第十三話 パートナー
「トラジさん!ちょっとなんですかこの点数!」
おつまみを食べつつお酒を飲んでいるとノアさんが走ってきた。
「やあ、そんなに慌ててどうしたんだい?」
「そこのお二人…タイシ君とエレナちゃんの事です!300点を取った新人がいるって話題になってて確認したらダンジョン100点、テスト0点、打ち合い200点だなんて…絶対トラジさんが何かしたでしょう!」
トラジは首をすくめる。
「何かって…心外だなあ…僕は君が2人をねじ込んだ事がバレないように合格させようとしただけなのに…」
「点数が異様過ぎてもうバレましたよ!危うくクビです!」
そこまで言うとノアさんはトラジから(また)1人分スペースを開けて座り、お酒とおつまみを注文した後こちらを向く。
「えーと…変な所を見せてしまい申し訳ありません…とりあえずタイシくん、エレナさん銅級試験合格おめでとうございます。こちら、新しいギルドカードです。」
お礼を言いつつカードを受け取る。前に貰ったカードは白色で字や枠、ギルドのエンブレムが黒で書かれていたが新しいカードは枠とエンブレムが銅色になっている。
「…ところでノアさん…タイシとはどういう関係?」
突然エレナがぶっ込んで来る。どうしたのかと彼女を見れば眼がマジだ。
「ただの担当の冒険者ですよー…恋仲でも何でもありませんよ?」
エレナの眼から何を感じ取ったかそんなことを言う。
「そうですか…なら良かった…ごめんなさい。」
「大丈夫ですよー♪」
料理が来てノアさんは明らかに上機嫌になる。
しばらくして酔いが回ってきたのか少しぼーっとする。
「眠そうだねタイシもエレナも…」
「い、いえ…まだ…大丈夫です…」
目を擦り必死に起きていようとするが…
ぽすんと肩に衝撃が伝わる。
「タイシ…あったかい…」
エレナは僕の肩を枕にしつつ腕に抱きつく。一度は遠ざけた眠気がすぐにやってくる。
「タイシ、別に寝てもいいよ?お会計とかは僕がするし…」
それでも眠気に抗おうとしたが…その言葉を最後に意識が遠のいていった。
「ぐ〜」「すぴー」
テンプレのような音をさせながらタイシとエレナは眠っている。
「まあ、2人ともお疲れでしょうしね…」
「ああ、それに2人はライズとシャールを追い詰めるほどの強さまで発揮してくれた。本当にお疲れ様、2人とも…」
僕はまたコップに手を伸ばしシードルを飲む。
「相変わらずそのお酒が好きなんですね。」
「うん…いろんなお酒を飲んでもやっぱりこれに戻ってきちゃうんだ。」
「それは…あの子との思い出だから…?」
「それもあるかもね。でもまあ、純粋に好きなんだよ。」
飲み干した所で席を立つ。
「そろそろお開きにしよっか。ノア、2人を運べるやつを頼む。」
僕はそう言ってからお会計を済ませてくる。
みんなの所に戻ってくればノアはメイズドで作った2人乗りの車椅子の様な物にタイシとエレナを乗せていた。
「ありがと、ノア。」
「ところで…エレナさんの宿は知ってるんですか?」
「…君が知ってると思ってたんだけどなあ…仕方ない、いつものホテルに一回行こう。」
僕らは2人を押してホテルへ向かっていく。
「今日は一回別の部屋に泊まるか…」
目が覚める。どうやらホテルのいつもの部屋まで運んでもらえたようだ…時計を見ると4時。飲み会をしていたのが20時だっただろうか?
「たいし、おはよ…」
寝ぼけたような声がすぐ横から聞こえる。
「エレナ…?どうしたの?そんな抱きついて…?」
エレナはかなりしっかり抱きついている。引きはがすのは難しいだろう、しないけど。
「だれにも…わたしたくないから…はなれたくないよぉ…」
普段とは様子がかなり違うし、まだ寝ぼけているのだろう、酔いも残っているかもしれない。
「大丈夫、ずっと近くにいるよ。」
安心させようと、こちらからも抱きしめると彼女の顔が緩む。
…もしかしてお姉さん達と離れ離れになったのは彼女の中でかなりトラウマの様になっているのだろうか…どうにかその心の傷を癒してあげられないだろうか?
…昨日も少し独占欲のようなものを出していたのもそれが原因だったのだろうか…?
エレナの髪を撫でる。
「えへへ…たいし…だいすきだよ…」
安心したのか寝息を立て始めた…
「タイシ?エレナ?起きてるかい?」
ドアの向こうからノックが聞こえる。時計を見れば8時、いつの間にか二度寝をしてしまったようだ。
「はい、起きてます!」
返事をすればドアが開きトラジが顔を出す。
「二日酔いもしてないみたいだね、良かったよ…ところでエレナはまだ寝てるのかい?」
「い、いえ…起きてます…」
エレナも体を起こす。まだ少し眠そうだが寝ぼけてはいなさそうだ。
「なら良かった。2人にプレゼントがあるんだ。昇級祝いみたいなものかな。」
トラジは2枚の革袋を差し出す。
「これ…もしかして魔法の袋ですか…?た、高いんじゃ…」
エレナは受け取ると魔法具であることに気付いた。
「うん、魔法の袋だよ。値段はまあ…気にしないで。タイシ、この前渡したのは普通の袋なんだけど…こいつは見た目以上に入る特別な袋なんだ。中を見てごらん?」
手を突っ込むと、僕の袋からは大きな魔石、エレナの袋からは王冠が出てくる。どちらもこの小さな革袋に普通なら入らないサイズだ…それにしてもどこかで見覚えのあるような…
「もしかしてこれ、スケルトンキングの?」
「そう!君たちの倒したスケルトンキングのだよ。換金しようかとも迷ったんだけどとりあえず渡すことにしたんだ。君らが倒したんだから…決定権は君たちにあるだろう?」
魔石と王冠を交互に見つめる。僕たちがあんなに強い魔物を倒せたのか…感慨にふけるような気分になる。
「でもタイシ、もう一度挑もうとはしないでね?あいつは本来レベル2で相手になるような魔物で、たまたまタイシとエレナが強かったからうまく行ったけど…次も上手くいくとは限らない。魔物にも個体差があるからね。絶対行くなよ?」
「は、はい。気を付けます!」
トラジはニコリと笑う。
「じゃあひとまずお風呂入ってきな?昨日入れてないだろ?」
言われてみれば確かに入ってないな…どうせまた汗をかくだろうし、シャワーを浴びてくることにした。
「………」
「………」
タイシがお風呂に入ってしまった為、部屋には私とトラジさんが残される。気まずい沈黙に包まれるが向こうから話を振ってくる。
「えーと…タイシくんが君から指輪を貰った話、笑顔で話してくれたよ。嬉しそうだった。」
「あ…そうだったんですか、よかったです…でも、すみません…人との距離感…?というのがどうしても苦手で…貴方の弟子なのに急にキスまでしちゃって…」
「…その話僕知らないんだけど…?」
…会話間違えちゃった?
というか気まずさが本当に凄い。私も彼も面識が少ないお陰で何を話せばいいのかわからない…
その沈黙をトラジが再び破る。
「ねえ、タイシと正式にパートナーになってもらえないかい?」
少しの沈黙の後、私は耳を疑った。何とかなったとはいえ私のせいでタイシが危ない事態に巻き込まれてしまったのに。
「打ち合い試験の時、君たちはアイコンタクトすらせず、凄いコンビネーションを見せてくれた。長い間コンビを組んでいたなら普通のことだ。でも君たちは急造パーティーだ。きっと相性が良かったんだよ。それに、誰かしらパートナーは付ける予定だったから、君が受けてくれるなら凄くありがたい。」
「でも私…魔法しか出来なくて…」
「でもね、タイシは魔法が苦手だ。パーティーは欠点を補いあうものだ。きっと合うと思うし、それに君も初心者だと聞いたよ?僕が教えてあげられることもあると思うんだ。」
思ってもみなかった魅力的な提案。確かに私はまだまだ分からないことも多い。
「ふ、不束者ですが…」
手のひらを出され、言葉を遮られる。
「その言葉はタイシの為に取っときなよ!今日からよろしくね。」
「さて…タイシ、君のパートナー、エレナちゃんね。」
「ぱ…パートナー?」
「冒険を共にする仲間さ。ダンジョンの探索を続けていくなら人数がいないと危ない事もかなり多い。それで彼女と君は相性が良いと思ってね。」
「タイシ…不束者だけど…よろしく。」
「あっ、いえ!こちらこそよろしくお願いします!」
パートナーの話にタイシも嬉しそうな顔をしている。やっぱり相性は良さそうだ。…いつか結婚とかするのかな…
頭を振り邪念を払う。
「それで、エレナちゃんがよければなんだけど…今日からこの部屋にタイシと一緒に住んでもらえないかい?一緒に冒険する仲間なら同じ場所に住んでる方がいいと思って。」
そう言うと2人とも少し顔が赤くなる。
「…ダブルベッドの方が良かった?」
「い、いえ!大丈夫です!」「私もツインで大丈夫…」
分かった、と返事を返し自分のベッドを掃除する。
「【クリピリカ】!」
仕上げに清掃魔法を使い新品のようにする。
「じゃあ僕は隣の部屋貸してもらうから。しばらくしたら今日の予定伝えに来るから待っててね。」
そう言って僕は部屋を出る。隣の部屋の鍵を開けてベッドに寝転ぶ。
「そういえば昔会ったじゃないか…銀髪で魔法の得意なエレナに…何で忘れてたんだろう…」
シャールから貰った情報を思い出す。
「エレナ・ヴェノス…一体何をしようとしてるんだい…?」
その疑問に答える者はいない。
今の所は普通の冒険者だ。しかし、もし何か危害を加えようとするなら…
「もしそうなったらタイシには悪い事しちゃうな…」
独り言はもちろん隣の部屋に届く事は無い。
最近頑張って更新頻度をあげようとしてるからか疲れてきました。とらじです。
ところで…タイシとエレナ、トラジとスカイ…みたいに会話を想像しやすいコンビは書きやすいんですが、トラジとエレナみたいな想像しにくい2人を書くの苦手なんですよね…慣れていかないといかないんですが…
質問、感想、誤字報告…いつでも待ってます。




