第十四話 教会
「今日から君達には依頼っていうのをやってもらうよ!」
部屋に戻ってきたトラジは元気よく言う。
「依頼って確か…冒険者に解決してもらいたい問題をギルドを通してやってもらう奴…でしたよね…?」
自信なさげににエレナが言うと、嬉しそうに「正解!」と答える。
「依頼には色々あって、「このモンスターを倒して欲しい!」とか「この素材が欲しい!」とか…とにかく色んなものがあるんだ。魅力としては基本的にただギルドに素材を売るよりも稼ぎが多いし…依頼者自身から追加のお礼をもらえる事もあるんだ。しかも銀級以降に昇級するにはこの依頼の達成数が大事になる…だから君達には早めに慣れてもらおうと思ってね。」
「具体的に何件達成すれば昇級出来るんですか?」
「銀級なら20件だったかな、多いように感じるかもしれないけど簡単な依頼も多いしそこまで時間はかからないと思う。」
「なるほど…注意点とかはありますか?」
「ふーむ…例えば高額過ぎる報酬の依頼とかは気を付けた方がいいね。大体の相場は簡単なもので400ルリズ以下、ちょっと大変になると800前後、難しい物は…まあ考えなくてもいいかな…そういうのはそもそも銀級や金級にならないと受けられないことが多いからね。」
「じゃあ…依頼の種類ってどんなのがあるんですか…?」
「銅級で受けられるものっていうと…多分簡単なのは「これをどこに運んでくれ!」とか「この作業を手伝ってくれ!」とかかな…?おつかいみたいなものが多いと思う。ちょっと大変なのだと「第何迷宮の◯◯の素材が欲しい!」とか「魔法でこれをやって欲しい!」みたいな感じかな。ちょっと実力が必要になってくるね。」
「へぇ…冒険者って言っても魔物を倒すだけじゃないんですね。」
「確かにそうだね、まあこのセントルーアとかインペーナはこういうスタイルだよ。簡単な依頼とかはただ単に人手が欲しい時、自分じゃ上手く集められないからギルドに依頼したっていうものも多いんじゃないかな?」
「なるほど…そういうこともあるんだ…」
「まあここからはギルドに行って実際に依頼を見て吟味していこう。ただその前に…ステータスどうなったか見てもいい?」
カードに魔力を通して数値をみる。想像よりも上がっていたステータスに驚きつつ、カードを渡す。エレナも同じように渡して2人で準備を始めた。
「…本当に凄いな…とんでもない成長速度…」
準備を進める2人に聞こえないように小声で呟く。
タイシのステータスは[素早さG.76,体力G.82,力E.204,防御G.52,魔力E.205]になっていた。
エレナは[素早さF.105,体力E.243,力F.100,防御E.218,魔力A.712]という数値だ。
どちらのステータスも凄い…タイシはステータスの解放から数日でこのステータス(普通なら数週間はかかる)になっているし、エレナは少し前から冒険者をやっているようだが…魔法をよく使うのだろう、他のステータスこそ普通だが魔力だけ異様に成長している。
「トラジさん?準備終わりましたけど…どうかしたんですか?」
「…2人とも成長が凄い早いと思ってね、君達の才能は類を見ない程素晴らしいよ。」
そう言ってギルドカードを2人に返して出発する。
もし2人がこのまま成長していくなら…もし願いが叶うのなら…
スカイと僕で全力の手合わせをしてみたかったな…
「タイシ…この依頼どうかな…?」
ギルドの中、掲示板のような場所に貼ってある紙をエレナは指差す。
「引っ越しの手伝いで300ルリズ…?」
日本円の感覚なら7500円ってところだろうか。書いてある内容的に…数時間で終わりそうだ。
「おお!エレナ、タイシ、結構当たりの依頼だよ。簡単だし報酬も悪くない。それに作業日も今日だからパパッと終わらせられるよ。あともう一つぐらい何か良さそうなのを選ぼうか。」
依頼書をボードから取りつつ言う彼の近くで別の依頼を読む。
「じゃあ…これはどうです?」
レストランからの依頼でオークを倒して肉を持ってきて欲しいというものだ。報酬は1000ルリズとかなり高い。(日本円なら25000円…かな?)
その依頼を見たトラジも頷く。
「ふむふむ…オークはそこそこ強いけど…ライズ達とも戦える君らなら倒せるだろうね。内容からして肉は多めに取ってこなきゃだね。でも、渡した魔法の袋なら入るだろうしこれも受けようか。じゃあノアのところに持って行って受けてこようか。」
「タイシ…?どうしたの?」
紙を取って受付に歩いて行こうとした途中で僕はある依頼に目が留まる。とある鍛冶屋からの依頼で内容はエルティナ鉱石の回収と書いてある。報酬は800ルリズだが…
「気になるの…?」
「うん、なんだか目が惹かれて…」
「気になるなら受けてみれば?迷宮に隠れてる鉱石を取るっていうのも経験になるし、それにエルティナ鉱石は色々使えて便利だから自分用にたくさん取ってくるのもアリだよ。」
とりあえずこれも受けてみる事にした。
「さてと…とりあえず引っ越しの依頼主のところに行こう。結構近いみたいだね。」
僕の持つ依頼書に書いてある地図を見てトラジが歩き始める。道はまだよく分かっていないが…ギルドのすぐ近くのようだ。少し歩くと目的地が見えてきた。
教会…だろうか?かなり塗装が剥げていたり、ツタが生えていたりとボロくて人がいるのかも少し不安になる。
「すみません、依頼を受けてきた…冒険者のタイシです!」
とりあえず扉を叩き挨拶をする。
少しすると神父さんが出て来た。身なりも普通だ。
「おお!お待ちしておりました。どうぞ中へ入ってください。」
教会に入ると予想よりも綺麗な事に驚いた。外観のように中は荒れているのかと思っていたらしっかりと整えられており、古さは感じるがそれが良い雰囲気を生み出している。
「こちらへどうぞ。依頼の説明などもあるので。」
聖堂から客間へ行くと、見知らぬ冒険者が部屋にいた。
「そちらの方はもう一人依頼を受けてくださったエルト様です。」
金属製の軽量鎧を身に着けた彼は金髪で緑の瞳の優男といった印象だ。
「エルトです。本日はよろしくお願いします。」
丁寧な挨拶をした彼は手を差し出し握手を求める。僕、エレナの順番で挨拶を済ませ、トラジも手を握る。
「僕はトラジ…もしかして何処かで会ったことあるかい?」
互いを見つめながら、トラジは聞く。
トラジの手に変な力が加わり…強張っている?
「…気のせいでは?私がこの街で冒険者を始めたのも最近です。」
そう、とだけ言ってトラジは手を放す。…一瞬だったし強張って見えたのは気のせいかもしれない。
僕らが並んでソファーに座り、向かいに神父が座る。
「皆様、本日は依頼をお受けいただきありがとうございます。仕事の内容はまず、この旧教会から使える物を新しい教会に運搬していただくこと。もう使えない物の分別と処分をやっていただきます。」
「順番とかはあるの?」
「順番は特にありません。自由にやっていただいて結構ですが…並行して作業をするため二人ずつに分かれてください。運搬作業は力か魔力に自信がある方が望ましいですね。」
ふむ…僕は力に自信がないし魔力だなんてもってのほかだ。ゴミの分別のほうがいいだろう。
「じゃあ…私は運搬をやります…」
「僕も運搬かな、力なら自信あるし。」
エレナとトラジは運搬をするようだ。
「では私は分別と処分だな。」
「僕もそれでお願いします!」
エルトさんと僕で分別などをやることになった。
「最後はこの部屋ですね。」
神父、僕、エルトさんでいくつか部屋を綺麗にし、次に入った部屋は書斎の様な場所だった。
「基本的にここにある本は古いため買い直しております。全部処分しましょう。…しかし気になるものはもらってしまっても構いません。」
…本当にもらってしまってもいいのだろうか。そう思いつつ仕事をする。
「『魔族は敵』…『カブトムシ図鑑』…『歴代魔王の悪事』…『癖になるタルトの作り方』…『カブトムシの餌』…『聖なる道への一歩半』…『キラービートル亜種はカブトムシなのか』…『魔物と魔族の特異点』…」
途中まではなんとなく読み上げていたが…あまり興味を惹かれる物も無く、黙々と作業をしているといつの間にか終わりが近づいていた。
「この本で最後か…」
手に取った本をゴミに分別しようとした時、ふと手を止め表紙を見る。
歴史書…だろうか?もしかしたら読んだらここがどんな世界なのか分かるかもしれない。
「神父さん、この本をもらっても?」
「ええ、どうぞ。新しい物はもう買っていますから。」
「ありがとうございます!」
僕は本を片手に溜まったほこりなどの片づけをし始めた。
「運搬作業はもうしばらくかかるようです。このまま客間でお待ちください。」
神父さんはお茶を二人分机に置いて部屋を出ていく。
「案外早く終わったな。タイシ。」
「まあエルトさんが休憩なしでずっと作業してましたからね。」
「ふっ、まあ俺は一週間寝なくても余裕で動けるからな。2時間ぐらいどうってことねえ。」
作業中、話していたおかげでエルトさんとだいぶ打ち解けることもできた。…口調の変わり方が凄まじいが…
もらった本をぱらぱらとめくって軽く目を通す。
「それ、もらった本か?懐かしいな…学校で教材だったよ、その本。今までの歴史が書いてあるんだが…魔法歴1000年の辺り見てみろよ。」
この世界では『西暦』に当たる言葉が『魔法歴』らしい。1000年のページを開く。
「魔法歴1000年、人々はステータスを手に入れた。人の魂を器に見立てて成長させる魔法具の発明により、人は魔物を狩り、魔族の力に対抗できるようになった…え?つまりステータスって1000年ぐらい前に出来たんですか!?」
「俺も最初は驚いたよ。今が魔法歴2022年だからな。案外発展って遅いもんだと思ったよ。」
…?少し違和感を覚えた。元の世界と年数が微妙にずれている…
ページをめくり魔法歴の始まりを探す。
「初めて人による魔法が行使された年を魔法歴1年として数え、2020年が経った…」
その記述から仮説を立てる。簡単なことではあるが…年を数え始めたきっかけが僕の世界と違うために起きた差…ではないだろうか?
その後も歴史書に目を通す。
「魔王議会発足…100年、時間表示魔法…300年、初代勇者…600年、転生者時代が1300年?…なにそれ?1600年には人魚がインペーナ王国にて発見?」
なんとなく気になった見出しを読み上げる。
ページをちらりと見てみるが僕には少し難しそうだ。
「ふーむ…俺も歴史に詳しいわけじゃないからな…詳しいやつに聞きながら読んだほうがいいんじゃねえか?」
「そうかもしれませんね…」
一度本を閉じてエルトさんを見る。
「でもまあ、俺が言えるのは一つだけだ。過去は消えない。」
「…どういう意味ですか?」
「昔、金に困って仕事を選ばずに受けてた時期があった。そん時の記憶が今でも蘇るんだ。とんでもない、取り返しのつかないことをした自分の姿が。」
「いったい何を…?」
「そこまでは言えないな。今でこそ足は洗った、でも当時買った恨みは絶対に消えてない。いつ俺を殺しに来るかわからない。だからさ、お前は絶対に後悔するような選択はするなよ。」
それ以上、口を開こうとしない彼を見て続きは諦める。きっと簡単には話してくれないだろう。
そこで彼にテルが届く。小声で何かを話し、立ち上がった。
「…いけね、次の依頼があんの忘れてた…神父さんに言って先に帰るよ…ありがとなタイシ。」
「い、いえ。こちらこそ!」
部屋から出る彼に立ち上がってそう伝える。
衝撃でバサリ、と歴史書が落ちどこかのページが開く。
「魔法歴2020年…スカイとトラジ、勇者に就任…」
2年前…スカイさんが襲われた年だ。ページを開き、詳しく見る。
インペーナ王国から勇者が二人も選出!勇者の剣を使えるのか?、ヴェノス王国のメルニ、ラリノは勇者にならないのか!?消えた末っ子は今どこに?…そんなことが書かれた新聞が張り付けられていた。
「かわいらしい人だな…」
トラジとスカイさんの映る写真を見てポツリとつぶやく。よく見ると二人ともオッドアイだ。トラジは左が黒、右が青で、スカイさんは左が青、右が黒だ。ちょうど…右目を交換したら髪色と同じになるな…
漠然とそんな風に思った。
「さて!引っ越しは終わったし…今度はダンジョンだね!」
昨日とは別の迷宮の入り口に集まる。
「セントルーア第二迷宮…あんまり調べてないところですね。」
「大丈夫…いざとなればタイシ以外私が燃やすから…」
僕らはダンジョンの扉を押し開けた。
お久しぶりです、とらじです。今回は約5000字です。
月一投稿が崩れました。忙しかった部分もあったとはいえ…さすがに書かなすぎでした。でもやっぱり書くと楽しいですね。今年中に一章完結を目標に!…はさすがに無理ですね。
そういえば久しぶりに書こうとした時…恐ろしいことが起きたんですよ。
場所や状況の説明が全然できなくなってたんです。本当に怖かったです。来年のホラー企画はこれで行ったほうがいいぐらいには恐ろしかったです。
まあ何回も書いたり消したりを繰り返して何とか読めるものができたと思います。
書き方を忘れないように、次回はもっと早く…
感想、いつでも待ってます。待ち構えてます。




