3-16デビュタント 1
今年はデビュタント。15歳での貴族の成人式みたいなものだ。これは貴族はほぼほぼ強制参加。新年の参賀が終わった後に開かれるイベントだ。
第1皇子が18歳、第2皇子が同い年の為か、私達の世代は人数が多い。
父によると、当事者だけで100名近いらしい。これはこの国の貴族の2割近くにも及ぶ。同年代の数としては驚異的らしい。ちなみに父の世代、祖父の世代もそれぞれ皇帝陛下、皇太子殿下と同世代なので、今回同様多かったらしい。みんなその辺に合わせるものなのね。
というわけで、我がホワイト家からデビュタントするのは、私とルサルカお姉様だ。
お姉様は気まずかったのか、夏季休暇に帰ってきてくれなかった。私はお姉様が帰ってきたら、ちゃんと話したいと思ってたのに、ガッカリしてしまった。
そこで一肌脱いでくれたのが、ソフィアお姉様だった。
父に根回しして私に無理矢理夏季休暇を取らせ、旅行に連行されたと思ったら、そこにルサルカお姉様がいたのだ。
私もびっくりしたが、ルサルカお姉様が狼狽しまくってて逆に冷静になった。
ルサルカお姉様、ソフィアお姉様、私とでお茶会。普段口数の少ないソフィアお姉様が、頑張って話題を振ってくれている。
それを見ていたら、戸惑って緊張してるのが阿呆らしくなって笑ってしまった。
「……どうしたのよ?」
「ふふ、ソフィアお姉様もルサルカお姉様も、優しいと思って」
話しかけたのはいいものの、ルサルカお姉様は私の返答を聞いて、酷くバツが悪そうな顔だ。
「私は優しくなんかないわ」
「優しいと思いますわ。ねぇ、ソフィアお姉様」
「ええ、私もそう思うわ」
「そんなことない……」
一言ごとに沈んでいくルサルカお姉様だが、そーゆーところが優しいのよね。
「ルサルカお姉様は何も悪くないのに、罪悪感を感じて、今もまだ悩んでいるでしょう?」
「そうだわ。厚顔無恥な人なら、とっくに開き直って、なんならシヴィルを悪者にしているわ」
「それどころかルサルカお姉様は、私を想って悩んでいるのでしょう?それが優しさでなかったら、なんなのかわかりませんわ」
「うふふ、ルサルカは本当にシヴィルが好きなのね」
「あら、私だってルサルカお姉様が好きですわ」
「それなら私は?」
「もちろんソフィアお姉様も大好きです」
「あら、嬉しいこと」
私とソフィアお姉様がキャッキャウフフしているので、ルサルカお姉様は居た堪れないようだ。
「でも……」
「デモもテロもありませんわ」
「てろ?」
「気にしないでください。つまりですね、私はルサルカお姉様と仲直りしたいんです。ルサルカお姉様は、お嫌ですか?」
「……嫌ではないわ」
その瞬間ソフィアお姉様が立ち上がって、私とルサルカお姉様の手を握って、握手させた。
「これで仲直りよ」
「でもは言いっこなしですよ」
「もう……わかったわよ」
照れて赤くなるルサルカお姉様を見て、私とソフィアお姉様が笑い出すと、ついにルサルカお姉様も笑いだしたのだった。
それから私達はデビュタントまでの時間を3人で過ごす事が多くて、すっかり仲良し姉妹になったのだった。
ソフィアお姉様には感謝感謝だ。どこかで恩返ししなきゃ。ものすごく珍しい魔物の毛皮で作ったコートとかどうかな?うん、悪くないかも。そのうち狩りに行こう。
そうしてやってきたデビュタント。初めての皇城に、初めてのパーティ。
最初は面倒MAXだったけど、ルサルカお姉様とお揃いのドレスだと知って、テンションブチアゲ。
デビュタントのドレスは、ドレスコードが決まっている。白いドレスに、花の髪飾り。銀のネックレスに黒い靴。
花の種類やデザイン、素材で個性を出すのが、各家の腕の見せどころ。
ドレスのデザインはシンプルで、フリルやリボンは最低限。ゴテゴテなの好きじゃないから、スッキリしたこのドレスは素敵だ。
素材はアラクネシルクの超高級品。ちなみにうちの領地産。動く度に虹色に輝くの。下手な装飾つけてたら、この魅力は半減するでしょうね。
銀細工のネックレスは、それぞれ瞳の色に合わせた宝石を。髪飾りは、私はオレンジ色のラナンキュラス。ルサルカお姉様は紫色のスイートピー。
「ルサルカお姉様、とっても素敵!」
「シヴィルも、とても似合うわ」
2人で微笑み合う。こういうのも思い出になるのかな。ウキウキしてきた。
そうしてやってきた皇城は、三角州の中にある崖の上にあった。崖の上にあり、周囲を大河に囲まれている、灰色の巨大なお城。
「これは攻めにくそうね。明らかに攻城戦を意識していますね」
「その感想はどうなの?普通大きいとか綺麗とかではなくって?」
「心の中で言ってましたよ」
「本当かしら……」
呆れ顔のルサルカお姉様に溜息をつかれつつ、私達は入城した。
案内されたダンスホールは、巨大なシャンデリアがいくつもぶら下がる豪華で広い部屋で、ふかふかな絨毯が光沢を放っていた。それを踏みしめる人が500人位いる。
私もルサルカお姉様もびっくりして立ち止まったけど、ルサルカお姉様の保護者のユージェニー様、私の保護者のサフィナお義母様に促されて、会場に入った。
しばらくはサフィナお義母様に挨拶に来る人に挨拶をしていた。当然ながら北部の貴族が多かった。
その中にはルサルカお姉様の同級生もいたようだ。
「ルサルカ様に妹君がいたなんて知らなかったわ」
「私は学園には通っておりませんから、知らぬのも仕方ありませんわ」
「あら、どうして?」
「私は領地で仕事がありますので」
「お仕事をなさっているの?」
「ええ。聖女なのです」
「まぁ!」
「素晴らしいわ」
騎士のことは黙っとけと言われている。こちらの令嬢は北部の方なので問題なさそうだけど、周りにも人がいるから黙っておく。
聖女と言えばだいたいは好意的に見てくれるし、多少のことはスルーしてくれる。聖女の肩書き超便利。
その令嬢達が去った後、男の子3人組に声をかけられた。
「よっ!」
「やっぱりシヴィルもお嬢様だったんだな」
「うん、そういう格好してるとお嬢様ぽい」
大変無礼なこの3人組は、騎士団の同僚だ。1人は同期、1人は先輩。1人は後輩だけど、同い年だ。
「ちょっと、失礼しちゃうわ!」
「そんなことより、隣の麗しいご令嬢を紹介してほしーなー」
「そんなことって……全く」
仕方がないので、ルサルカお姉様を紹介する。3人組も自己紹介した。
「いつもシヴィルがお世話になっております」
「ルサルカお姉様、彼らにそんな気遣いは不要ですわ」
「えー、ひっどー」
「お黙り」
黙れと言うのに調子に乗った3人組が、私の武勇伝(?)をルサルカお姉様に語り出す。ルサルカお姉様が笑い出したり、呆気に取られて絶句するので、3人組は大笑いして、私はギロリと睨みつける。
「後で覚えておきなさいよ」
「おー怖!」
3人組はスタコラサッサと逃げ出した。
「ルサルカお姉様、すみません」
「ふふ、シヴィルが楽しそうで安心したわ」
「あぁもう恥ずかしい……」
「うふふ」
そうこうしていると、ついに本番が始まった。式次第は、まずは皇帝陛下のご挨拶。次に同年代を代表してジョナサン殿下のご挨拶。それから家格順に皇室ご一家にこちらが挨拶に伺い、その後ダンスタイム。最後に皇太子殿下がご挨拶してお開きになる予定だ。
遠目から見ても、挨拶する皇帝陛下はオーラがあった。皇族で会ったことがあるのはジョナサン殿下だけだけど、何となく似てる。元は黒髪だっただろう髪は、だいぶ白髪交じりになっていて、ごま塩みたいだなーと思った。
ジョナサン殿下は同い年とは思えないくらいに堂々とした挨拶で、やっぱり皇族は違うんだなぁと思った。この貴族の群れを前に挨拶なんて、私ならきっと足が子鹿のように震えてる。
挨拶を終えたジョナサン殿下が、女性とニコニコ微笑み合う。
あ、あれ確かニコール様だ。1回親族だからって挨拶したの覚えてる。ジョナサン殿下の婚約者だったはずだ。戸籍上はニコール様とは二従姉妹にあたる。
会うのはまだ2度目だけど、ニコール様ってほんっと綺麗だわぁ。ニコール様と結婚出来るジョナサン殿下は、三国一の幸せ者だね。
次は貴族達が皇族に挨拶に行く。うちは早い段階で呼ばれるはずだ。
それからしばらくして呼ばれた。流石に緊張してきて、皇族の待つ高砂の階段を恐る恐る登る。
礼を取ると名前を呼ばれた。顔を上げたものの、恐れ多くて直視できない。ルサルカお姉様はジョナサン殿下やニコール様に慣れているからか、声をかけられてにこやかに応答している。
私は皇族を見るふりをして、皇族の後ろにいる騎士を眺めた。
「シヴィルと言ったか」
ふと、ややしわがれた低い声に呼ばれた。まさかと思いつつ視線を声の方に寄せると、案の定皇帝陛下だ。
なんでだ。なんで声をかけた。
「はい、皇帝陛下にご挨拶申し上げます。ホワイト辺境伯家次女、シヴィルと申します」
「うむ。その方、婚約者はおるか?」
「おりません」
「あぁ、恋人がいたのだったか」
これはジョナサン殿下経由で聞いたのかな。まぁもう終わったことだ。
「……おりません」
「ふむ、そうであったか。ならば」
ならばなんだ。まさか婚約者をお世話するとか?果てしなくありがた迷惑だけど、陛下の命令に逆らえるわけもなし。
何を言われるのかと警戒していたら、予想外の爆弾が落ちた。
「シヴィル、そなたは余の妃になれ」
…………は?




