのガードレールに大きな爪痕が見えるな」
「アオイさん、相変わらずすごい視力ですね・・・。私には傷があるのかなってくらいしか分かりませんよ」
「いや、カエデもおかしいって。私にはまだ何も見えないんだけど」
「とりあえず、もっと近くまで行きましょうか」
私達はアオイさんが見つけた爪痕を見る。最近つけられたばかりなのか、ガードレールの傷付近は錆びていなかった。
「動物の付けた傷ではないな。この辺に使徒の治める街も無いだろうし、誰がつけた傷だ?」
「だとしたら、『変異体』じゃないかな?」
「変異体? その単語は初耳だぞ」
「えっ、知ってるのかと思ってた。だって、シズカお姉さまが倒したのがその変異体だし」
「ああ、動物がナノマシンに適応したのを変異体と呼んでいるのか。それなら、私達も何度か見たことがある」
「たまに居るんだよね。ただ、変異体になるのは基本的に犬だけみたいなんだけど」
「まあ、アヤヒ君のコンセプトが肉食動物のDNAだからな。だから、犬が一番適応しやすいのだろう。日本には大型の爬虫類は居ないからな」
「でも、犬にしては爪痕が大きくありませんか?」
「ふむ。確かにな。ではやはり、人間の仕業ということか?」
「ちょっと待って。なんか湖面が波立ってきてる!」
リナさんがそう叫ぶと同時に、湖面が爆発したかのように水柱が立ちました。
その中から現れた巨大な影が、砂浜へと乗り上げます。それは、かつてワニだった面影を辛うじて残す、全長10メートルを超える「変異体」でした。
ナノマシンによる変化なのか、全身が硬質化した鱗で覆われ、背中には剣のように鋭い金属質が見えます。前足には大きな爪が生えているので、ガードレールに爪痕を残したのもこのワニかもしれません。
「……ワニ!? なんで琵琶湖にそんなのがいるんですか?」
「おそらく誰かが飼っていたペットが逃げ出して、どこかでナノマシンを持った人間を食ったのだろう」
「ちょっ、恐ろしいこと言わないでよ! というか、あの大きさだと私達だってまるのみにされるわよ!」
「アオイさん、どうしますか? 逃げます?」
「いや、どうやら私達を完全にエサとみなして逃がす気は無さそうだ。それに、私とカエデは逃げきれるだろうが、恐らくリナは追いつかれる」
「私だって擬態を使えば大丈夫よ!」
「服を脱いでいる暇はなさそうですけど、!!」
大きなワニの尻尾が、私達を薙ぎ払うように振りぬかれました。私とアオイさんはジャンプして躱しましたが、私達よりも身体能力の低いリナさんはぎりぎりでの回避となっています。どうやら、倒す事にした方がよさそうですね。




