3-15 ジュリエット期
あの後追いかけて言い募っても無駄で、執事さんにやんわり追い出された。領地に帰ってからも手紙を送ったけど、お返事は返って来なかった。
私が日に日に憔悴していくので、流石に母も祖父も気付いたらしい。
イザイア様と何かあったのかと聞かれて、私は泣きながら振られた事を伝えた。
私は確かに返事を先延ばしにしていたけど、イザイア様のことは好きだったし、別れたかったわけじゃない。
でも、実際に振られてしまうと、あの時の自分の態度が、いかに問題だったかがよく分かる。イザイア様も、きっと待ってる間はこんな気持ちだった。こんなに苦しい気持ちを、私はフォローもせず放置していた。それでもイザイア様は待っていてくれたのに、私はその事を全く理解していなかったのだ。愛想を尽かされて当然だと思った。
そう、思ったし、頭ではわかってる。でも、振られるなんて思ってなかった。イザイア様が、私から離れるなんて思ってなかった。慢心と言えばそれまで。傲慢だ。わかってる。
でも、辛くて苦しくて仕方がないの。もう頭がどうにかなりそう。
「そう、辛いわね……」
「どうしたら、辛くなくなるの?」
「……そうねぇ」
愚痴る私に、母と祖父は寄り添いながら話を聞いてくれる。思案しながら母は、祖父を仰いだ。
「お父さんならこういう時はどうする?」
「とにかく仕事する。お前は?」
「私もそうね」
2人のオススメは、仕事に没頭して煩悩を捨て去る、らしい。
「あの騎士様の時も、ルサルカお嬢様の時も、お前はそうして乗り越えただろ」
祖父に言われて思い出した。ルパートに連れられて行った教会の懺悔室。神父様の教え。
試練を乗り越えた先には、成長がある。
私にとって、とても大切に思えた教えだ。どうして忘れていたんだろう。
「そう、そうだった。うん、うん」
「神様は、頑張ったやつの事はちゃんと見てんだ。今は辛れぇだろうけど、お前には俺らもいるから大丈夫だ」
「そうよ。私達は何があっても、シヴィルを一人にはしないわ」
「うんっ……」
私の絶対的な味方。母と祖父がそばに居てくれたから、私は今まで頑張って来れた。イザイア様は失ってしまったけれど、二人がいてくれたら、私はきっと大丈夫。素直にそう思えた。
落ち着いてしばらくして、祖父がちょっと気まずそうにしながら、口を開いた。
「イザイア様とのことがナシになったんなら、貴族でいる意味あるか?」
母が祖父を睨みつけながら、祖父の足を踏んづけているが、言われて私も考えた。
そもそも貴族になろうと思ったのは、イザイア様との結婚のためだ。それがパァになったら、貴族である必要はないのだ。
「意味はないかも」
「ならどうする?」
うーんと唸りながら考える。別に自由市民に戻ってもいい。今年のデビュタントとか超面倒なので出たくないし。
でも私がいきなり自由市民になったら、騎士団の人も教会の人も驚くんじゃなかろうか。
お父様や大奥様、この家の家族も迷惑するかも。
「特にメリットもないけど、このままでいいかな」
「そうか、この家は気に入ったか?」
「うん」
「そうか、ならいい」
結局の所、私はこの家の家族を気に入ってしまったのだ。だってみんな優しいし良い人ばかり。居心地も悪くないし、嫌いになれってのが無理。
「どうせ結婚出来ないなら、騎士団長でも目指してやろうかな?」
「いいな!」
「あらあら、思い切ったわね」
適当に言ったけど、案外悪くないかも?父の推薦する婚約者は、きっといい人なんだろうけど、きっと今みたいな生活はさせてくれないし。
母や祖父の事情を知らない人だと、老後の二人の面倒とかみてくれないだろうし。
そう考えると現状維持がマストな気がする。
そう考えていた時が、私にもありました。
ターニングポイントになったのは、今年の冬。
わけも分からぬうちに、私は皇都に移ることになったのだった。




