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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第3章 少女期―成年―

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3-2 ジョナサン・スカーレット・アズメラの都合

第2皇子の小さな暗躍

 皆さん、おはこんばんにちは。初めての人は初めまして。第2皇子やってるジョナサンです。ちなみに転生者です。


 とりあえず、俺のことについて簡単に説明しよう。前世の名前は森山康介。サラリーマンやってた。そしてたまに押しかけてくる妹の世話も焼いていた。実家は母子家庭だったんだけど、母親が早死にしたもんで。親が早死にした原因のせいで、俺も早死にした。肺癌で享年32歳。


 で、死んだと思ったらこの世界に生き返った。びっくりしたよねマジで。自分の事や周りのことを知って更にビックリ。

 妹にフルコンプ付き合わされた恋愛ゲーム「流星を君に捧ぐ~サブタイは覚えてねぇ~」の世界じゃねーか。しかも俺、妹様の命令で課金までしたから、かなりハードプレイヤーよ。しかも妹はストーリーにキャイキャイ言いたい勢で、レベル上げなんかは全部俺の仕事だった。はっきり言って、妹よりも俺の方が精通してたぜ。ストーリーはちょっとうろ覚えなところがあるけど。


 ちなみに俺、ジョナサンの役どころは、ヒロインと同い年のメインヒーローで俺様皇子。ジャケ絵のセンターにいるのが俺です。マジかよ。


 最初の数年は疑ってたけど、俺の婚約者候補つって、ニコールを連れてこられた時点で確定した。ゲームの中では、ニコールは俺の婚約者に収まってたから。

 そして俺は即行で、ニコールに婚約の申し込みをした。むしろ親父に頼み込んだ。前世から推しでしたありがとうございます。

 最初は何故かニコールに逃げ回られたけど、俺がマジなのは努力の甲斐あってニコールにもわかったようで、やっと婚約が成立して今では超ラブラブ。俺超幸せ。


 ところがどっこい、このゲームは学園に通いだしてからが本番だ。この国には学園なんてもんはなかった。だが、俺がガキの頃に「子どもが等しく教育を受けることが出来れば、国力は一定の水準を――」と、何の気なしにアホなことをほざいたせいで、それを真に受けたじじいが創設しやがった。

 この頃には俺は既に「発明皇子」とか言われてたから、俺がまた面白そうなこと言い出したと思って、じじいたちが食いついてしまった。正直、異世界転生ヒャッハー! とか、テンプレヒャッハー!とか思ってたし、小市民が皇族に生まれ変わったもんだから、俺は調子に乗りまくっていたんだ。痛恨のミス!

 

 この手の奴はゲーム補正という恐ろしい現象が鉄板だから、それまで完全に調子こいてた俺は、もう怯えに怯えまくっていた。


 前世から推しだったニコールと目出度く婚約し、将来は皇弟として皇帝を支えるべく努力して来たんだ。勿論ニコールだってそうだ。それを平民上がりの、可愛いだけが取り柄の頭お花畑なヒロインにぶち壊されてたまるか。真実の愛だとかクソ下らんことで、国を傾けるわけにはいかないだろ。権威ってのは個人の感情で左右されていいほど安い物じゃない。

 あ、ちなみにニコールは超絶美人で頭も良いし、皇弟に嫁ぐどころか兄貴の女でもイケる位には素晴らしく優秀な令嬢だ。兄貴にはやらんけど。


 はっきり言って、俺はこの世界に生まれ変わってからは、選民思想バリバリの男に育った。ある意味、俺様皇子の設定をなぞっているようで、そこはちょっと怖いんだけど。

 皇族だから贅沢はできるし、唸るほど金はある。そんでもって、責任重大で人より劣ることなんか許されない。親父もじじいも、ちょっと……いや大分性格は破天荒だが、それでも毎日血反吐を吐きながら仕事してるし、俺もガキの頃から死ぬほど勉強させられた。そりゃ特権階級なのも当たり前だって位に。


 だから平民出身で顔だけで男を誑かすような女は願い下げだ。ヒロインが仕掛けてきたら、問答無用で不敬罪で処す。処すったら処す。そんな害獣みたいな女、断罪イベント待たずに俺が断罪してやるわ。


 余談だけど帝位はいらん。ゲームのシナリオでは俺が皇太子になったけど全力で拒否する。貴族連中が無駄に張り切ってるのは知ってる。皇族の男どもが押し並べて破天荒な性格なのに、何故か俺だけ常識人でマトモだし、俺のおかんが高位貴族だから、貴族共は変に俺に期待しているわけだ。せめて兄貴のおかんが低位貴族じゃなけりゃなぁ。

 でもマジ大変なのわかってるから、兄貴に平身低頭してお願いする。そもそも性質として、俺は皇帝に向かないんだよ。2番目か3番目で威張ってる位がちょうどいい。根は小市民だしな。

 その点兄貴はちょっと闇堕ちしたし、じじいや親父に似て少し……いやかなりファンキーだけど、政治経済方面では強いから、皇帝に向いてるっちゃ向いてる。俺はどちらかというと軍事方面だから、サポーターでいい。兄貴が道を外れたら、俺らがどうにかすりゃいいんだからな。

 少なくとも皇帝に一番必要なのは、まずはヤル気だろ。俺にはそのヤル気がない。帝位のやる気スイッチなんか俺には装備されてない。その時点でアウトだから、兄貴頑張れ。



 閑話休題



 それに今年は開校初年なので、15歳以上18歳未満の貴族子女はなるべく入学するように言われている。大抵10歳から見習い奉公したり、15歳くらいから親の手伝いをするものなんだが、令嬢の方は婚活をしなきゃいけない。それは勿論令息も同様なので、この学園は結婚相手探しの場という側面もある。大抵の高位貴族は、子どもの時から婚約者がいるんだから、俺らは別にいいだろって思うんだけど、上が動かなきゃ下が動かないんだから仕方がない。ついでに付け加えると、有望な若者の青田買い会場の意味もある。


 俺は超嫌々だったので、創設時にじじいに一個頼んだのは、学園もガッチリ身分制度で縛れってこと。この学園は基本貴族だけが通えるんだが、ゲームでは学園内は身分フリーという恐ろしい設定だった。社交を学ぶなら身分の差もキッチリ教えるべきだが、その辺フラットにしたがるのは日本だからで、この世界じゃ通用しない。その辺グダグダになった奴が国外でやらかしたりしたら外交問題になるし、本人のためにもよくない。

 というのは建前で、身分の差をキッチリつけておけば、下位貴族なんかは俺には近寄ることもできない。もしかしたら平民出身のヒロインも敬遠するかもしれないという、俺のための安全策。


 ちょっと愚痴も混じったけど、つまり皇族にふさわしくない奴に近づかれるのが嫌だし、ニコール一筋の俺がゲーム補正のせいでコロッと靡いて、ニコールに失望され、彼女を泣かせるのだけは絶対に嫌だ。泣くだけならまだしも、最悪ニコールは破滅エンドだからな。俺は推しの為なら割と何でもする人種なので、ニコールの破滅は何としても阻止する。だから俺はヒロインを全力で警戒していた。




 しかし、予想は外れてヒロインは学園に入学してこなかった。初年度で学生数が多くて見つけられないだけかと思ったが、そもそも入学していなかった。辺境伯家に引き取られたところまでは、調べさせて知っていた。だから当然来るものと思っていたのに、来たのは義姉と姪だけ。

 ちなみにヒロインの義姉のルサルカは、ニコールの取り巻きになって、ニコールと一緒になってヒロインをいじめる役柄。つまりニコールとルサルカは悪役令嬢で、ヒロインが攻略対象を攻略することで、将来的には破滅する。それも阻止したくてルサルカに聞いてみたら、「義妹との関係は良好ですわ」とのこと。実際ヒロインの事を話すルサルカから感じるのは、隔意や嫌悪どころか可愛がっている様子だ。おかしいな? 家でも苛めまくっていたはずだが。


 それとなくルサルカから情報収集すると、なんとヒロインは辺境伯の第3騎士団に入っていた。入団してすぐ従騎士に異例のスピード昇格を果たし、最前線を斬り拓く、聖女にして騎士。辺境伯騎士団の誇る「赤髪の剣鬼」の再来、「桃髪の聖騎士」なんてあだ名されていた。


 最近噂の「聖騎士」ってお前かよ! 何してくれてんだヒロイン! 逆に興味湧くわ!


 当初はヒロインが聖女ってことは、ホワイト辺境伯でも教会でも隠していたらしい。まぁ理由はわかる。聖女聖者を悪用されないようにってことだ。当然こっちにもその噂は来てるけど、ジジイも親父も聖女聖者を第3以外で運用する気はない。神罰怖い。なので隠していたが、人の口には戸が立てられないわけで、どっかから漏れたようだ。お陰で結構知れ渡っている。ただ、聖騎士が誰かって事までは、まだ広まってないみたいだが。


 

 そういえば、ルサルカと親しい奴がいる。親しくなったきっかけはそもそも、ヒロインという共通の相手がいたからだ。そういうわけでもう少し突っ込んで聞いてみたら、どうやらイザイア・グレイとヒロインは、幼少から交友があったようだ。


 ほほう? イザイアなら、俺の隣で寝てるぜ?  


 いや、「中級魔術の基礎なんて、僕には関係ない科目ですし」とかクソ生意気なこと言って、俺の隣の机に突っ伏して堂々と寝てる。確かにコイツにこの授業は低レベル過ぎて眠くもなるだろう。俺も皇族だから一応魔術は出来るけど、コイツの足元にも及ばないからな。はっきり言ってコイツは化け物だ。あの変人伯爵の孫なだけある。


 コイツは初陣で、とんでもねぇことやりやがった。普通は騎士団に前衛を守られた後衛の魔術師団が、まずは露払いでブッ放して、あとは騎士に支援魔術かけたり敵からの魔術攻撃を防御したり、適宜攻撃魔術を撃つっていうのが定番。

 なのに、コイツがノリノリでぶっ放した結果、最初の一発で、敵軍をほぼ全滅させた。

 

「これは祖父と開発した魔術で、ずっと試したかったんです」ニコッ☆


 じゃねぇよ。そんなノリで殺人童貞を捨てるな。マジで人格疑うわ。そもそもその魔術は、開発出来ても使用魔力量が膨大すぎて、伯爵ですら死蔵してた魔術だろ。人数を集めて時間をかければ可能なはずだが、「そんなの待ってたら戦争が終結してしまうではないですか?」じゃねぇよ。そんなに早く終わらねぇわ。

 いや、並の魔術師だとそれだけ時間がかかるって意味か? え? マジで?


 おかげであの頃の皇城は嬉しい悲鳴で大わらわだった。その後も立て続けに戦功を上げ、伯爵と共同開発した魔術や魔道具は数知れず。こいつは17歳にして、既に自力で伯爵位をゲットしていた。マジ化け物っていうか、もはやサイコパスだろお前。

 イザイアがこういう規格外のやつで、コイツの祖父も変わり者の有名人なものだから、「間違っても敵に回すな。仲良くしておけ」と親父に言われたので、仰る通り仲良くしてる。魔術に関することを除けば、イザイアはいい奴よ。うん、マジで魔術を除けば……。


 だってこないだなんか酷かったんだぜ。コイツが魔術書欲しいって言うから買い物に付き合ったら、全部俺に奢らせようとするんだぞ!


「お爺様から、魔術研究に関することでなら皇族を頼れと聞きましたので」ニコッ☆


 じゃねぇよ。確かにグレイ伯爵家の魔術研究は、皇室が支援することになってるのは知ってる。でもそれは領収書を添付した請求書を用意して城を通せよ。俺に直接たかるんじゃない。彼女にだってこんなにねだられたことはないぞ。皇族に金たかる奴なんて初めて見たよ。お前んちどういう教育してんだ。


 いや、脱線した。ヒロインのことだ。


 机上でスヤスヤ眠っているイザイアの頭を、丸めたテキストで引っ叩き、不機嫌そうに顔を上げるキチガイ魔術師に、一応授業中なので小声で尋ねる。


「お前、シヴィル・ホ」

「シヴィルがなにか?」

「反応が早すぎる。いや、それより皇族の言葉を遮」

「知り合いなんですか?」

「聞けよ」


 ほんっとにグレイ一族は人の話を聞かねぇな! 仕方がないので諦める。どーせいつも俺が諦めてますよ。俺皇子だよね?


「知り合いではない。お前が知り合いなんだろう?」

「知り合いじゃありません」

「同じ村の出身だろう?」

「そういう意味ではありません。彼女は僕の恋人です」

「フガッ」


 予想外すぎて鼻水が出た。コイツの恋人は魔術だろうと思っていたが、生身の恋人がいたのか。しかもヒロイン。予想外すぎて、今までコイツに質問しなかった俺は悪くないぞ。もっと早くコイツに聞けばよかったか?

 俺が驚いて混乱している間にも、珍しくも饒舌に女の話を語る化け物魔術師。


「同じ村で育ちました。彼女は子どもの頃から美しくて、それにとても強かったんです。彼女に負けないように、僕も魔術を鍛えてきた部分があるんです。今は彼女とは離ればなれになってしまいましたが、時々手紙でやり取りしていますよ。彼女は僕が迎えに来るのを待つために、騎士団で頑張っているんです」

「……お前、魔術以外の事でもそんなに喋れたんだな」

「時に殿下はなぜシヴィルのことを? もしかして興味が?」

「いや、そういう事ではないから心配するな。ホワイト辺境伯騎士団に、強い女性騎士がいるという話を聞いて、調べてみたら話によく聞くシヴィル嬢だったから、聞いてみようと思っただけだ。他意はない」

「そうですか」

「あと、何度も言うが皇族の言葉を遮るな。言葉遣いももう少しどうにかしろ。仮にも側近だろう」

「僕は殿下の側近なのですか?」

「まさかの無自覚! それなら何故お前はいつも私の傍にいるんだ」

「そりゃぁ、相性がいいというか、気が合うからですよ。僕は殿下の人柄が好きですしね」

「そ、そうか……」



 なんだよ。ちょっと調子狂うわ。コイツがこんな可愛いことを言うとは。ウッカリ嬉しくなっちゃったじゃないか。

 てっきり俺の事はATMかなんかだと思ってんのかと邪推したわ。いや、多分ちょっとは思ってるなコイツ。


 でも、コイツが俺の傍にいる理由が分かった気がする。ゲームでは本来俺の側近になるのは、魔術師団の団長の息子で、コイツじゃない。イザイアは攻略対象どころか、ゲームには出てこなかった。

 何しろコイツの祖父は人の上に立つタイプじゃなくて、ひたすら強さを求めるタイプだし、政治にも無関心だから本来俺に近づく要素がなかった。

 それがコイツがヒロインと恋人になったものだから、コイツは彼女のために頑張った。それで俺の親父の方がコイツに目をつけて、シナリオが変わったんだ。一応団長の息子も同じ部屋にはいるが、正直魔術師としてはコイツより見劣りするんだよなぁ。一応権威のある立場だから、そいつは兄貴が確保してるけどね。



 とりあえず、ヒロインはこの頭おかしい魔術師と恋人同士みたいだから、安心か。いや、安心か? 15歳ながら最前線で魔物ぶった切る剣豪と、17歳にして化け物みたいな魔術師のカップル。

 あれ、なんか不安になってきた。別の意味で不安になってきた。この2人にボニーアンドクライドされたらアウトだな。銀行どころか国レベルで奪われそう。

 これはイザイアもそうだが、ヒロインも手綱を握っておいた方がいいかもしれん。この2人に反逆されたら国が滅びかねん。


 しかし、ゲーム補正が怖いよな。ウッカリ俺がヒロインに攻略されることになったら、ニコールだけじゃなくてイザイアまで敵に回すことになる。それは確実に死亡フラグだから避けたい。

 ヒロインとの接触はしばらくは避けておこう。ゲームのシナリオは学園なのだし、卒業後なら多少安心できるか。よし、それからにしよう。


 いや、無理じゃん。今年俺らデビュタントじゃん。成人した貴族は全員出席義務があるから、流石にヒロインも来るはずだ。皇族の俺が欠席するわけにはいかないし、あっちはあっちで皇族に挨拶しないわけにもいかない。どうしたものか。

 そういえば、ゲームのシナリオではヒロインはデビュタントには欠席してたな。準備していたドレスを直前で義姉に台無しにされるんだ。それで病欠ってことにして欠席した。

 そのシナリオ通りなら欠席してくれそうだが、義姉との関係は良好なようだし、嫌がらせもされることなく、出席するだろうな。どうするべきか。ニコールとは親戚関係にあるようだし、ニコールに動いてもらうか? 

  とはいえ、まだ1月で学園も始まったばかりだ。デビュタントは12月だし、時間はまだある。


 しかし、よくよく考えると、これだけイレギュラー起こしてるんだから、ヒロインも俺みたいな転生者の可能性がある。騎士団に入ってるんだから、もし転生者ならシナリオガン無視派か、ゲーム自体を知らないんだろう。それなら大丈夫そうなのだが、やはり補正が怖い。無理はしない。命大事に。


 俺はふと思いついて、イザイアに再度尋ねた。


「そういえば恋人と言ったな? 婚約はしていないのか?」

「そうですね」

「だが、各所から婚約の申し込みが来ているだろう?」

「そうですが、ホワイト家からの申し込み以外は断るように言ってますから」


 なるほど。面倒ごとは執事に丸投げか。多分コイツはどこの誰が申し込みをしてきたのかすら把握していない。うん、そういう奴だって知ってる。コイツは誰に対しても大体失礼。ヒロインはコイツのどこが良かったの?


 となると……ついでに他の攻略対象及び不幸な被害者(加害者は当然イザイア)を生まないように、コイツとの噂も広めといてやるか。

 普通の伯爵じゃなく、噂に名高いグレイ伯爵(孫)相手なら、辺境伯も婚約を許すかもしれんし、噂が広がりまくれば婚約を進めるしかなくなるかもしれん。さっさとくっついてくれた方が、俺も安心だしな。そうなればデビュタントで遭遇することがあったとしても、危機を回避できる確率は上がるはずだ。よし、そうしよう。俺に感謝しろよ、イザイア。




 ジョナサン・スカーレット・アズメラ。彼はこの国の皇子。なまじ中間管理職だった前世を覚えていたせいで、苦労性な少年である。


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