表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第3章 少女期―成年―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/138

3-12 私の使命


 集まってくれた聖者は3名、聖女が2名、聖者聖女見習いが5名。教会の「シヴィル派」という少数派閥に属してるメンバーだ。初期メンバーのジェニファーも来てるよ。聖者イーサンが私の派閥に入ってから、人口が徐々に増えつつあって、今日来てるメンバーの他にもいるよ。

 最初は聖者イーサンが付きまとってくると思って、気持ち悪いおじさんだなとか思っていた。でも、聖者イーサンは何気にベテランで高位の聖者だから、その実力は折り紙つき。聖者イーサンに憧れている術師はそこそこいて、その内の幾人かが聖者イーサンに着いてきた感じ。一部は、聖者イーサンともあろう方が、なぜあの小娘にと思ってる人もいるみたいだけど、私の本業は騎士だから気にしない。


 シヴィル派に属しているメンバーは、解剖学とか病態生理に興味を持って、それを施術に取り入れようと試みている。例えば、今までは腹痛を訴える人には、痛み止めを飲ませてお腹に治癒魔法をかけていた。シヴィル派では、問診、視診、聴診、触診をして、これはイレウスぽいとあたりをつけて、そこに集中的に魔法をかける。

 ぼんやりお腹全体に魔法をかけていた時よりも、明らかに治癒効果が高く、魔力消費も少ないということで、その報告をしてくれた聖女はガッツポーズしていた。その聖女、マーサはあんまり高位の治癒魔法が使えないのがコンプレックスだったらしいから、喜んでもらえてよかったよ。


 そういうわけで、今日は検討会議だ。今日はまだ来てないけど、実は師匠も呼んでいる。多分明日には着くと思う。

 会議の議題は、前頭側頭型認知症各論の構成と診断基準の決定、治療法の確立についてだ。先ずは私が知っている限りの知識を説明する。それに対してのみんなの意見を募った。最初に声を上げたのは、前述の聖女マーサだ。聖女マーサは祖父が亡国祭の国サンタンドレの元貴族。この国に亡命してきて、治癒魔法が使えたから、代々教会にいるらしい。何気に経歴が私とおそろいなので、私の祖母も祭の国出身と知って仲良くなった。


「その症状だと、他の精神疾患とどう区別すればいいかわからないわ」

「そうだな。ここ数日ホワイト辺境伯閣下の観察をさせてもらったが、心を病んだ患者や、過去の頭部外傷が原因で異常行動を取る患者と区別できない」


 そこなのよね。初期は人格の変化以外は、特に目立った症状はない。だから初期で区別をつけるのは、かなり困難だと思う。しばらく考えて、私は鬼畜な提案をしてみる。


「認知症、神経症の症状を確認できる段階まで、あえて症状を進行させてみましょうか」

「えぇ! 酷い!」

「父親だろ!?」

「だからこそです。父は私に、泣きながら土下座しても許されないくらいの借りがあります。研究には全面的に協力すると同意書をもらっていますから、問題ありません」

「閣下は何をやらかしたんだ……」


 秘密。

 私のスキルは治癒ではなく改造だから、良くも悪くもできる。というわけで、早速父を呼んで悪化させて観察。軽く一日の生活行動を見れるようにロールプレイングしてみる。

 朝起きて、ベッドから出て身支度という流れをソファでやってみる。ソファに寝かせた父に声をかけて起こすと、父はゆっくりとした動作で起き上がる。お父様と声をかけた私を、父は不思議そうにした。脱がせていたジャケットを渡すが、着ようとしない。朝食の体でお茶と軽食を出すと、お茶を飲んで咽せ、軽食には手を付けない。マカロンはもりもり食べた。仕事だとペンと紙を用意したが、手が震えて字が書けない。名前を書けないか聞くと、「名前」という言葉が鸚鵡返しで返ってきた。父はその紙を引き出しにしまって鍵をかけたが、何度も鍵がかかっているか確かめるように、引き出しをガタガタしていた。


「なるほどね。進行すると、こういった症状も出てくるのか」

「聖女シヴィルのことを忘れている様子でしたね。家族を忘れる程となると、相貌失認が顕著と言えます」

「手が震えたり、動作が緩慢になるのも、神経の障害が原因か」

「全然話さないし、言葉を鸚鵡返しにするのは、側頭部の障害かしらね」

「着替えや食事も嫌がっていましたね。何故でしょう?」

「恐らく精神症状もでるんじゃないか。無気力や自発性の低下も診断の目安になるかもな」

「何度も引き出しを確かめていたのも、精神症状の一つでしょうか。ずっと手を洗っている患者を見たことがあります」

「あぁ、そうだな。マカロンばかり、あるだけ食べていたのもそれだろう」

「閣下は甘い物好き?」

「いいえ。どちらかというとお嫌いでしたわ」

「じゃぁ味覚の変化もね」

「誤嚥もしてましたね。これは重度になると、本当に命に係わるかも」


 聖者や見習い達が、ポンポンと意見を交わしあう。その後は父に自由に過ごしてと言ったけれど、父はソファから動かなかった。その間に観察された症状を書き出し、やれ歩かせてみよう喋らせてみようとアプローチ。さっき私に酷いって言った割に、みんなすっかり忘れていた。


「あぁっ! 失禁してる!」

「あっちゃぁ、この高そうなソファに。次からは寝室にしようか」


 苦笑いしながら、聖者イーサンが「浄化」をかけてくれたので、すぐに綺麗になった。便利な魔術だなぁ。

 その後寝室に場所を移して、観察を継続。ちなみに寝室に行く間にも歩行障害が出ていたので、私が支えて連れて行った。

 聖者達と師匠もうちに泊まってもらって、2人ずつ交代で24時間観察していた。父のオムツを替える時、何がとは言わないが引っ張られて痛かったのか、父がジェニファーに怒り出した。「すぐ終わりますから」と暴れる父を押さえつけながら、浄化が使える聖者イーサンを心から羨ましく思った。

 父をその状態のまま数日観察を続けて、ようやく診断基準を決定した。



 次。治療法の研究。これは師匠にも協力を仰がなきゃ無理だった。何故なら、私は師匠の師匠は、医師の転生者だったと睨んでいるからだ。この世界で外科手術とかバリバリやってるのは師匠位だもん。

 師匠が私の師匠と知って、ジェニファー達が尊敬の眼差しを向けていることに、師匠は居心地が悪そうにしていた。


「おい、あーゆーのやめさせてくれ。尻の穴が痒い」

「ふふ。師匠は相変わらずですわね」


 相も変わらずエルフの師匠は若いイケメンで、中身も全く変わっていなかった。クスクス笑っていると、そういえばと師匠が口を開いた。


「近々ゾンとモアが結婚するぞ」

「まぁ、本当ですの!? おめでとうございます」


 ゾンはハーフエルフで、モアは獣人。ハーフエルフなら200年~500年は生きるので、短命種で40~50年で寿命を迎えるモアとの結婚に、当初師匠は反対していたのだ。師匠の奥さんが2人目で、一昨年亡くなったのも、理由の一端かもしれない。奥さんは前日までピンピンしていたらしいんだけど、夜中に心筋梗塞を起こしたのか、朝になったら冷たくなっていたそうだ。私も奥さんにはお世話になったし、賑やかで優しい人だったから、もういないと聞いて悲しかった。


「私は2人の結婚を嬉しく思いますけれど、何故お許しに?」

「何故も何も、お前のせいだよ」

「私の?」


 私、何かしたっけ? 特に記憶がない。首を捻っていると、師匠が呆れた顔をした。


「忘れたのかよ。お前村を出る時に、モアにペンダント渡しただろ」


 そういえば渡した。月光熊の魔石で作った、自動修復を付与したペンダントだ。あれのせいか。


「モアはもう20歳だってのに、若い頃から変わってねぇの。モアの妹より若く見える。その内魔石の魔力が切れるだろうが、この分ならそこそこ長生きしてくれるだろうし。嫁も許してやれって言ってたからさ」


 獣人のモアにとって、20歳というのは人間でいう30~40歳くらいだ。魔力残量にもよるけど、この分なら20年くらい寿命が延びてそう。おぉ、私グッジョブ。

 余談だけど12歳の時の定期討伐で私が生き残れたのも、母特製お守りのおかげ。あれがなかったら死んでた。


「では、結婚祝いに新しいものを作って贈りますわね」

「モアが悪目立ちしそうだけどな。その辺はモアに考えさせるわ。どうでもいいけどお前、綺麗になったなぁ。本当にお嬢様みたいだな」

「みたいでなく、真実そうなんですのよ!」


 やっぱり師匠は相変わらずだった。そんな師匠にこれから頼らせていただくのは、脳委縮を観察する方法がないかどうか、病巣を的確に治療する方法がないかだ。

 師匠は光魔法を駆使して、透視下で見ることが出来るらしい。でも、そんな芸当が出来るのは師匠がエルフだからだ。聖者イーサンも光属性はあるけど、それは治癒魔術に特化したもので、X線を収束して照射だのは出来ない。というか意味が分からないらしい。そりゃそうだ。

 だから、師匠の観察方法を伝授してもらうのもアリだけど、それだと出来る人が限られるので、もっと汎用性の高い方法を考えたいのだ。


「師匠殿は心当たりがおありか?」

「ジョバンニでいいよ」

「なんと! 師匠殿は師匠殿ですぞ!」

「あぁ、うん、話進まねぇからもうそれでいいや。心当たりなぁ……教会には魔眼持ちとか少ないのか?」

「精霊眼と審理眼以外は結構レアじゃないかしら」

「そうですねぇ」

「猫系とか蝙蝠系獣人は?」

「猫系は多少いますが、蝙蝠系は中々」

「獣人って教会にあんまり興味を持ってくれないんですよ」

「そうなのかぁ。うーん精霊眼では見えないのか? この中に精霊眼持ちいるか?」

「私、持ってます!」


 手を挙げたのはジェニファーだ。彼女は司教様の娘だから、第1スキルに精霊眼を持っていた。ちなみにマーサも司教様の娘だけど、彼女の第1スキルは審理眼らしい。

 ジェニファーは「やってみます!」と、両手をきゅっと握って意気込む。可愛いかよ。父の前に回ったジェニファーが、じぃっと父を見つめる。首を傾げて、もう一歩近づいて頭を凝視する。


「うーん、なんでしょう、ぼやっと見えるような気もするのですが、周りの光が邪魔で、気のせいでしょうか」


 精霊眼には、通常はほんのり発光して見えるらしい。変身などをしていたら、その姿の上に本物の姿が浮かび上がって見える。今ジェニファーの眼に見えているのは、多分急に明るい所に出て、眩しくて周りの景色が見えない状態に似ているんだと思う。脳の中に何かあるけれど、頭蓋骨や表皮が邪魔で見えない。


「ジェニファー、精霊眼にも強弱はあるのかしら?」

「あります。私は普通くらいだと思います」

「それなら、強い奴連れてくればもっと見えるかもね」

「ただ、強い精霊眼を持つ人は、大体は神官か裁判官ですので……」

「それもそうですわね。師匠、何かアイデアはございませんか?」


 しばらく考えた師匠が、ジェニファーの眼に手のひらをかざす。白い光が集まって、パチンと弾ける。見た目には何も変化はない。


「どうだ、これなら見えるか?」


 促されて再度父を見たジェニファーが、両手をきゅっと握って頷いた。


「見えます! 前頭葉と側頭葉にあたる部分のところどころが、黒く陰っています!」

「ジェニファー、どのあたりかしら?」

「この辺です」


 この辺とこの辺と、と、ジェニファーが指さす辺りは、確かに私にも病変を確認できている部位だ。これなら画像診断に代替するものとして使えそう。

 師匠に何をしたのか聞いてみると、精霊によく見えるようにお願いしただけらしい。


「精霊眼は名前の通り、精霊と相性がいいんだよ。お前には精霊は見えないかもしれないけど、お願いしてみたら協力してくれると思うぜ。お礼にお菓子をあげたり、歌を歌ってやれば喜ぶ」

「はい! やってみます!」


 というわけで、精神疾患などと区別するための画像診断はクリア。

 次は治療法だ。


「前頭葉と側頭葉の委縮があって、それを再生するイメージで治癒魔法をかけるんだね?」

「といっても、私は脳なんか見たことがないから、イメージが湧かないわ」

「んじゃ、開頭してみっか」

「そうですわね」

「え」


 みんなドン引きしていたけれど、想定済みの私と師匠はちゃっちゃか準備を始める。聖者イーサンに室内全部と全員に浄化をかけてもらった後、父をデスクの上に寝かせて麻酔をかけ、テーブルの上に機材を並べる。

 ジョナサン殿下の発明品を取り扱うレイアース商会から仕入れたゴム手袋をはめて、マスクをする。ジョナサン殿下がゴム製品を発明してくれたおかげで、こっちは大助かりなんだ。ホント感謝!

 頭髪を剃って水で洗い流し、露出した頭部を消毒すると、師匠が患部が見やすいよう光の玉を浮かべた。

 あんまり近くに寄らないようにと指示していたので、一歩下がって聖女聖者が息を呑んで見つめる。メスが入って血が流れると、「ひぃぃ」と声が上がる。


「あんまり騒がないでくださいませ。ミスをしたら大変ですわ」

「あ、ご、ごめ」

「馬鹿言うな。俺がミスするか」


 師匠ェ……。私失敗しないので的な女医も真っ青な自信満々ぶりである。確かに失敗してるの見たことないな。しかも今回は開頭するだけだし。

 私の場所指定に沿って、師匠が頭皮を切り開いていく。師匠が切り方や注意点を説明しながらメスを進める。適切な範囲を切り取って、頭皮を捲った時、その頭皮の裏側と頭蓋骨が見えた辺りで、ジェニファーが倒れた。


「あぁ! ジェニファーしっかり!」

「おいおい、その子が見なきゃ意味ねぇってのに。起こせ」

「弟子が鬼畜なら師匠も鬼畜!」


 気つけ薬で無理矢理覚醒させられるジェニファーには可哀想だけど、師匠はこういう人なの。慣れて。

 ゴリゴリと頭蓋骨に穴をあけて、糸鋸で頭蓋骨を切断。パカリと頭蓋骨を外す。またジェニファーが倒れそうになったけど、寸でのところで支えた聖者が、即座に気付け薬を嗅がせていた。そう、それでいいのよ。一度水で流して、露出した脳をみんなに見てもらう。

 フラフラになったジェニファーも、頑張って覗き込んでいる。ジェニファーが頑張っているので、他の聖者達も頑張って覗き込んでいた。師匠と私で説明しながら、ジェニファーの意見を伺う。


「はい、さっきよりもはっきり見えます」

「なるほど、脳ってこうなっているのね。でも、どこが委縮しているのか、私にはわからないわ」

「この辺です」

「精霊眼持ちのナビゲートがないと、的確な処置は難しいかもな」

「では、話を総合すると」

「開頭術からの精霊眼によるナビを経由しての魔術行使っつーことになるな」

「そうですわね」

「えっ」


 聖者達はやっぱり引いていたけれど、父をさくっと治癒魔術で治してもらって、今日と明日は父は点滴しながらお休み。明後日からは私と師匠は監督に回って、聖者達だけで治療を実施してもらう。


 調べ物をしたり、診断や治癒の過程を論文に纏めながら過ごして、そしてついに聖者達だけで治癒が出来るようになった。皆大喜びで互いの健闘を称えあっていた。

 そして徹夜で仕上げた論文を教会に提出。前頭側頭型認知症各論として認定してもらうため、大司教、司教、司祭が数名やってきた。


 大物神官の前での施術に、聖者や助手の見習い達は緊張している。先ずは診断から始まり、診断を確定する過程を見てもらう。ここまでは良かった。

 治癒の場に移ると、頭皮を切り始めた時点で「なんということを!」「あぁ、神よ!」と神官達が騒ぎ出した。注意しても静かにならないので、同席していたギデオンお兄様が、沈黙の魔術をかけてくれた。そしてジェニファーと同じタイミングで奥様が倒れた。流石に奥様は別室に移した。

 神官達は阿鼻叫喚だったけど、一部は興味深そうに施術を観察していた。覗き込んで説明を聞きながら頷いている。多分精霊眼持ちの神官なのだろう。

 そうして最後に聖者イーサンが治癒魔術を施して、脳はふっくらと元の大きさに戻った。頭蓋骨や頭皮も綺麗に治して、父の麻酔が抜けるのを待つ。

 1時間ほどして、父は目を覚ました。麻酔のせいでぼうっとしていたが、割とすぐにしっかりしてきた。


「お父様、名前を教えてください」

「エリック・ホワイト」

「私の事がわかりますか?」

「シヴィル。私の娘」


 今日まで完全に私の事を忘れて、時には罵倒したりした父。久しぶりに名前を呼んでもらって、少しだけ目が潤んだ。


「立てますか?」

「ああ」


 麻酔の余韻もあってか、少しフラフラしてはいたが、手をぐーぱーしてもらったり、万歳してもらったり、その辺を歩いてもらう。パーキンソン症状は見られない。診断基準に則り、色々質問したり検査をしていくが、どれも引っ掛からない。


「お父様、おめでとうございます。治療は成功しました」

「……? そうか、病識のない病気と言っていたな」

「ええ。ですが、元のお父様に戻っていますわ」

「そうか。感謝する」


 治療前の父の様子を知っている聖者達も涙ぐんでいる。皆本当に頑張ったよね。怒鳴りつけられて、物を投げられて、殴られそうになって。それでもみんな、今日の為に頑張ってくれた。


「本当に、皆様のおかげですわ。心から感謝いたします」

「シヴィル、お前らも。頑張ったな」

「快復、おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」


 こうして父の病は全快し、この病の治療法が確立された。この病に関する内容は総本山にも届けられて、広く公表されることになったらしい。

 そして、この内容は父とユージェニー様と共に、ホッジ伯爵領の教会にも届けられる。技術的にはホッジ伯爵領の聖者にも出来る様に考えているけれど、最初は怖いと思うので、初回は私も呼んでもらうことになっている。


 荷物を載せた馬車と、辺境伯家の紋章が入った豪華な馬車。その前に立つ父とユージェニー様を、屋敷にいるメンバーで見送る。


「シヴィル様、旦那様の事は私に任せて」

「はい、お願いします。お父様、どうぞご自愛くださいませ」


 挨拶をしていたら、父が私の前に歩み出た。そして私の頭を、初めて撫でてくれた。


「重ね重ね、お前には苦労ばかりかけたな。不甲斐ない父親ですまなかった。私には出来なかったが……お前の幸福を願っている。何かあったらいいなさい。いつでも力になる」


 思わず涙が出そうになったけど、ぐっとこらえた。切ない気持ちも複雑な気持ちもあるけど、確かに私は嬉しかったんだ。今になって初めて、父と娘になれた気がした。


「はい、道中お気をつけて」

「あぁ、お前も元気で」


 こうして父は病を克服して、ユージェニー様と共に、ホッジ伯爵領の別邸へと去っていった。



 それを見送っていると、隣で「さて」と師匠が言った。他の聖者達は既に教会に戻っているけれど、師匠はまだ滞在していたのだ。


「師匠、長く村を空けさせてしまい、申し訳ありませんでした。師匠のおかげで助かりました」

「気にすんな。村の治療院もゾンに任せてるしな」

「ゾンももう大人ですものね」

「そう。つーわけで、俺はもう少し居候させてもらうわ。で、ゾンの結婚式の後は治癒術師はもう引退で、また第3にでも入るかなー」

「気ままですわね」

「舅なんていても、モアが気を遣うだけだろ。気ままなのはエルフだからな」

「師匠だからでは?」

「そうとも言う」


 勿論エルフだからというのもあるだろうけれど、師匠は出来ることが多いから、ここまで自由に人生を選択できるんだろうなぁ。呆れつつ羨ましくも思う。


 ちなみに師匠は神官が嫌いらしく、だから聖者にならなかったんだって。確かにあの時も、神よ神ようるさかったもんねぇ……。

 でも、これで私のやるべきことは終わった。久しぶりに日光を浴びた気がする。ちゃんと訓練できていないから、体力も落ちてそう。騎士団も長期休暇もらっちゃったから、みんなにお土産用意して出勤しなきゃ。


 私は春の陽光の中で背伸びをして、日の光と花の香り、そして胸にあふれる達成感に満足して、思い切り深呼吸した。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ