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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第2章 少女期-未成年―

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2-37 かくあるべし

 冬休みが終わった。正直なところ、私は怯えながら休み明けに出勤した。ライアン様が死んだのは私のせいだと、誰かに責められるのではないかと怯えていた。けれど、そんなことはなかった。

 特に討伐に同行していた騎士達は、私が大怪我をしたのも知っていたから、むしろ心配してくれた。


 そのことに少し安堵して、逆に罪悪感も感じたりしながら、日常が戻ってきた。休み明けの初日、ルパートに呼び止められた。ルパートの班の2人も一緒だった。ルパート達の担当騎士はライアン様だった。3人の顔を見ていると、どうしてもライアン様の事を思い出してしまって、我慢できずに泣いてしまった。ルパート達も、泣いていた。

 4人で身を寄せ合って泣いていると、少し落ち着いてきたルパートが提案した。


「教会に行かないか?」

「教会に?」

「僕の個人的な用事もあるんだが、君は教会で告解を受けた方がいいんじゃないかって……」

「僕も懺悔したいことがあるんだ。ライアン様には沢山迷惑をかけたから……」

「うん、僕も……」


 3人はライアン様の為に懺悔したいのだと言う。私もサフィナお義姉様の話に従軍神官が出てきたのを思い出した。だから、同行すると返事をした。


 3人は寮住まいなので、ウチの馬車で教会へ向かった。教会の懺悔室には、始めて来た。個室になっている狭い部屋は、木の格子がしてあって、その格子に装飾がされているものだから、向こうの神官の顔は良く見えない。


「告解を」


 老いた神官の静かな声に導かれて、私は懺悔を始めた。討伐のこと、自分の罪のこと、キナリー伯爵のこと、自分の将来はかくあるべきか。

 今まで悩んで考えていたこと、それを全部ぶちまけた。言いながら泣いてしまったけれど、ちゃんと言えた。サフィナお義姉様の言ったとおり、少しだけスッキリした。

 私の話を聞いた神官は、やはり静かな声で告げた。


「自責をするということは、裏を返せば謙虚であるということ。悪いことではありません。後悔をするということは、反省できるということ。悪いことではありません。あなたは今、悩み苦しみ、その渦中にいる。それは、神が与えた試練なのです。あなたがそれを乗り越え、後悔を反省に変えて立ち上がった時、それがあなたの成長となります」

「成長……」

「はい。あなたはまだ若い。未来ある若者です。未来があることを忘れなければ、あなたの苦しみはあなたを成長させる。悩み、苦しみなさい。嘆きなさい。そして立ち上がりなさい。その向こう側では、神があなたの成長を祝福するでしょう」


 苦しみの向こう側には成長がある。これを乗り越えたら、私は成長できる。これは神が与えた試練で、私がそれを乗り越えたら、私は成長できる。クヨクヨばかりしていないで、反省したことをちゃんと次に活かせるように考えれるようになればいいんだ。


「はい……はい。ありがとうございます」

「それに、あなたを守った騎士は、あなたの泣き顔を見て喜ぶでしょうか? 姪御のようにかわいがられていたのでしょう? 彼の愛した可愛らしいあなたでいなさい。それが彼の喜びであるはず」

「はいっ……」


 泣きながら頷いた私に、神官は優しい声で「神の祝福があらんことを」と囁いて、退室した。

 私も退室すると、既にルパート達も退室したようで待っていた。3人とも目が真っ赤。なんだか気恥ずかしい思いをしながらも、教会から出て馬車に乗った。


「ルパート」

「なんだ?」

「誘ってくれて、ありがとう。神官様にお話を聞いていただけて、少しすっとしたわ」

「……僕も。また行こう」

「ええ」


 サフィナお義姉様の言ったとおり、人に話を聞いてもらうって、大事な事だったんだ。しばらく教会に通ってみようかな。人に話を聞いてもらって、それを受け止めてもらえるのは、なんだか心が洗われるみたいな気持ちがした。



 そうして帰宅すると、夕食の席で父から話があった。もうそろそろ12月になる。12月に入ったら社交シーズンが始まるので、父は勿論奥様も家族のほとんどが皇都アガルディアに行くと言う。


「お前はどうする?」

「私は……」


 討伐から帰ってきた時、祖父に騎士を辞めたいと泣きついたのは、恐らく耳に入っているのだろう。けれど、私はライアン様に約束した。立派な騎士になるって。だから、騎士の仕事は続けるって決めた。


「私は残ります」

「そうか」


 社交シーズンは帝国議会に合わせたものだ。帝国議会は1月から5月までで、その間父達は皇都だ。代わりに領主代行としてギデオンお兄様、ギデオンお兄様の補佐でトーマス、仕事があるトバイアスお兄様と私が居残りだ。12人家族の内4人しか残らないし、半年近くも離ればなれなのは、流石に寂しいなぁ。たまに連休貰って、皇都に会いに行こう。



 そんな話をした翌日、バレンタイン団長に呼び出された。初めて入った団長室は、デスクや本棚なんかの最低限の家具しかなかった。進められてソファに腰かける。


「此度の討伐、ご苦労だった」

「痛み入ります」

「ライアンのことで、随分と塞ぎこんでいたようだな」

「……はい」

「わかっていたはずだ、腹を括れ。その為に小姓や従騎士という期間が設けられている。このようなことは今後も起きる」

「……わかっています」


 勿論わかってる。ちゃんとわかっていた。わかっていたけれど、その衝撃が想像以上だっただけ。ちゃんと、わかってる。

 お叱りに悄然と項垂れる私に、団長はやはり厳しい表情のまま続けた。


「強くなれば、全てが解決する。その程度の問題だ。騎士は力こそがすべて。強くなれ」


 なんという暴論。と思ったけれど、確かに騎士にとってはそうなんだよね……。ライアン様のことだって、私が強ければ起きなかった問題だ。強ければ解決できた。

 あーもう! 脳筋で全部片付いちゃうのが、なんか悔しい!


「わかってます!」

「よろしい。では本題だ」


 あ、お叱りが本題じゃなかったのか。なんだろう。首を傾げる私に、団長が話を切り出した。


「先日の討伐戦績、および勤務態度、成績を加味して検討会議を開いた。今期の1月に昇格試験がある。お前、従騎士昇格試験を受ける気はあるか?」

「えっ?」


 従騎士昇格試験を私が? でも、普通は15歳以上のはずだ。

 その疑問は予測済みだったらしく、説明してくれた。これまでも年齢以下で従騎士昇格試験を受けて合格した人はいるらしい。優秀な人材を、いつまでも下の役職で使う理由などないからだ。


「ザックは勿論、幹部のほとんどはお前の受験を推薦した。お前にその気があるなら、受けさせてやるが。どうだ?」


 私はまだ入って数カ月だけど、幹部たちが推薦してくれるのであれば、是非もない。


「はい! ぜひお願いします!」

「よろしい。ではそのように手続きしよう」

「ありがとうございます!」


 ちょっと驚いたけれど、願ったりかなったりだ。従騎士になったら、戦術論とかそういう勉強も始まるんだってニーナ先輩達から聞いている。そういうお勉強も出来る様になれば、私はもっと上手く戦えるようになるはずだ。


 強くなれば、全てを解決することが出来る。それが騎士の生きる世界。

 強くなるために、私は貪欲に突き進むことを選んだ。


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